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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

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第34話 三人で力を合わせれば

 アリーゼは倒れ伏す父を見て、心の奥底から煮えたぎるような感情が湧き上がってくるのを感じていた。


 ……許さない。

 絶対に許さない。


 シャッ、と剣を引き抜く。

 そしてゆっくりと竜人の方に歩き始めた。


 竜人はそれを見て、三日月型に口元を歪める。

 そして振り上げた右手を父に向かって思いきり振り下ろし――


 ――ガキンッ!


「――シャァッ!?」


 竜人は驚きの声を上げた。

 ものの一瞬の間にアリーゼが竜人の懐に入り込んだのだ。

 ……一体いつ魔力を練り上げた?

 竜人は不思議に思いながらもバックステップを取って距離を置いた。

 仕切り直しだ。


 父――デニスは顔を上げると、アリーゼの方を見た。


「アリー、ゼ……その魔力の質、もしかして……」

「はい。お母様から分けていただきました」


 そう。

 まだアリーゼは身体強化するための魔力の量と質が根本的に足りていなかった。

 だから母――レーアから魔力を分けて貰っていたのだ。

 デニスは自分の娘からその母の懐かしい魔力を感じて、二人が出会っていたことを悟った。


 ならば――


 デニスは思う。

 この強敵も。

 十年前は到達することも出来なかったこの強敵を。

 ()()()戦えば勝てるかもしれない。


「アリーゼ」


 デニスはグワングワンと揺れる視界の中、地べたに這いつくばりながらも手を伸ばした。


「……お父様」


 アリーゼはその手を取る。

 温かい手だ。

 大きな手だ。

 全てを包み込んでくれる、大きな手。


 アリーゼは思い返す。

 そういえば……こうしてちゃんと、父の手を握ったこと、なかったなと。


 剣ダコが出来ていて、ガッシリとしている。

 頼りになりそうだ。

 ……いや、実際に頼りになる。

 その手から、父の温かくも優しい魔力がアリーゼに注がれていった。


「頼む……アリーゼ……。俺は、アリーゼを信じている」


 アリーゼは前を向いた。

 勝てる気がする。

 今なら、三人が力を合わせている今なら、どんな敵にだって勝てる気がする。


 父が信じてくれている。

 母が見守ってくれている。



 ――負けるわけがない。



 剣を握り直した。

 自然と前を向き、胸を張った。


 デニスはぼやける視界でそんな娘を見て、胸が張り裂けそうだった。

 ああ……俺のやってきたことは間違いじゃなかったんだ、そう思った。

 アリーゼは立派に成長している。

 優しく、強く、逞しく、全ての困難を弾き返せるような娘に成長している。


「アリーゼ……頑張れ……」


 震える声でデニスは言った。

 アリーゼは振り返らず、竜人を見据えながら小さく頷いて――




「はい。任せてください、お父様」




 そう言った。


「シュゥウウウウウウウウウウゥウウ!」


 竜人が唸り声を上げる。

 そして左腕を振るった。

 瞬間、左腕が槍状に変形する。

 直後、アリーゼの前に竜人が現れた。


「がぁっ……!」


 槍の攻撃はなんとか間一髪で避けた。

 が、その直後に襲いかかってきた剣戟を避けきれなかった。

 アリーゼは無様に吹き飛ばされ転がる。


「ああぁああああ、みっ、右腕が……ッ!」


 なんとか切り離されはしなかったが、大きく傷をつけられた。

 筋肉まで斬られてこれでは動かせそうにない。


 剣が目の前に転がっている。

 だが、右腕が使えないのでは拾うことも出来ない。


 ――ああ、ここで負けるのか。

 ――ここで私たちはお終いなのか。


 諦めの感情が脳内を支配し始める。

 

 しかし。

 そんな時だった。


 竜人がアリーゼを殺そうと、歩み寄ってきているのが見えた。

 恐怖を煽るように、ゆっくりと。


 ガチガチと歯がぶつかり合い、音を鳴らすのを感じた。

 濃厚な死の香りが感じられた。


 アリーゼの前まで来ると、その左手を振り上げて――


 ドンッ、とデニスが竜人に体当たりをかました。

 二人纏めてゴロゴロと地面を転がる。


「しゃぁあああああああああああああああああぁああああ!!」


 竜人は怒りの雄叫びを上げて、デニスを蹴り飛ばした。


 それを見た時、アリーゼは思い出した。

 今までのことを、思い出していた。


 毎日、父と特訓してきたんだ。

 最初は父の真似をしたいだけだった。

 けど、あの日から父の隣に立ちたくて特訓するようになっていた。


 あの日。

 孤児院で父に助けて貰ったあの日。

 アリーゼは自分の無力を悟った。

 同時に、父の偉大さを感じ取った。


 自分はまだまだ、父の隣に立つに相応しくない。

 その時は、そんなことを痛感した。


 だから日々の特訓をやめなかった。


 今、自分は隣に立てる存在になれているだろうか?

 ……いや、魔力を分けて貰って、戦えているだけだ。

 それに、そこまでして貰って、こんな無様な姿を見せて――。

 まだまだ自分が隣に立つには早い。

 でも、だからこそ、自分は父を全力で、命をかけて守らなければならない。


「うぁああああああああああああああああああああぁあぁああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああぁああ!!!!」



 掠れるほど叫んだ。


 立ち上がった。

 立ち上がれた。


 剣を振るう。

 剣を振るう。


 多少の傷は気にしない。

 切り裂かれ、切り裂く。


 いけ。

 いけ。

 まだ、いける。


「私はまだ、負けてないッ!!」


 カッ、と光がアリーゼを包んだ。

 分けて貰った魔力がより温かさを帯び、アリーゼに適合していく。

 デニス、レーア、アリーゼの魔力が混ざり合い、一つの魔力の形に変質したのだ。


 これなら勝てる。

 アリーゼは自然とそんなことを思った。


 左手で剣を握った。

 それで十分だった。


「しゃぁあああああああああああああああああああああぁあ!」


 竜人は咆哮を上げ、アリーゼに接近してくる。

 が、その速度は遅い。

 簡単に見切れてしまう。


 槍を躱した。

 剣を躱した。


 アリーゼは蹴りをいれる。


 ――ゴンッ!


 と、竜人は吹き飛ばされ、壁に思いきり叩きつけられた。


 そしてアリーゼは倒れ伏す竜人に歩み寄り、そして――


 剣を振り下ろそうとして、一瞬躊躇する。

 この竜人だって、必死に生きているだけなのではないか、と。


 しかしアリーゼは思い出していた。


『人の命の価値は、人によって大きく変わる』


 そうだ。

 アリーゼは以前、そのことをよく学んだ。

 それに、理解し合えないほど価値観が違う人がいることも、よく学んだ。


 アリーゼはもう躊躇しなかった。


 ザクッ、と剣を振り下ろし、竜人の命を奪った。

 命を絶たれた竜人は、徐々にその身体を灰にしていった。


 背後で門が開く重厚な音が聞こえてくる。


「アリーゼ! アリーゼ! アリーゼ!」


 母の悲痛な叫び声が聞こえる。

 しかしその声に応える前に、アリーゼの意識は徐々に遠ざかっていくのだった。

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