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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

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第27話 悪口を言い合える気楽さ

 次の日。

 作戦は早朝から開始されることとなっていた。

 朝日と共に目覚め、近くの川で顔を洗う。


「ようやくだな」


 ジンが近づいてきて言った。


「ああ。ようやくだ」


 長かった。

 10年も待った。

 俺は10年もこの時を待っていたのだ。


『永遠の愛を誓いますか?』

『誓います』

『誓います』


 その時の鐘の音の響き。

 飛び去っていく鳩の群れ。

 これらの風景は鮮明に思い出せるのにどうしても忘れてしまったことがある。


 レーアはどんな顔で、どんな表情をしていたっけ……?

 もうあまり思い出せない。

 俺は思い出したかった。

 彼女の声、顔、仕草、そして表情。

 それらをどうしても思い出したかった。


 川の冷たい水で顔を洗い、軽装の鎧に着替え、剣を持ち、作戦開始を待つ。

 テントの外で待っていると、ラッパの音が草原に響き渡った。

 作戦開始の合図だ。

 俺たちは野営地の外で集まり、団長が大声で言葉を発した。


「これより〈世界迷宮〉攻略作戦を開始する! 作戦は事前に伝えていた通り変更はない! 皆、死なないように! それでは、作戦を開始する――!」


 俺たちはそれぞれの班に分かれて行動を開始する。

 俺の班はジン、そして昨日俺に団長のことを伝えに来た騎士クリストフ、そして女騎士ミシェルの四人であった。

 俺とクリストフが前衛、ジンが後衛で魔法、ミシェルが回復といった構成だ。


「デニスさんと一緒の班になれるなんて光栄です……!」


 クリストフは目を輝かせながらそう言う。

 しかし俺は頭を掻きながら言った。


「俺たちの班に組み込まれたってことは、おそらく〈世界迷宮〉の一番深部に向かう班に組み込まれたってことだ」

「はい、それはもちろん承知の上です! 俺はこの日のために自分を鍛えて騎士団トップの成績をキープしていたんですから!」


 騎士団トップの成績、か。

 俺に憧れてそこまで努力できるのは素直に凄い。

 だが何故彼がそこまで俺に憧れるのか分からなかった。

 クリストフの同僚、ミシェルは小さくため息をつき小声で言った。


「またクリストフのうっさい自語りが始まった」

「ん? ミシェル? 何か言ったかな?」

「なにも言ってませ~ん。気のせいじゃないかしら?」


 そういって睨み合う二人。

 犬猿の仲といった感じなのだろうか。

 本気で嫌い合っている感じではないから、おそらく気安い仲なのだろう。

 相手の悪口を言っても互いに不快にならないほど、気心が知れているのだと思われる。


 ……そういえば。

 俺も結婚する前のレーアとは似たような感じだったことを思い出した。

 俺はその時、あまり優良児ではなく、レーアに小言をチクチク言われていたっけ。

 でもそれが本気で嫌いだから言っているわけではなく、そう言ったコミュニケーションだったのだ。

 そして俺も返す言葉でレーアのことをチクチクと言い返していた。


『まぁたサボってる。アンタ本当に人間として終わってるわね』

『へいへい。授業なんて退屈なだけだろ。禄に戦ったこともない教師の持論なんて聞くだけ損だ』

『損得で物事を考えているから嫌われるのよ。自覚ある? アンタ、クラスメイトから嫌われてるのよ?』

『知ってるよ。もちろんレーアにも嫌われているということもね』


 そんな会話をしていたというのに、よく結婚できたものだ。

 案外気を使い合うより、悪口を言い合える気楽さの方が居心地がよく感じるものなのかもしれない。


 そんな会話をしながら俺たちは〈時空の狭間〉目前まで来た。

 そこには西の森の面積の半分を埋め尽くすほどの大きさのポッカリと開いた暗い穴が、横たわっていた。


「……これが〈時空の狭間〉」


 ゴクリとミシェルが唾を飲み込んで言った。

 俺とジンは既に見たことがあるからその恐ろしさが分かっていたが、クリストフとミシェルは始めてみるのだろうしビビるのもよく分かる。

 そのどす黒さと禍々しさは、他に比類ないレベルだった。


「さて、行くか」


 俺が言うと、それに呑まれそうになっていたクリストフとミシェルはふと我に返った。

 それからどこかぎこちなく頷いた。


「はい、行きましょう」

「……ちょっと怖いけどね」

「ジンも良いか?」

「もちろん。俺たちはもう慣れてるからな」


 そして皆の覚悟を確認したところで、俺たちは同時にその穴へと飛び込むのだった。



   ***



 穴に入った瞬間、視界が歪む。

 その後すぐに暗転し、視界が戻ってきた頃には薄暗い洞窟の中に転移していた。


「……ここが〈世界迷宮〉」


 緊張を孕んだ声でクリストフが言う。

 そんな彼にジンがこう言った。


「まあ気持ちは分かるが、そう身構えるな。何せ俺たちにはデニスがついてるんだからな」

「おい、俺のことをそんなに過信するな」

「何を今さら。ま、実際に戦ってみればどんなもんか分かるだろ」


 ……はあ。

 コイツの気楽さは助かるのか危険なのか判断しづらいんだよな。

 かなり楽観が入っているから、危険な気もするけど。

 ただ根拠はちゃんと彼になりにあるから、そうでもないとも言える。

 難しいところだ。


 しかし今回は良いように作用したようで、クリストフとミシェルは気を引き締めるように頷いた。


 洞窟内は鍾乳石ような鉱石がつららのように垂れ下がり、それが淡い青白い光を放っている。

 俺たちがいるのは目の前に水溜がある少し開けた広間だった。

 ちなみに洞窟内は風が少し吹いていることから、何処かに外に通じる出口があるのだと思われるが、それを見つけられた人はいまだいない。


「……と、風が変わったな」

「ああ。大きいのが来るぞ」


 俺の言葉にジンが頷いて同意する。

 その言葉を聞いたクリストフたちも表情を変え、隊列を組み直した。

 しばらく待っていると、ドシンドシンと地揺れするような足音が近づいてくる。

 出てきたのは巨大なオークだった。

 しかし地上のオークと違い、赤色の肌に赤い目が特徴的だ。

 それに大きさも1.5倍くらいあり、威圧感が全然違う。

 この〈世界迷宮〉では基本的に全ての魔物の肌が赤く、瞳も赤く輝いている。

 そして地上よりも数段も大きい体躯をしていることがほとんどだった。


「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアア!!」


 オークは俺たちを見つけると、咆哮を上げた。


「……デカい」

「これは……ヤバいですね……」


 ミシェルとクリストフは頬に冷や汗を垂らしながらそう硬い声で呟いた。

 しかし俺は剣を腰の鞘から引き抜き、ゆったりした動作で近づいていく。


「ちょ、デニスさん!」


 そう援護しに来ようとするクリストフをジンが片手で止めていた。


「まあ、見てなって。デニスは今日はかなり気が立ってるからな。ドデカいのが見られるかもよ」

「そんな……! いくらデニスさんでもあのオークは……!」


 緊張感のはらんだクリストフの言葉だったが、ジンはそれでも飄々としていた。

 俺は片手で剣を二回、振って調子を確かめると、右上に高々と構えた。


「……あの構えは?」


 ミシェルが訝しげにそう眉を寄せる。

 しかし俺は気にせずにスッと、バターをナイフで裂くように剣をゆったりと振るった。


「ガァッ……? ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアッ……アアァアアアアア……」


 オークは上体を斜めに切り裂かれ絶命した。

 ぶしゃあと鮮血が噴水のように空高く舞い散った後、その勢いで下半身もパタリと倒れた。


「流石は絶殺(ぜっさつ)のデニスだぜ。こんくらいは余裕だな」


 そう調子良さげに近づいてくるジンに俺は呆れの表情を向ける。


「もうちょっと緊張感を持てよ」

「デニスがいるのに、この階層でどうやって?」

「……はあ」


 俺は呆れて返す言葉もなくため息だけをついた。

 ちなみにクリストフとミシェルは驚き固まってしまい、再起するまでに時間が掛かるのだった。

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