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第15話 その父、最強につき

「おい、お前たち……誰の娘に手を出したと思ってやがる……?」


 チラリと床に倒れ伏すアリーゼの方を見る。

 苦しそうな表情だ。

 殴られたか、蹴られたか。

 もしかしたら肋骨が折れているかもしれない。


 俺の力不足だ。

 俺が彼女を追い詰めてしまった。


 贖罪をしなければならない。

 ちゃんと謝って、仲直りして、またやり直さなければならない。


 そのためには……このゴミ共はとても邪魔だ。


 剣を手に取った。

 目の前に掲げて鞘から抜き出し、鞘はそこら辺に放り投げる。

 正中線に剣を構えた。


「……ハッ! 誰の娘って、知らねぇよ! てめぇ誰だよ!」

「お前みたいなヤツが一人で来たところで俺たちにフルボッコにされるだけなのによォ! 全く健気なこった!」


 そう馬鹿にしてくる連中。

 しかしそんな中にも一人だけ物知りなヤツがいたのか……。


「おっ、おい……俺、聞いたことあるぜ……。ウチの領主は、赤茶髪の穏やかそうな青年だって。でもその穏やかさに油断してはならないって。ソイツは『ウィッチクラフト・アカデミア』を首席で卒業した天才……。この領地に住み着いていた賊が五年前に全滅したのはソイツが領主になったからだって……!」


 それは正しい。

 レーアが消え、俺がバタイユの家を引き継いだ時、最初に行ったのは領地の治安向上だった。

 そのために自ら出張り、賊たちを片っ端から殲滅していった。

 しかし……俺がアリーゼにかまけている間にまたこうして湧いて出てくるとは。

 つくづくゴキブリのような連中だ。


 俺は魔力を操り、自身の身体能力を向上させていく。

 一段階……二段階……三段階……。

 絶対にコイツらは許すつもりはない。

 高まっていく魔力濃度に周囲の空間が耐えられず歪み始め、木造の孤児院はガタガタと揺れる。


「なっ……!? 何だコイツは……ッ!?」

「やっぱりそうだ、コイツが五年前に賊を全滅させた領しゅ――」


 ザン――ッ!!


 それは俺にとってはゆっくりとした動作だった。

 ただ歩くように賊たちに近づいて、右手で剣を横に薙いだだけだった。


 しかしそれに反応できた人間はこの場にはいない。

 纏めて三人の賊の首が宙を舞った。


「…………ッ!? クソッ! 何でこんなヤツがここに……ッ!」

「ちくしょう、まだ死にたくな――」


 ザンッ! ザンッ!


 一人、また一人と死んでいく賊たち。

 恐怖に怯え、逃げおおせようとするが、もちろん逃すつもりはなかった。


 そして圧倒的な勝利で賊たちは全員死亡した。


「かっ、かっけぇ……」


 そんな俺の様子を見ていた子供たちはそう言葉を零す。

 こちらを見るみんなの視線は、とてもキラキラと輝いていた。

 しかしそんなこともどうでも良くなるほど、俺は必死になってアリーゼの方に駆け寄った。


「アリーゼッ!」

「ごめ、んなさい……お父様……。私……勝手なことをして……ごめんな、さい……ごめ、ごめ、ごめ、ううっ……ごべ、ごべんなざいぃいいいいいいいいいぃいぃいっ!!」


 そう泣き叫ぶアリーゼに、俺は慌てて抱きしめて、回復魔法をかける。

 それから俺も大粒の涙をこぼしながら、アリーゼを必死に抱きしめてこう言った。


「良かった……生きてて良かった……俺、アリーゼに何かあったらどうしようかと……本当に心配で……俺のせいなんじゃないかって、俺が不甲斐ないから、父親として間違ったことをしてしまったから……アリーゼを死なせてしまったらどうしようかって心配で心配で……どうしようもなくて……ああ、そう、うん、そうなんだよ……良かったぁ、本当に生きててくれて良かったよぉ……」


 大人だとか、父親だとか、領主だとか、立派にして居なきゃいけないとか。

 そんな体裁はかなぐり捨てて俺は泣きながら自分の感情を、思いを吐露した。

 溢れ出てくる言葉は止まらなかった。

 どうしようもなく胸が苦しくて、どうしようもなく何度も自分を責め続けて。

 それでもどうにか生きていてくれて、本当に良かった……。


 そんな俺たち親子を、孤児院の子たちは何を思って見ていただろうか。

 ふと我に返ると、そんなことに気がつく。

 彼ら彼女らは、親がいないからここにいるのだ。

 少し申し訳なくなり、チラリとみんなの方を見てみると……


「うぐっ……ううっ……」

「わぁあああああん!」

「ひっぐ……ふぐぅ……」


 みんな泣いてしまっていた。

 どうして彼ら彼女らが泣いているのかは、分からない。

 でも……おそらくこれは俺が責任を取る必要があるだろうな。

 治癒魔法でアリーゼを完全に回復させた後、俺は彼女を降ろして立ち上がった。

 と、その時彼女は思い出したように声を上げた。


「…………ッ! カイッ!」


 そう言ってアリーゼは一人の少年のところまで駆け寄っていく。

 彼は昨日であった少年だった。

 彼もかなりひどい怪我をしてしまっていたみたいだった。


「お願いします、お父様! カイを、カイを助けてやってください!」

「ああ、もちろん」


 俺はアリーゼの言葉に頷いて、急いで彼の元に向かうと、治癒魔法を使った。

 すぐに彼の傷も癒え、元通りになる。


「……ありがとう、領主様」

「領主様は止めてくれ。俺は君たちに領主としての仕事を十分にこなせていないのだから」


 そう言うとカイと呼ばれた少年は目を見開いた。

 それからそっぽを向いて、こう言った。


「……ちぇ、何だよ。良いヤツだったら文句の一つも言えないじゃないか。悪いヤツでいてくれよ」


 そう言うカイに俺は一瞬虚を突かれて目を見開いてしまうが、その後すぐにそれが面白く思えて、笑い声を上げてしまうのだった。


「ははっ、ははははははっ! いやはや、すまんすまん! 悪いヤツじゃなくてすまなかったね!」

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