第5話.偽神七祖・第六位階ロキ
「はぁはぁ……」
淀んだ空気、むせ返るほどの生臭さ。辺りには臓物が散らばっており視界の先には未だ生にしがみつくために戦う隊員の姿が。
「くそ……くそ……」
震える体で銃を構える隊員。
生存者は重軽傷者合わせ三人。
牽制することで精一杯といった様子だろう。
「お、おい、そこの少年!!!は、早く逃げなさい!!!」
「……あんた」
自らが危機に晒されているというのに、大和を見つけるやいなや化け物の注意を大和へ向けないように銃を撃つ手を強める隊員。
『聞こえておるか』
「アマテラス!?協力してくれるのか!!」
『うむ、よいかその雑魚どもをこちらにおびき寄せるんじゃ』
「ここって場所はどこだよ!!」
『既に伝達済みじゃ。目を瞑ってイメージするんじゃ』
「イメージって……」
言われたとおりに目を瞑り集中すると、情報が脳内に流れ込んで来る。
「うわ!!すげぇな……」
『目標地点はそこじゃ分かったな』
「よし、分かった!!」
『ヘマするなよ。無能なんだからな』
「うるせぇ!!絶対にやりきってやる」
ヤマトタケルの辛辣な言葉にニヤリと笑みを浮かべ返すと、大和は喝を入れるために頬を叩く。
「よし」
『ふぅ』と深呼吸し震える体を落ち着かせると、覚悟を決め数十化け物を睨む。
「おいこらクソネコ!!!こっち来いよ!!!」
大和の存在に気がついたキメラは凄まじい雄叫びを上げ、標的を大和に変える。
「なッ!!」
なんとか命を繋ぎ止めた隊長らしき人物は、驚きの声を漏らすとともに膝から崩れ落ちる。
「グルォォォォォ!!!!!」
四足歩行で距離を詰めてくる化け物。
大和は額に汗を滲ませ、目的の地点へ向かう。
「はぁはぁはぁ……」
距離の差は僅か数メートル。
曲がり角を使い翻弄している大和だが、目的地点は正門前。
二回目の命の駆け引きだからか、不思議と落ち着いていた。
『何をやっとるんじゃ!早く来ぬか!!』
「分かってるよッ!!!こちとら必死なんだよッ!!!」
死のチェイスが開催されてから数分が立ち、正門付近へたどり着いた大和。
目の前に人影が現れる。
「よっしゃ!!アマテラス達か!!」
安堵もつかの間、人影との距離が近づくにつれ殺気が後ろのキメラに向けられたものではないのでは。と本能が危険信号を出す。
見た目は、黒髪に白のメッシュが入っており、黒い瞳で左目に眼帯をした中学生くらいの美少年。
黒と白の装飾のハットを被り、黒のタキシードに身を包みの指輪をいくつもつけている。
見た目の不気味さもさることながら、その少年が纏う空気の異質さはただならぬものだった。
「やれやれ、尻尾が掴めなかった旧神どもを見つけたと思ったら、こんな脆弱な人間のおままごとに付き合っているとはねぇー」
ケラケラと不気味な笑い声を校舎に響かせ、目の前の美少年は右手を横薙ぎに一閃。
「……は?」
目の前の美少年が右手を一閃すると同時に可視化された何かが凄まじい風圧とともにこちらに放たれていた。
「あ、やべ」
一瞬の出来事だった。
全速力で走っていた大和は、踏ん張って急ブレーキをかけたものの眼前に迫った殺気の塊を回避することは不可能だった。が
「はぁぁぁぁッ!!!!!」
「おまえッ!」
間一髪のところで、助けに入ったヤマトタケルが殺気の塊……否、斬撃を斬って霧散させる。
「だから、こいつに協力するのは嫌だったんすよ!!姐さん!!」
「そういうでない。いつかはバレておったんじゃ。それが早まっただけのこと」
尻もちをついた大和の前に神二柱が現れる。
「やぁやぁやぁやぁ!!神紛いと最優先討伐対象のアマテラスさんじゃないですかぁ!!」
「ッち。よりによって貴様か」
「僕ちんプレイグ様からこの国の監督役任されてるからねぇーー」
「唯一汎人類史の神にしてプレイグに降り、偽神としての力も得た『偽神七祖・第六位階』裏切りの神……ロキ」
「そもそも貴様はこの日の本には縁のない神じゃ。なぜ此処におる」
その言葉に、ニヤリと笑みを浮かべるロキ。
ギザギザに尖った歯がより不気味さを醸し出しており、大和は底しれぬ恐ろしさに背筋を凍らせる。
「ねぇねぇねぇ、偽神の力ってどうやって得るか知ってる?」
あまりの唐突な質問にアマテラスたちも返す言葉なく沈黙する。
「ちぇーーーつまんないの。まいっか。どうせきみたちここで消えるから教えてあげる」
ニコッと笑みを浮かべロキは続ける。
「この世界の礎となった神々の魂を復元し、その魂から読み取ったデータで能力を模倣しそれをプレイグ様自らが僕たちに譲渡してくれるのさ」
「なッ!!そんなことは星神様にしか実行不可能だろうッ!?」
「お、そこの神紛い君いいとこ突いたね。出血大サービスで教えてあげよう!!長年謎に包まれていたであろうプレイグ様の正体は」
瞬きの間にロキの姿が消え去ったかと思えば、
「その星神のもう一つの人格さ」
ヤマトタケルとアマテラスの間に現れ、両者の肩をトンッと叩く。
「「なッ!?」」
虚を突かれた二柱は、バックステップで数メートル後方へと退く。
「まぁ、全ての権能を得るには神の魂を直接喰らうしか無いんだけど……星神と二分された今のプレイグ様はまだ不完全……あ、ちなみに僕はギリシャ神話の最高神ゼウスと……ツクヨミって言えばわかるよね?」
「な、なんじゃと……」
予想だにしなかったその言葉にアマテラスは驚きの声を漏らす。
「姐さん。俺があいつの相手します」
斬りかかったヤマトタケル。
しかし、跳躍したロキには届かず空を切る。
ロキは一瞬の隙を逃さず上空から消えたかに思えたが、ヤマトタケルの背後に現れ雷をまとった脚で後頭部を狙い撃つ。
「くッ」
間一髪といったところでなんとか体を翻し、剣で受け止める。
凄まじい轟音が鳴り響き、快晴のはずの空から雷撃が降り注ぐ。
「ははッ!!成り上がりといえど神は神!!やるねぇ!!」
剣によって受け止められた右足。
宙にとどまっているロキは、くるりと左足でヤマトタケルの剣を踏み台にし後方へと距離を取る。
「神紛いが……」
「ふ、お前もほぼ同種だろ?ロキィィィィイ!!!」
「はは、ほざけぇ」
激しい戦闘は続く。
「はぁッ!!!」
ヤマトタケルの凄まじい剣撃をロキは涼しげな表情で難なく躱す。
「軽いねぇ」
淡々と交わされる技の応酬。
二人の戦闘により正門はガタガタと揺れ、辺りに生えた木々は踊る。
「諦めろ旧神どもー。プレイグ様に勝てるはずがないんだぁ!!」
ロキはヤマトタケルの後方を指差す。
「人間どもは、私利私欲のために争いすぎた。地球を穢しすぎた」
背後に突如として現れた雷撃を剣で受け止めるが、神雷とも呼べるゼウスの雷を防ぐだけで精一杯のヤマトタケル。
「くッ」
なんとか雷撃を斬り裂いたヤマトタケルは、気を緩めることなくどこからともなく現れた背後のロキを迎撃する。
「地球の歴史が星神を汚濁させ、星神を二分したんだぁ」
「それが、プレイグってことかッ」
拳と剣。
二つが交わり周囲に暴風が吹き荒れる。
「限界だねぇ?」
ヤマトタケルの限界を定めたロキは、うっすらと笑みを浮かべる。