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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

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30/50

第30話 私はもう泣かないから

 その女性は両手に細剣を持っていた。

 年齢は二十歳中盤くらいだろうか。

 美しい女性だった。

 剣身についた血糊を振り払うと、鞘に戻してアリーゼに近づいてきた。


「…………もしかして、アナタは」


 女性はアリーゼのことをハッキリと認識すると、目を見開きその奥の瞳を揺れ動かした。

 そう呟いた声は、どこか乾いている。

 それからスッと目を細めると、どことなく怒りを湛えながら聞いた。


「アナタ、名前は?」

「私はアリーゼです。アリーゼ・バタイユです」

「……やっぱり」


 アリーゼの言葉に女性は小さく呟いた。

 その声は小さすぎて聞き取れなかったが、聞き直す前にその女性は口を開いた。


「何でこんなところにいるのかしら? お父さんはどうしたの?」

「……お父さんがここにいるんです。私、お父さんに会いにここまで来たんです」


 アリーゼはどこか後ろめたくて自然とそう言う声は小さくなる。

 しかしその声を的確に聞き取った女性は、ハッと目を見開いた。


「そう……そうなのね、そういうことね……」


 ブツブツと独り言を呟いている。

 それが何を意味しているのかはアリーゼには分からない。

 が、一人で勝手に納得したということだけは分かった。


 その女性はアリーゼの方まで近づいてくると、しゃがみ視線を合わせてこう優しく言った。


「一人でこんなところ来たら、危ないでしょ? 駄目よ、危険なことしちゃ」

「……ごめんなさい。でも、お父様が危ない目に遭っているって考えたら、いてもたってもいられなくて」


 アリーゼの心は罪悪感でいっぱいだった。

 しかしどういうわけか、その女性はアリーゼのことをいきなり抱きしめた。

 そして震える声でこうアリーゼに聞いた。


「アナタはお父さんが大好きなのね?」

「……はい」

「お父さんが危ない目に遭ってるって思ったら、いてもたってもいられないくらいに」


 アリーゼは黙って頷いた。

 ……心地良い。

 何故だか分からないけど、この女性に抱きしめられると、アリーゼは心が落ち着く感じがした。


 女性はそれだけ聞くと、アリーゼを離して立ち上がった。

 そして頭を撫でて言った。


「よしっ! まあここまで来てしまったものは仕方がないものね! 一緒に出口探しましょうか!」


 そう言う女性の服の裾をアリーゼは掴んだ。

 それを見て女性は首を傾げる。


「どうしたの?」

「……お父様を、探さないと」


 女性は大きく目を見開いた。

 その瞳は揺れ、彼女はしばらく言葉を見失っていた。


「そう、ね……。うん、そうよね。じゃあ、一緒に探しに行きましょうね」

「…………ッ! 良いんですか!?」

「ええ。アナタだって、お父さんを助けたいんでしょ?」

「はっ、はい! もちろんです!」


 こうして女性とアリーゼは行動を共にすることとなった。



   ***



「あの……お名前はなんというのでしょう……?」


 アリーゼは先を歩く女性に遠慮がちに尋ねた。

 彼女は立ち止まって振り返って言った。


「私の名前? まだ言ってなかったっけ? 私はレ……ううん、私はアデーレよ」

「アデーレさんですね! これからよろしくお願いしますね!」


 そう頭を下げるアリーゼ。

 それを見てアデーレはにっこりと微笑んだ。


「ふふっ、挨拶できて偉いわ」

「挨拶くらい出来ます! 私だってもう11歳なんですから!」


 そう言うとアデーレは少し寂しそうな顔をした。


「そう……もう11歳なのね」

「何か言いましたか?」

「いいえ、何も。それよりも、お父さんのお話、聞かせてくれる?」

「もっ、もちろんです! 私のお父様はとても優しくて強くて、格好よくて――」


 歩きながらも、アデーレの質問にアリーゼは必死になって話をする。

 どれだけ父が凄い人か。

 どれだけ自分は父に愛されているか。

 それらのことを全力で、心を込めて、アリーゼは語った。

 アデーレはそれを黙って聞いていた。


「というわけで、私はお父様が大好きなのです! 本当に……大好き、なの……です……」


 アリーゼは話していて泣きそうになった。

 一年も帰ってこず、不安で、心配で、辛かったのだ。

 以前までのアリーゼなら、泣いていてもおかしくはなかった。


 でも……


「泣いていいのよ?」

「いえ、私はもう泣きません。以前、お父様が私を助けてくれたように、今度は私が助ける番なので、ここで泣いてはいけないのです」


 アリーゼは胸を張って言った。

 その顔は歪みそうになっていたが、ちゃんと前を向いていた。


「…………立派に育っているのね」


 ポツリとアデーレがそう言った。

 アリーゼはそれを聞き逃さず、問いただそうとした。


「それってどういう――?」


 しかしその時、前の角からゴブリンが数体出現した。


「ぐぎゃぎゃ!」

「ぎゃぎゃ!」


 それを見たアデーレはアリーゼにこう尋ねた。


「アナタ、戦える?」

「はい。もちろんです!」

「それじゃあ――共闘といきましょうか」


 そう言ってアデーレは腰の二本の剣を鞘から抜いた。

 アリーゼも武器庫から持ってきた短めの剣を手に取るのだった。

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