第10話.幻惑の王
この国には、王紋を持った七人の王がいる。
しかし、その他にも王紋を所持しているにも関わらず、未だ全容の見えない強者が数人……星神の産物。
名も無き王候補。
「アルカナとともに生まれた異分子。天使や悪魔の神代の産物と同等の生命体。銀髪に黒のメッシュ。銀の右目に青の左目。間違いないのう。名もなき王候補……幻惑の王……」
穏やかな表情に爽やかな笑み。
裏があるとしか思えない何かを孕んだその瞳。
黒の正装に身を包んだその姿には胡散臭さを覚える他無い。
「さすが最高神アマテラス様。私は王にもならず。どの王にも属さずこの国の結末を見届けるつもりでした……があの青年……特異点の一人である大和様には少々興味がありまして……」
「お主……何を企んでおる」
「そうですねぇ……この世界はプレイグによって崩壊した。そのおかげで私も生まれたわけですけど……」
ニコッと微笑み言葉を紡ぐ幻惑の王
「この世界はつまらない。プレイグ一人の思惑に世界が動かされている。だがあの最強の神は自ら動くことはしない。何故なら脅威たりえる人間や神が居ないからです。永劫の時を生きるプレイグにとって何百年何千年かかろうと地球の支配は容易いのです。ですが……もし脅威たりえる何者かが居るとしたらヤツはどうするでしょうか?」
「自ら動く……か」
「ええそうです。私はこの停滞した世界を揺るがしプレイグを引きずり出す何者かを今まで国中探し回ってきました」
「そしてその脅威たりえる人間が……」
「えぇ。あの特異点の一人である神埼大和という青年だと考えています。未知のアルカナを所持し、本来存在しないはずの八人目の王の資格を持つ男。それにあのアルカナは最高位でありながら神の名を冠していない」
「なッ!!つまりあれほどの力を有していながら発展途上ということじゃな!!」
「恐らくは……。かなり上位の神のアルカナか……あるいはこの世に存在しない神……」
『何にせよ』と言葉を続け戦闘中のレグルスと大和の元へ脚を運ぶ。
「大和様。これより私貴方様の剣となりましょう」
「誰だお前!!」
「自己紹介がてらこの偽物レグルスを屠ってみせましょう」
幻惑の王が指を鳴らすと、レグルスの動きが止まる。
「な、何をしたんだお前」
「これはレグルスの模倣品。本物は未だプレイグの元に健在です」
ニコッと笑みを浮かべると同時にレグルスが悲鳴とも取れる叫びを上げ、のたうち回る。
「安らかに眠りなさい」
その言葉とともにレグルスは灰と化しその場から霧散する。
「これより貴方様の配下となるため名もなき生命体。幻惑の王が馳せ参じました」
片膝をつき、忠誠を誓うその姿はどこをとっても様になっており本物の騎士顔負けの優雅さであったが、どこか陰りのあるその瞳に背筋が凍りそうになる大和。
「で、お前は俺に何を求めてるんだ?」
「私はただあなたに従属したいまで。どうか王よ私に「断る」」
幻惑の王は片膝をついたまま顔だけを大和に向けていたが、虚を突かれたかのように目を丸くする。
「いきなり王なんて呼ばれても困るんだよな。俺はただの人間だ。そりゃアルカナはちょっと特殊かもしれないけど」
「じゃが、怪しいのは言うまでもないがこやつの力は本物じゃぞ。これからこの東京に拠点を置く我らからすると喉から手が出るほどに」
「そこら辺も俺はまだ分かってないんだ。だって俺この世界に来てまだ半日も経ってないんだぞ。そもそもこいつなんか胡散臭いし」
『そんな!?』と声を荒げる幻惑の王。
「姐さん!!」
大和の後方からやってきたボロボロの服を身にまとったヤマトタケル。
「おぉ!!ロキを退けおったのじゃ!!」
「……いえ、それがロキのやつは『時間稼ぎは済んだから』と戦闘中にも関わらず消えました」
「時間稼ぎ……不穏じゃな」
アマテラスとの会話を終えたヤマトタケルが次に視線を移したのは大和だった。
「きっさまーーーー!!!!」
「げ、くると思ったよ」
「先ほどの姐さんの持ち方は何だ!!姐さんはぬいぐるみじゃないぞ!!」
「むぅ。妾がぬいぐるみ……」
「その姐さんがダメージくらってますけど……」
ヤマトタケルの言葉の猛追。
胸ぐらが掴まれようとしたその瞬間。
「ッ!!」
「我が王への不遜な態度。万死に値しますよ」
いつの間にか大和の目の前に居た幻惑の王がヤマトタケルの首筋にナイフを当てていた。
「貴様ッ!!姐さん。こいつは」
「幻惑の王じゃ」
「こいつが幻惑の王……!!」
「やめろ!!」
大和の命令に即座に膝をつき『出過ぎた真似を』と頭を下げる幻惑の王。
「ともかく俺はまだお前みたいな得体のしれないナニカを配下にできるほどの余裕はない。今回は諦めてくれ」
「……しかし!!」
懇願するような瞳。
だが俯きしばらく黙ったあと幻惑の王は口を開く。
「いいえ。時期尚早でした。わかりました我が王よ。今日のところは潔く退くとしましょう」
そういうと幻惑の王はそのまま黒き灰となり、その場をあとにする。
「食えぬやつよ。あれほどの力を有しておきながら未だ未熟な大和につこうとは」
「まぁ何にせよなんとか危機は脱したってことだよな」
「うむ。一件落着じゃ」
『はぁ~怖かった~』膝から崩れ落ちる大和に改めて説教を行うヤマトタケル。
それを眺めながら微笑むアマテラス。
並行世界へ来て僅か数時間。波乱の一日は此処で終わりを告げる。




