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第8話.殺戮王レグルス


 タンタンと足音を立て、階段を降り外で待ち構えているネメアと再び相まみえる大和。

 餌がようやくお出ましだと言わんばかりの雄叫びの歓迎に大和は苦笑する。


「困ったな。そんなに手厚くもてなされるとお別れがさみしくなるだろ」


 恐らくヤツは人間の言葉が理解できる。

 それほどに他のネメアとは違いかなり高位のモンスターなのだろう。

 その証拠にこいつは自衛隊を襲っている集団の中には居なかった。

 階級的に言えば総司令。ネメアの大将と言ったところだ。

 そしてもう一つ。アマテラスは、こいつのことを侮りはしなかった。

 アマテラスはこの国の最高神とも呼べる神。

 いくら非戦闘の神だとしてもネメア程度に苦戦を強いることはない。

 時間がかかるのは、恐らくアマテラスは近接戦闘をする類ではないのだろう。

 その点でいえば多対一はかなり不利と言える。がそれでもこいつ一匹が加わる事で戦況が大きく変わると見たということはそういうことだ。


「さぁ、じゃあやることはひとつ」


 大和は覚悟を決め、短剣を構える。


「……逃げろっ」


 再び情けない後ろ姿を見せこの場からの逃走を図る大和。

 だが、激昂状態の特殊個体は、先ほどよりもスピードを増しており数秒ほどで背後に迫る。


「そんなことは重々承知してんだよッ!!」


 死を覚悟し、振り返る大和。

 眼前には牙が迫っていたが、左肩を牙がかすめ眉を顰めるもバックステップでなんとか回避する。


「立ちっぱなしの元コンビニ店員の脚力舐めんな!!」


 一瞬回避されたことに『グル』っと声を漏らすネメアだったが、いまや向き直っている大和に回避の方法はないと見たネメアは直進してくる。


「よーし、それでいいッ!!!」


 大和は計算済みだと言わんばかりに、ネメアに真正面から飛び込み短剣で傷のある左目を穿つ。


「はぁぁぁぁぁッ!!!」

『グルルルルァァァァァ!!!』


 下剋上に成功した大和。

 ネメアは雄叫びを上げ、苦しむ。


「はぁはぁ」


 だが、安心するのはまだ早い。


「痛いか?お前たちがさんざん殺してきた人間たちからの土産とでも思え」

『グルルルウゥゥ』

「悔しかったら追いかけてこいよ殺してみろ」


 その言葉に反応するかのように更に殺気を増すネメア。

 大和は、ポーカーフェイスを貫きそのまま怯んでいるネメアをその場に残し、再び走り出す。


「はぁはぁ」


 目的地は決まっている。

 狙いは……


『大和!!』

「お!アマテラス良かった」

『生きておったか安心じゃ』

「あぁ、でも予想よりもやべぇやつだぞあいつ」

『うむ……やはり、プレイグが従える十二の神獣の一匹『殺戮王レグルス』じゃ」

「はぁ!?お前そんなやつの相手を俺に任せたのか!?」

『……えへ』

「えへじゃねぇ!!」

『どちらにしろ妾が五匹相手にしておったところで勝てぬ。かといってお主が四匹惹きつけるのも無理があったじゃろう』

「……まぁ。それが最適だったってことか」


 念話する二人。

 そんな中大和の背後で凄まじい爆発音が鳴り響く。


「まずいな」

『お主こちらに走ってきておるな。なにか手があると見てよいか?』

「あぁ。あいつをロキにぶつける」

『ほう?しかしどうやって?』

「こっちは散々煽り散らかしてんだ。おまけに片目はもらった。いくら知能を持った神獣といえどそろそろ怒りで正気は保てないだろ」

『なるほどのぅ。半端な知能があるゆえに壊れるのも容易いと』

「あぁ、現にヤツはとんでもないスピードでこっちに向かってきてる。頃合いだ」


 アマテラスは数秒黙り込んだあと会話を再開する。


『状態異常耐性の高い神獣共じゃが、今ならいけるかものぅ……うむ。妾もそれに一枚噛もう。』

「何すんだ?」

『妾の力でお主とロキの立ち位置を入れ替える』

「そんなことできんのか!?」 

『うむ。じゃが条件が二つ。ロキがツクヨミの力を使える以上念には念を……じゃ。』

「条件って?」

『まず一つ、妾の視界にロキとお主が同時に映った時のみ。じゃ。そして二つ目はできるだけ確実に仕留めるために、お主がレグルスに食われるギリギリを狙う』

「タイミングをミスれば命はないか……今更だな。分かったそれで行こう」


よいのか?と聞かれはしたが今更だ。

 背後にレグルスが迫っていた大和は、アマテラスとの念話を一時中断し走る。


「はぁはぁ……正門はもうすぐ……だ……」


 体力の限界はとうに越している。が此処で諦めれば全てが水の泡と化す。

 大和は、最後の力を振り絞り死にものぐるいで走る。


「あと少し……あと少しで……」


 後方からは、格下から激昂したレグルスの雄叫びがきこえる。


『よく来たのじゃ!!』


 アマテラスの明るい賛美の声。

 本来なら、神様からの賛美など泣きわめいてでも喜ぶことなのだろうが、今の大和にそんな余裕はない。


「何か騒がしいねぇ」


 激しい戦闘が繰り広げられる最中。

 ヤマトタケルと言葉を交わすロキの姿が目に入る。


『グルルロォォォォオオオッ!!』


 大きく口を開け、大和を飲み込もうとするレグルス。


「はぁはぁ……まだかッ!!アマテラスッ!!」

『……』


 念話でアマテラスに呼びかけるも返答はなし。


「はぁはぁ……」


 大和の上空に影が落ちる。


「あ……」


 すっぽりと飲み込まれかける大和。

 戦意は既に消え、そっとまぶたを閉じる。

 胸には鋭く大きな牙が打ち込まれ、人生二度目の死を覚悟していたその時。


「はぁぁぁぁ!!!」


 アマテラスの声が念話越しではなく、校内に響く。

 大和は死を覚悟し、閉じていたまぶたを開くと。


「情けない顔だな。貴様」

「……!!」


 先ほどまでロキと対峙していたヤマトタケルが居た。


「よくやったのじゃ。大和」


 アマテラスがゆっくりと大和い歩み寄り、レグルスの方を指差す。


「お主の成果じゃ。アルカナもろくに使えぬ今の状態でよく此処まで抗った。見よ」


 レグルスの方を見やると、そこには先ほどまで激しい戦闘をおこなっていたロキの下半身だけがその場に残っていた。


「今、やつは食事に夢中じゃ。今のうちに撤退するのじゃ」

「貴様も食われればよかったのにな」

「何だとてめぇ!!だいたいお前が……」


 同レベルの口喧嘩を繰り広げる二人を、穏やかな表情で見やるアマテラス。

 ようやく終わったかに思えたロキとの戦闘だったが。


「ねぇねぇ。何勝った気で帰ろうとしてるの?」


 その聞き覚えのある声に、三人は振り向く。


「いつ僕が死んだって??」

「お、い……何だよあいつ。不死身なのかよ……」

「……貴様我が妹すら扱えなかった能力を……」


 その言葉にロキは下卑た笑みを浮かべる。


「そう!!そうそうそうそう!!時間遡行ってやつだねぇ」

「……姐さん。そいつ連れて逃げてください」

「だめじゃ。これからの戦いにはお主の力は必要じゃ」


 ヤマトタケルは、アマテラスたちの前に出て再度剣を構える。


「あやつは、ツクヨミですら我が物にできなかった時間遡行すらも扱える。妾たちじゃ……」

「あーーー……」


 ロキは頭を掻きながら面倒くさそうに一歩距離を詰める。

 即座に反応し臨戦態勢に入ったのは、神である二柱。


「君死んでくれる?」

「まずい……あやつの狙いは……!!」

「は……」


 宙を舞う。

 瞬きも合間に景色が変わっていた。


「君さぁ……うざいんだよね。人間ごときが神の戦い邪魔するなよ」

「やまと!!!!」


 アマテラスの叫びが耳に響く。

 ようやく理解した。


「……ぁ」


 視界の端に、見えないはずのモノが映っていた。


「ぇ……?」


 大和の体は両断され、下半身がパタリと倒れ上半身は宙を舞う。

 痛みすらも感じぬ程の刹那の出来事。

 大和を呼ぶアマテラスの声が意識とともに段々と遠くなり、そのまま彼は意識を手放す。

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