第4話.並行世界への特殊転移
世界の終わりを連想させるような地獄が広がるこの世界で、大和は絶望を覚え声を震わせる。
「な、なんだよ、この世界」
「ふむ、ここはお主のいた世界と似て非なる世界じゃ。つまりは平行世界じゃ」
「平行世界?」
こくりと頷き話を続けるアマテラス。
「まぁ十数年前まではここもお主の住む世界と何ら変わらぬ平和な世界であった」
「じゃあなんで…」
「決定的な違いは、魔神プレイグの有無じゃな」
「魔神プレイグ?」
「この世界を崩壊へと導いた張本人じゃ」
悔しげに拳を握るヤマトタケル。
「そいつはそんなにやばいのか?」
化け物を真っ二つに裂いたあの力でさえ敵わない程なのかと、大和は訝しげに居た名前の伝説を見やる。
「うむ、妾達日本神話体系の神たちはもちろん他の神話体系のものでさえ歯が立たぬ。本来存在しなかったはずの魔神プレイグ。それ故に秘めた力も未知数じゃ」
アマテラスは魔物の跋扈する荒廃した世界を見ながら、俯き続ける。
「やつの干渉さえなければ星神様の力も……」
「星神様?」
「我ら神を、この世界を、生み出した全ての祖じゃ我らの力も、そして人々の使う『アルカナ』の力も星神様から授かったものじゃ。本来なら神々がヤツと対峙しなければならぬが……プレイグに干渉を受け数柱の選ばれた神々のみが顕現し、他の神々は『アルカナ』として……自我のない能力として人々の力となっておる」
「待て待て、星神様がすごいってことは分かった。だけどそのアルカナってのは何なんだ。この世界では一体何が起こってんだ」
神に対してあまりにも不遜な態度。
『貴様ッ!!』と額に青筋を浮かべ斬りかかろうとするヤマトタケルを淡々と制止するアマテラス。
「うーむ、近いもので言うとお主が好きなラノベに出てくる魔法や異能力などと同様のものじゃ」
「お、おぉぉぉぉ!!!すげぇ!!!」
自分の世界にはなかったラノベ展開に興奮を隠しきれない大和だが、その反応にヤマトタケルはついに痺れを切らす。
「ふざけるなァッッ!!!!!!プレイグのせいで一体どれだけの人間が……神々が消えたと思っているッ!!!!」
怒りを露わにしたヤマトタケル。
現状を未だに理解できていない大和は、一瞬動揺するもアマテラスが割って入る。
「無理もないじゃろう。こやつはこの世界に来たばっかりじゃ自体の重さを把握できておらぬとも仕方のないことじゃ」
アマテラスは窓の外を指差す。
「ちょうどよい。あれを見よ」
校舎の中庭。
自衛隊員らしき人物が数人大和が先ほど対峙したキメラのような化け物に囲まれていた。
「陣形をみだすなッ!!!こいつらは人類の敵だ!!身内を亡くしたものも多いだろう!!!必ず駆逐し、生還するぞ!!」
隊の長が猛々しく鼓舞すると隊は叫びながら、目の前の数体の魔物に向け突進する。
「グルルルゥゥゥ……」
向かってくる人間に一切怯えず、化け物は一瞬の隙を待つ。
「あ、あれ勝てるのか」
「……無理じゃな。威勢は良いがあまりにも脆弱過ぎる」
「な……ッ」
アマテラスの無慈悲に放ったその言葉に、大和は声を荒げようとするが。
「これがこの世界の常じゃ。魔神プレイグの誕生により平穏だったこの世界は地獄へと変わった。」
アマテラスの言葉通りに、隊は一人やられた途端に隊列は乱れ、次々に蹂躙されてゆく。
断末魔とともに弾け飛ぶ四肢。
目の前で次々に殺られてゆく仲間を見て、戦意を失い自決を選ぶ者。
小さな地獄がそこにはあった。
「おい!!!あれ助けないのか!!!」
「ふざけるな。死にたければおまえだけ行くがいい。俺達にはやるべきことがある。少数を捨て、世界を……」
「お前たちは神だろッ!!!」
その言葉に神二柱の纏う空気が一変する。
「ふむ、なにやら勘違いしておるみたいじゃな。妾たちは人間のためだけに戦うわけじゃない。この世界に存在する尊き命を救うために、本来あるべき世界に戻すために今此処におるのじゃ。全ては妾たちを生み出した星神様のために」
その言葉に、大和は俯く。
「確かに。全てを救うことは無理なのかもしれない。だけど……だからいって、目の前の命を犠牲にしていいはずがない。」
強い意志を込めた眼差しをアマテラスに向ける大和。
アマテラスは軽くため息をつくと、再び窓に視線を向ける。
「……無力なままで何もせず見て見ぬふりをして生きている自分にはなりたくはない」
「よせ。お主に何が出来る」
「……」
沈黙という返答だけをその場に置き去りにして、大和は二柱に背を向け走る。
「良かったんすか姐さん」
「よい。あやつの人生はつまらぬものじゃったが、それでもあの真っ直ぐさだけは妾も感心するものがあった。危うさも言わずもがな……ではあるが……もとよりこういう自体も予測しておった。良い機会じゃ。これを気にこの世界の厳しさを知ってもらうほかないじゃろう」
「そっすか」
なぜ、この世界に大和を召喚したのか。
それは神すらも奇跡に縋るほかなかったから。
「死をトリガーに得るアルカナ。そんなものは聞いたことがない。あやつには魔神プレイグを倒せる可能性がある」
「……」
二柱の神は窓の外に現れた異世界の青年を静観する。