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第11話.防衛都市新宿


「大和くーーーんちょっとこっち手伝ってもらってもいいかーーー!!」

「うーーーっす!!」


 ロキとの激戦から一ヶ月。

 だんだんこの世界にも慣れてきた大和はというと、防衛都市新宿で過ごしていた。

 防衛都市新宿は『終末の宴』の際に唯一損壊なく残ったとされる新宿区を中心に東京二十三区が合併された都市であり、関東で唯一都市として機能している場所である。


 王紋を持つ大和はあれからアマテラスたちと新宿へ向かい、新宿の長である元総理の天野和彦大臣に賓客としてもてなされた。


 王紋を持っていることは総理と側近しか知らず、通常時は難民として保護されたと偽り自分にも何かできないかとこうして防壁の修繕を行っている。


「間宮さん……今日の仕事はまたかなりしんどいですね」


 間宮さんとはこの作業着に身を包みタオルを頭に巻いた齢四十の優しい顔つきの男性のことであり、防壁の修繕をおこなうチームの監督だ。

 仕事以外のことでも世話になっている恩人とも呼べる人だ。


「あぁ、仕方のないことさ。あれから世界は変わってしまった。もし今でも何気ない日常を送れていたら……」


 首から下げたロケットの中の写真をを見つめる間宮さん。

 あの『終末の宴』の際に妻と子供二人を亡くしており、それからはこの国のためになにか出来ることはないかと必死に働いて居たところ政府の目に止まり、監督として今でも働いている。


「おっと、ごめんね無駄話がすぎたなぁ」

「そんなことはないですよ!!あ、そうだ間宮さん今日夜一杯いきませんか?」

「んーーー、いっちゃうか!!」

「よーーーし!!そうとなったらちゃちゃっと終わらせちゃいましょーーー!!」


 二人で悪い顔を浮かべ、仕事に戻る。









 結局仕事は夕方まで続き、二時間後の夜七時に飲み屋街に集合となった。


「……と、まだ時間あるな」


 賓客として招かれた大和たちは、総理の住む豪邸の近くの広い一軒家に住んでいる。

 アマテラスとヤマトタケルはこの一ヶ月何をやっているのかはよくわからないが、大和は気にすることなく毎日を過ごしていた。


「……会いに行くか」


 思いの外早くに準備が済んだ大和は、一軒家から出ると既に暗くなった道を静かに歩く。

 都市近辺は昔と何ら変わらないらしく、人々の娯楽も溢れているが『終末の宴』と共にほぼ失われたと言ってもいい科学の力も都市にはあるが、街灯の光は魔法で灯されている。


「俺も使えたらなぁ」


 アマテラスに言われ一度試してみたのだが、どうやら俺には適正がないらしくそれがもともとあちらの世界に居たからか、それとも俺の持つアルカナが原因なのかはよく分かっていない。


「だれか……うちの息子を見ませんでしたか!!!三日前まで居たんです!!犯人の服装は……」


 恐らく父親であろう男は、人の行き交う新宿駅の前で叫ぶ。


「……」


 この都市に来てからああいう人探しは日常茶飯事だ。


「こんな時代になっても犯罪を犯すやつは居るし、人さらいも当たり前のようにおきるなんて……ほんとに胸糞わりぃ」


 この怒りは人間の汚さを嘆くものか、はたまた力を得ていながら未だ何もできていない自分の無力さ故か。


 声をかけたとしても何もできない大和は、そのまま飲み屋街とは別の方向へ向かう。

 時刻は午後五時半程、足を運んだ先は。


「……九重」


 もっとも厳重に管理されている新宿第一病棟の地下にある九重久遠の病室。


「今日もさ。外仕事でいろんなことがあってさ……」


 防衛都市に来て真っ先に向かった場所は、この久遠の病室だった。

『終末の宴』から十数年。

 未だ目を覚まさぬ世界の救世主は、穏やかに眠っていた。


 この世界で会うのは初めてだったが、何故か間違いなくこの九重久遠が会いに来ていたのだと。そう思った。


「なぁ九重。なんでお前はあっちの世界に居たんだ。お前も俺も特異点なんか呼ばれてるしさ。本当に偶然なのか?俺にはもうわからない」


 大和は今なお眠る美しい女性に返ってくるはずもない質問を投げかける。


「……すまん。忘れてくれ」


 九重に背を向け、間宮との集合場所に向かおうとしたその時。


「大和くん」

「……!!」


 懐かしい声に思わず振り返る大和だが、声の主は眠ったまま。


「気のせい……か」


 再び背を向け、大和はその場をあとにする。


「……はぁ」


 病院をでて、来た道を戻る大和。

 静寂の中、星空を見上げながら歩くと次第に喧騒飛び交う飲み屋街に出る。


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