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第1話.神埼大和という男


「いらっしゃいませー」


 入店の音楽とともに気だるげに大和は口を開く。


「はぁ……」


 同級生はみな家族を作ったり、一流企業に勤めたりしている中、神埼大和かんざきやまとは、齢二十五のコンビニ店員をやっていた。


「神崎くん!!レジレジ!!」

「……っす」


 店長のその言葉に気だるげに悪態をつきながら作業の手を止め、レジへ向かう。


「お会計580円になりまーすって……またお前か九重」

「えへへ……」


 気恥ずかしそうに俯きながら、笑う彼女は前に勤めていた会社の同僚である九重久遠ここのえくおんだ。

 会社の中でも一、二を争うほどの人気っぷりだった彼女。

 綺麗な栗毛の長髪に見たもの全てが魅了されるような透き通った茶色の瞳。

 少々幼さの残る容姿に加え、あざとい性格を有している恐ろしいリアコ製造兵器だ。


「なんでわざわざ会社から遠いこの場所に毎回来るんだよ」

「あー……帰り道だから……?」


 合わせていためをそろーっと逸らす九重。


「はぁ、お前の家が変わってないのなら既に通り過ぎていると思うが」


 なぜ、九重が会社を辞めた俺に構っているのかというと……

 数年前、上司にセクハラをされていた九重を守ったことがきっかけだろう。

 まぁ、それが原因で俺はクビになったのだがそのことに関して後悔はしていない。

 それ以降、恩を感じている……というか、好意は察している。

 だが、それは助けてもらったことへの感謝を好意とはき違えてるに過ぎない。

 ましてや相手は会社をクビになって以降、フリーターをしている男だ。

 いつかは九重にも本当に好きになれる人が現れるだろう。


「大和くんはそろそろ上がりだよね?」

「お前はストーカーかなにかか?」


 頬を赤らめ『ごめんなさい』とつぶやくその仕草にドキッとしながらも、大和は頭をかきながら事務所へ足を運ぶ。


「着替えてくるわ」


 真っ暗な事務所の電気をつけ、はぁっとため息をつく。


「情けないな」


 人の好意にも真っ直ぐに答えられない程に、今の自分はどうしようもない人間だった。


「未来すら見えない人間に、人の好意を受け止められる程の器量はない……か」


 俺には中学以前の記憶が無い。

 気が付いたら両親は、亡くなっていて近場の父方の祖父母宅に引き取られていた。

 祖父母は俺を『悪魔の子』と呼び、恐れていた。

 俺の部屋は、祖父母宅の敷地内にある蔵で暑い夏は近くの川で涼み、寒い冬は毛布にくるまって凌いでいた。

 虐待だと分かっていても、自分には行く場所が無かった。


 過去の記憶の断片を必死にかき集めようとしても、ノイズが走り激しい頭痛が襲ってくる。

 何度何度思い出そうとしても、結局は無理だった。

 だけど大人になって思い出せることは二つ。


 父と母は俺の事を確かに愛してくれていた。


 そして、もう一つ。


 燃え盛る業火の中、必死で俺を守ろうとする両親の姿と目の前に立ちはだかる黒いモヤ。

 そして、両親と黒いモヤの間に立つ巫女装束の女性。

 あれがなんだったのかは、今でも思い出せない。


『大和。あなたを世界で一番愛してるわ。』

『俺たちの分まで幸せになってくれ。』


 にっこりと微笑み両頬を撫でる母と父。

 夢で見た記憶の断片。

 あの両親の言葉に救われ、今まで生きてきた。


 だが……


「25歳無職フリーター……そんなやつが希望を持つな。ダメだ。」


 軽く両頬を叩き制服から私服に着替えて、ロッカーを閉め事務所をあとにする。


「あ!やっと来た!」


 ぱぁっと表情明るく嬉しそうにこちらによってくる九重。

 何も言わず当たり前のように、九重の家へ歩みを進める。


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