第6話.天叢雲
大和が終わりを悟ったその時、余裕の表情のヤマトタケルは左手を右腕に添え剣を前につきだす。
「まだだ。神器開放『天叢雲』」
その言葉に反応するかの如く手に持つ剣が形状を変え、刀へと変化する。
「いいねぇーーまだまだこれからってことだ」
「ここでお前だけでも消してやるよ」
結っていた髪紐は解け、頭上に光輪として光り輝く。
綺麗な赤髪はより赤みを帯び、真紅の瞳には静かな闘志が宿る。
「いやぁ、困っ……」
ロキが口を開いたと同時に十数メートルほどあった距離を一気に詰めるヤマトタケル。
「死ね」
瞬時に距離を詰め、しゃがみの体制からロキの左脇腹めがけて刀を振り上げる。
「よっとぉ」
死角を利用した完璧な狙い撃ちだったにも関わらず、焦ることなく跳躍し上空へと回避する。が、
「……。」
ヤマトタケルは軽く踏み込むと、ロキの背後へと回り込む。
「嘘でしょぉ」
一切の同様を見せることなく、ロキは空を蹴り回避する。
見るもの全てを魅了するほどの圧巻の神々の戦闘に大和は呼吸すらも忘れ、思わず見入ってしまう。
「はぁッ!!!!」
付近の全てを燃やし尽くす勢いで、ヤマトタケルの纏う炎は音を立て燃え盛る。
「おっと!!」
刀に炎を纏わせ、放った斬撃をロキは一切顔色を変えることなく躱す。
「舐めるな。後ろだ」
「だよねぇ」
体を翻し、ヤマトタケルの頭部を狙い放たれた蹴り。
雷撃と猛火。
耳を塞ぎたくなるほどの音を立て地面を揺るがすその戦闘は神々の戦いと呼ぶに相応しい。
「やれやれぇ、君はほんとに厄介だねぇ」
「わざと斬られて死んでくれてもいいんだぞ」
「まさかぁ!せっかく楽しい戦いができてるのにそんな無駄なことするはずないじゃん!!」
「ちっ」
着実に追い詰めているのはヤマトタケルの方に見えたが。
「これ……勝てるんじゃないのか?」
「いや無理じゃな。地力の差ではヤマ……ええい紛らわしい。タケルのほうがうえじゃが、ギリシャ神話最高神の力は底が知れぬ。それにツクヨミの力も侮れぬ。それに……神器を解放したタケルは魔力の消費が激しいのじゃ」
「そうなのか……って……ツクヨミって確か……?アマテラスの弟にあたる……?」
「じゃな。正確には妹じゃが……今でこそ神だなんだと言われておるが妾たちも人間と何も変わらぬ。星神様から生を授かり力を授かった……感情もあるし諍いもある」
アマテラスは凄まじい攻防を見ながら、話を続ける。
「妹を思う気持ちも……のぅ」
「アマテラス……」
人々は神というものに縋りすぎていたのかもしれない。
ふとそう思った大和だったが、自らで道を切り開く術を持っていないことに無力さを覚え拳を握りしめる。
「なぁ。こんなときに聞くことじゃないのは重々承知してるが……なんで俺をよびだしたんだ?」
「……うぅむ。言いにくいことなのじゃが、この世界の神埼大和は既におらぬ」
「あぁ、大体察しがつく」
「お主のアルカナのトリガーは特殊すぎた。恐らくは星神様すらも予測できぬほどにな」
「特殊?」
「うむ、お主のアルカナは死をトリガーに発動するものだったのじゃ」
「死をトリガーに?」
「情けないが、未知のアルカナを所持しているであろうお主の可能性を信じるしかなかったのじゃ。じゃからこの世界のお主が死んだと同時に死にかけていた並行世界のお主をこの世界の体うつわに移し替えたのじゃ」
むっふん!!と胸を張るアマテラスの様子を見るにどうやら魂と器の同期はこいつ本人がしていたようだ。
「っと、話しているうちにこちらにもお出ましのようじゃぞ」
アマテラスの言葉に反応し、後方を向き直るとそこにはキメラの姿が。
「ネメア……じゃな」
「え、あれネメアっていうのか」
うむと返事を返すアマテラス。
「妾はそこの四匹を相手する。お主はそれが終わるまであのネメアを相手するんじゃ」
そう指さされたネメアを見やると他の個体とは日にならない程の巨躯。
黄金の様に輝く毛色。片目には大きな傷。
「お、おいあれ、ただならぬ気が」
「恐らくほかのネメアとは比べ物にならぬであろう」
「おい!!」
「妾はもともと戦闘には不向きの能力じゃ。あれにも正直勝てるか怪しい。一か八かの戦いじゃ。が他の四体ならば撃破できる。他のネメア四体とあの個体どちらが良い?」
先ほどはネメア一体で逃げるだけで精一杯だった。
それを四体相手となれば、結果は一目瞭然。
「分かった。どちらにしろ選択肢はそれしかないんだ。あの一体は俺が引き付ける。でも俺は引きつけることしかできないぞ」
「……じゃな。この四体を片付けたらすぐに向かう。できるだけ持たせてくれるとありがたいんじゃが……」
「あぁ……できるだけ頑張ってみるよ」
アマテラスは神気を放ち四体の意識を自らに向ける。
「ゆけ!!死ぬではないぞ大和」
「おう、やれるだけのことはやる」
「あ、そうじゃこれを持ってゆけ!!」
ネメアの特殊個体の元へ向かう大和にアマテラスは短剣を投げる。
「っと。なんだこれ!」
「それは神性を帯びた短剣じゃ。数十秒は足止めできるじゃろう。運が良ければネメアを屠る事もできる。生き延びよ」
「分かった!!サンキュ!!」
後方に構えたネメアの特殊個体を挑発し、大和はその場をあとにする。