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第12話.日常


 魔物の襲撃がない防衛都市(オアシス)で昔と変わらず過ごす人々。

 外には砂漠(じごく)が広がっているにも関わらず、刻々と時計の針は進んでゆく。


「おーい!!こっちこっちーー!」

「あ!間宮さん!!」


 身体全体を使って大きく手を振る間宮を見つけた大和はその場に走る。


「すんません!!遅かったですかね」

「全然!!僕が楽しみすぎて集合時間より早くに着いちゃってただけさ」


 にこっと微笑む間宮に頭を下げ、二人は飲み屋街の店の中へ足を運ぶ。


「あ、すんません!!生二つ!!」

「こらこら。大和くんはまだ未成年じゃないのか?」

「あ、あぁ~~」


 この世界に来て若返ったはいいものの、酒が飲めないのが唯一の弱点かもしれない。

 ついつい、昔のノリで注文してしまうし、喉から手が出るほど飲みたい。


「じゃ、じゃあーーんーーコーラで!!」


 ある程度注文を終えテーブルには様々な料理が並べられる。

 二人は乾杯を済ませると、食事に手をつけながら会話を始める。


「どうだい大和くん。ここに来て一ヶ月。少しはこの生活にも慣れてきたかい?」

「結構大変なことも多いけど、慣れてきましたよ。これも色々なことを教えてくれた間宮さんのおかげですよ!」

「そんなことはないさ。大和くんが必死に頑張ってきた結果がこうして実を結んで今に至る。」


『君はすごいよ』と微笑む間宮に少し目頭が熱くなる大和。

 この世界に来て一ヶ月、確かにアマテラスたちは居たが右も左もわからない状態で生きてきた。

 その全てを包み込んでくれるその言葉は今の大和にとって救い以外の何ものでもなかった。


「そういえば、大和くんはどこからの難民なんだい?」

「自分は、春川っすよ」

「春川といえば……あの日関東地方で最も被害が大きかった場所じゃないか」

「え、そうなんですか?」

「あぁ、生存者もほぼ居なかったと聞いている」

「じゃあ……」


 大人になっても連絡を交わしていた幼馴染も、幸せな結婚生活を送っていた同級生たちも皆この世界では……


「……すまない。余計なことを口走ってしまったね」

「いや!!そんなことは!!」


『本当にすまない』と申し訳無さそうに言葉を詰まらせる間宮。


「話は変わりますけど、俺も一口くださいよ」


 間宮が手に持つジョッキを指差し、怪しげな笑みを浮かべる大和。


「だめだよ。これは大人になってからだ……でも、そうだね。君が大人になったとき次は酒を酌み交わして色んな話をしたいな」


 間宮さんには、娘と息子が居た。

 生きていれば今の大和と同世代くらいの子どもたちだ。

 もしかしたら、間宮さんは息子たちと俺を重ねているのかもしれない。


「ぜひ!!自分も初めて飲むお酒は間宮さんと二人で交わしたいです」


 それから小一時間ほど、歓談したあと二人は解散しその場をあとにする。


「はぁーーー本当にいい人だな。間宮さんは」


 先ほどの楽しかった空間を思い出しながら、帰りの道を歩く大和。


『大和聞こえておるか』

『なんだアマテラスかどうした』

『天野からの伝達じゃ。ロキの仕掛けたモノの正体が分かったのじゃ。急いで戻って来るんじゃ』

『了解』


 念話が切れると大和は、人気のない路地裏に足を運ぶ。


「ここだったら誰にも見られる心配はないな」


 大和は跳躍し、凄まじいスピードでアマテラスたちの居る総理の豪邸に向かう。

 道中歩いて帰る間宮を見つけた大和だったが、バレるわけにもいかないためそのまま走り去る。


「お。きおったか」

「すまん遅くなった」

「はっはっはっ!!遅くなったって連絡して数分ほどしか立ってないですよ大和殿」


 声高らかに笑う白髪の厳格そうなこの男こそが天野和彦本人である。

 元とはいえど、この国の長に相応しい鬼の如き眼力に人の心を掴む穏やかな話し方。

 王の資格を持っているとはいえ、一回り以上したの男に対しての腰の低い接し方。


「そろそろお時間が」


 天野の耳元でそう呟いたのは、側近である葉山。

 黒髪七三分けで清潔感のある身なり。

 眼鏡をかけていて頬は少しコケているが、これがスタンダードらしい。


「おぉ、そうか。ではまず、様々な手を使い調査した結果。『ヘッドレス』が動き始めた。」

「な!」


 ヘッドレスとは、関東で有名な王という頂点が居ない組織。

 悪さをするという訳では無いのだが、未だ得体の知れないその組織の内情からするに、警戒は怠らない方が良いと判断していた元総理が直下の部隊を使い監視していた。


「動向は感じのものが見張っているが、ヘッドレスが動いたということは」

「かなりの事態であることは明白じゃな……」


 天野の言葉を引き継ぎ、アマテラスが顎に手を添え答える。


「悪夢の再来か。はたまた単なるアジトの移動か」

「それを判断するには材料が足りないということか」

「お前いたのか」

「失礼な!!貴様はいつもいつも」

「はいはい二人ともそこまでじゃ」

「姐さん!!」


 気の抜ける言い合いを始めた二人を制止し、アマテラスは事の重大さを淡々と答える。


「幻惑の王などの異質なもの達は、個々で王に匹敵する力を持つが……ヘッドレスは、幻惑の王と同種の激情の王を退けたという噂もある」

「まじかよ」

「やはりあの時仲間にしておくべきだったのぅ?」

「やだよあんな胡散臭いやつ」


 二人の会話に口をポカンと開ける天野。


「げ、幻惑の王を仲間に……と?」

「うむ。こやつの配下になりたいと申し出てきたが蹴ったのじゃ」

「な、なんと……王紋をもっておられることは承知しているが……神崎殿がそれほどとは……」

「やめてくださいよ天野さん。俺なんか大した実力もないし、あいつは多分俺を利用して何かをしたかっただけだと思う。」


 未だ驚きを露わにしている天野だったが、咳払いをし気持ちを切り替える。


「それともう一つ。これは監視塔からの報告なのですが、今朝から魔物の動きが活発だという報告が上がっているのです」

「なるほどのう……つまり、ヘッドレスと魔物に動きがあったことで何かただならぬことが起きると危惧しておるわけじゃ」

「ええ。私は元総理であり国民を守る義務がある。あのような惨事二度と起こしてはならない。事前準備は大事かと」


 真っ直ぐな瞳でアマテラスを見やる天野。

 アマテラスは、神妙な面持ちで決断したあと今後の動きを口にし、その場で解散となった。

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