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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

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第25話 なぜレーアはいなくなったのか

 山登りでアリーゼとの仲を取り戻したと思ったら、手紙が来た。

 その手紙は()()()からの手紙で、真っ白で無機質な封筒に入っていた。


『久しぶりだな、バタイユ元団員。……いや、今は家を継いでバタイユ侯爵か。まあ敬称などどうでもいい。西の森で再びアレが復活の兆しを見せていた。我々〈アルテミス騎士団〉は調査に赴き、残り二週間だということを確認した。そこであの悲劇をもう一度引き起こさないためにも、国中の強者に声をかけている。作戦に参加するかはバタイユ侯爵に任せる。そちらにも今は家庭があるのだろう? 最も、アレの向こう側にまだレーア団員がいる可能性がある。そのことを考慮した上で熟考願いたい』


 そんな簡素な手紙だった。


 ……そうか、()()が復活するのか。

 以前から言われていた。

 アレは再び復活し、あの時の悪夢が再び訪れるだろう、と。


 アレ。

 それは〈時空の狭間〉と呼ばれる巨大な穴だ。

 その穴の向こう側には〈世界迷宮〉と呼ばれる巨大ダンジョンが存在していた。

 そこは現世とは隔絶した空間で、時間軸が違うみたいで、腹も減らないし歳も取らない。

 ただし巨大な魔物たちがうようよとひしめき、正しく地獄のような場所であった。


 12年前。

 アリーゼが生まれる2年前。

 突如として西の森に現れた〈時空の狭間〉から大量の強力な魔物が現れた。

 その時、学園を卒業したてで騎士団に入団したばかりの俺とレーアは掃討作戦に参加した。

 かなりの被害を出しながらも、地上に出てきた魔物たちを討伐出来た。

 そしてそれから2年の間で俺たちは結婚し子供を産み、その直後〈世界迷宮〉攻略作戦に参加することになった。


 定期的に現れる魔物たちをどうにかしようと〈時空の狭間〉にこちらから挑もうという作戦だった。

 その作戦が立案された時期は、本当に俺たちにとってタイミングが悪かった。

 生まれたばかりのアリーゼを家に残し、俺とレーアはその作戦に参加することになった。


 そこで紆余曲折あり、〈時空の狭間〉と閉じることに成功したが……レーアは〈世界迷宮〉に閉じ込められた。

 俺はそのことが受け入れられず、3年も腐っていたのだ。

 アリーゼとようやく向き合えるようになったのは、三年が経ち、彼女が悪役令嬢であると分かってからだった。


 ――そう。

 もしかしたら、そんな経緯であるから、〈世界迷宮〉ではまだレーアが生きている可能性があるわけだ。

 その希望を俺はまだ、捨てきれていなかった。


 ――またレーアに会いたい。

 もう一度だけでもいいから、会いたい。


 永遠の愛を誓い合った仲なのだ。

 俺はレーアと彼女との子、アリーゼのことしか、もう愛するつもりはない。


 しかし――。

 俺が今、その作戦に参加すると、アリーゼを残していくことになる。

 それだけが少し心配だ。

 まあこの屋敷には使用人がたくさんいるし、セバスだっている。

 それに彼女だってもう10歳だ。

 過保護になりすぎるのも良くないとも思う。


 そんな風に悩んで、結局結論が出ないまま俺はアリーゼと遊ぶ時間を迎えてしまうのだった。



   ***



「お父様? どうしたのですか?」


 午後、今日はアリーゼとゆったりお茶を飲んでいたところだった。

 しかしいつの間にか俺は上の空だったみたいで、彼女が心配そうにこちらを眺めてきていた。


「……いや、どうもしてないよ」

「そうでしょうか? かなり真剣に悩んでいる様子だったのですけど……」


 ……そうか。

 俺はアリーゼにそんな表情を見せてしまうほど思い詰めていたのか。


「ごめんごめん。大丈夫だよ」


 俺がそう言うと、アリーゼはガバッと身体を机の上に乗り上げて、顔を近づけてきた。


「お父様! 一人で抱え込まないでください! 私にも相談してくれないと……私、グレてしまいますよ」


 そう言われ、俺はハッとした。

 確かにあのプチ反抗期は素直になれなかったことが原因で引き起こされたんだ。

 ここは強がるべきところではないのかもしれない。

 アリーゼのことを子供だと下に見てはいけないんだ。

 彼女だって、俺のことをよく見て、知ろうとしてくれているのだから。


「すまない。……話すよ」


 そう言って俺は〈アルテミス騎士団〉からとある話が来たこと。

 その話に乗ればレーア――母に会えるかもしれないこと、などをアリーゼに話した。


「なるほど……。お父様の気持ちとしては、行きたいんですよね?」

「でも……」

「でも、アリーゼを残して行くのは心配、ですか?」


 見透かすような視線で俺を見ながら、アリーゼは言った。

 ……ああ、そうだ、そうだな。

 俺はやっぱりアリーゼを残して死地に赴くのが、とても心配なのだ。

 彼女の言葉に俺は頷く。


「ああ。俺はアリーゼを残して行くのがとても心配で、怖いんだ」

「でもお父様は絶対に帰ってきてくれるのですよね?」


 その目は、信頼の目をしていた。

 アリーゼは俺に全幅の信頼を寄せていた。

 確かに不安だ、心配だ、アリーゼを残していけないとまだ思う。

 でも、ここで逃したら絶対にもうレーアには会えないのだ。


「ああ、絶対に帰ってくるよ」


 俺は自分の不安を押し殺して、そう言うしかなかった。


「それなら、行ってきてください、お父様。私は家でずっと待っていますので」

「……ありがとう、アリーゼ。俺は行ってくるよ」


 そうして俺は二週間後、レーアに会いに死地に赴くことが決まったのだった。

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