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転生して十年が経った。悪役令嬢の父になった。  作者: AteRa
第一章:再生の物語

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第19話 最悪の初対面

「おい、アリーゼ・バタイユはいるか!?」


 ベルジェ公爵家の長男、ディルクはみんなの前でそう名指しする。

 それを聞いた周囲の人たちはキョロキョロと辺りを見渡した。

 アリーゼはそれを聞いて一瞬目を見開くが、すぐにキッと壇上を睨みつけると一歩前に出た。


「ここにいますけど?」


 完全に怒っている声だった。

 しかしディルクはそのことにも気がついていない様子で、壇上から下りてきてアリーゼの前まで来た。

 そして彼女の前で仁王立ちをすると、ビシッと指を差して言った。


「お前、自分より強いヤツとは婚約しないようだな?」

「ええ、当然です。私を守れないような殿方と婚約したって、意味ないと思いませんか?」


 不遜にもそう言うアリーゼに、俺の肝は少しばかり冷える。

 が、止めたりはしない。

 これは彼女の問題なのだ。

 もちろんいざとなったら助け船は出すが、それ以上の介入は過保護になってしまうだろう。

 この問題は彼女のやりたいようにやらせるのが、何より自立に役立つと俺は信じている。


「それはそうだ。その考え方には、俺も同意する」


 アリーゼの言葉にディルクはそう頷いた。


「そうでしょう? だったら諦め――「いや、諦めるつもりはない」


 ディルクはアリーゼの言葉に被せるように首を横に振った。

 言葉を遮られ、アリーゼはあからさまに不機嫌になる。


「……だったらどうするというのですか?」

「決まっているだろう? 俺と決闘をしろ。そこで強いことを証明してやる」



   ***



 お披露目会は一時中断となり、ベルジェ城の中庭にみんなで来ていた。

 俺らの中心には子供用の木剣を手に持ったディルクとアリーゼが素振りをして調子を確かめている。

 しばらく二人は身体を慣らしていた。

 が、唐突に慣らしを終えたディルクがキッと木剣の切っ先をアリーゼに向けた。


「もう始めるぞ」

「ええ、大丈夫です」


 覚悟を決めた表情のディルクと、まだ不機嫌そうなアリーゼ。

 ぱっと見ではディルクの方が優勢そうだが……。

 審判を頼まれていた俺は、そう分析しながらも試合開始のためのコイントスを行った。


 指でコインを弾き、クルクルと宙に舞う。

 それがゆっくりと地面に落ちていき、石畳の床にカツン、と当たると――


「――ハッ!」


 ディルクが早速アリーゼに仕掛けた。

 子供らしい素早さをもってアリーゼに襲いかかる。

 両手で剣を持ち、右下から左上へ、砲丸投げのような要領で剣を振るう。

 しかしアリーゼはそれを半歩引いただけで避けた。

 ディルクは遠心力を生かすために重心を後ろに引いており、振り切った後、右足を後ろにずらしてバランスを取る。

 その微かな隙を見逃すアリーゼではなかった。

 魔力を自分の足に集中させ、駆け出すとともに、剣を頭上に振りかざした。


「やぁっ!」


 そしてディルクに向かって振り下ろす。

 だが彼は魔力を自分の両腕に集中させると、返す刃でそれを迎え撃った。

 根元に近い、鍔の部分がぶつかり合い、一瞬拮抗する。

 が、単純な腕力ではディルクの方に軍配が上がる。

 アリーゼは弾き返され、試合は仕切り直しとなった。


 互いに剣を構えながら対峙する。


「……なかなかやりますね」

「そっちこそ。もう少し圧倒的な力で分からせるつもりだったんだけどな」


 警戒しながらもそう会話をする二人。

 しかし俺はそれを見ながら思っていた。

 ……まだ、アリーゼは本気を出していない。

 それに対してディルクは既に肩で息をしていて、全力で戦っているのが分かった。

 彼もそれに気がついているのか、次で決めにかかるつもりらしい。

 持てる魔力を全て身体強化に注ぎ込んで、腰をひねり、剣を縦に構えた。


「次で決める」

「決まらないと思います」

「……ッ! ハァッ!」


 アリーゼの言葉を発端に、ディルクは駆け出した。

 今回は先ほどのような大技ではなく、取り回しのしやすい軽い技を使うみたいだ。

 左足に体重を移し、右から左へと腰をひねるように剣を振るう。

 アリーゼはそれを冷静に見切ると、彼の右側に回り込むように《《前進した》》。


「――なっ!?」


 その意表を突く行動にディルクは反応できない。

 振り切られた彼の剣は完全に空振りをし、もう既にディルクの背後に回り込んでいるアリーゼは攻撃の準備が整っていた。


 ーーガツンッ!


 アリーゼの雑に振った剣がディルクの横っ腹に当たり、彼はゴロゴロと中庭を横切るように吹っ飛ばされた。


「アリーゼの勝利!」


 俺はそう宣言する。

 やっぱり、その圧倒的戦闘的な直感力、しなやかで的確な動きを再現する身体、敵が迫ってきても落ち着いている胆力など、彼女の戦いにおけるセンスはレーアの遺伝子を受け継いで抜群に高かった。


 と、ディルクは大丈夫だろうか。

 俺は彼に回復魔法をかけてやろうと近づこうとして――


「……ぐっ、ふぐぅっ、うううっ」


 涙を堪えるように泣いていた。

 そのことに俺は驚いてしまった。

 そこまでしてアリーゼと婚約したかったのか……?

 いやでも、二人は今日が初対面だ。

 一体何故……?


 そう思っていると、彼は跳び上がるように起き上がり、涙を拭きながらどこかに走り去ってしまった。

 それをベルジェ公爵は黙って見つめている。

 ……このまま放置しておくつもりなのか?

 それでいいのか?

 俺は迷った挙げ句、ディルクを追いかけるべく走り出すのだった。

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