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家族なれるよ

作者: 差等キダイ

 先日、親が再婚した。

 もちろん反対などする理由はない。親が幸せになってくれるのは大歓迎だ。

 だが、増えたのは親だけではない。

 何と相手には連れ子がいたのだ。

 2つ年上の女子らしい。

 この事実に最初は困惑した。

 年の近い女子といきなり同居するなんて、果たして上手く行くのだろうか。めっちゃ感じ悪かったらどうしよう……ていうか、向こうは既に気持ち悪がってたりしないだろうか?

 そんな心配が頭の中をよぎった。いくら思春期とはいえ……漫画でありそうな一大イベントとはいえ、実際に自分の身に起こると、あれこれ考えて、ただ喜ぶようなことはなかった。どちらかといえば不安のほうが大きかった。だが……その姿をひと目見てから、色んなものが消し飛んだ。

 亜麻色のショートヘア、均整のとれたスタイル。ぱっちりした目、薄めの唇。クールだけど刺々しくはない佇まい。

 何故か僕は安心感を覚えていた。この人となら家族としてやっていけると直感で感じていた。

 そんな予感から数日後。

 僕は義姉さんに料理を教えてもらってるのだが……


「あの……義姉さん?」

「何?」

「ちょっと近くないですかね?」

「そうだね。だから何?」

「あっ、はい……大丈夫です」


 何を言っても無駄だと言うことがわかりきったので、大人しく従うことにする。わけもなく敬語になってしまうのもいつもどおり。

 こんな感じで、先月家族になったばかりの義姉さんは、距離感がいまいちバグっている。


「……当初の予定とはだいぶ違うけど、これはこれでありね。うん」

「何か言った?」

「ううん。何でもないわ」

「姉弟仲が良くて微笑ましいなあ!」

「ええ、ほんと。やっぱり私達再婚して正解だったわね」


 両親は呑気な笑顔でこちらを見ていた。


 ********


「おい、それのどこが悩みなんだ。それは自慢って言うんだよ」

「いや、違うって!自慢なわけがない!本当に対応に困って……」

「髪長かったら完全にお前の好みまんまだな」

「ああ、ウチに来る前に切ったらしいよ」


 僕は親友の野木に切実な悩みを打ち明けたのだけど、彼は呆れたように溜め息を吐いた。その目には、こちらを羨むようなものを感じる。


「別に何も考えなくていいだろ。黙って幸福を享受しておけよ」

「そ、そんなこと言われても……」


 周りから見れば確かに幸運なのかもしれない。こういう反応は予想していた。さらに言えば、僕も今みたいになる前はそういう妄想をしたことはある。だが……いざ家族になってみると、不思議とそういう気持ちは抑え込まれた。

 まあ、向こうもそのうち飽きるだろう。


 ********


 さっきはカッコつけたけど理性がヤバイ!!!

 そう、こちらは思春期真っ只中の青少年なのだ。

 つい最近まで赤の他人だった美女に、こんなに不用意に接触されたら、体が自然と反応してしまう……。

 もしそんなのを見られたら、恥ずかしくてとても生きていけない!


「どうかしたの?」

「あ、な、何でもないよ……うん」


 野菜の皮を剥く僕の手元を見ながら、義姉さんは不思議そうに聞いてきた。

 ちなみに今は二人で一緒に晩御飯の支度をしているところだ。

 母と二人暮らしだった頃は僕がよく一人でやっていたが、今は義姉さんと一緒にやる機会が多い。

 しかも僕よりも腕がよく手際がいいので、色々と教えてもらえるからありがたい。ただ……


「ここはこうやるんだよ」

「あ、ありがとう……」


 手を優しく添えられて、またどぎまぎしてしまう。思春期男子なら仕方がないだろう。だが、ここまでくっつく必要があるのだろうか?どっちでもいいけど!

 ほのかに顔を出そうとする下心を抑えながら、僕は手元に集中した。落ち着け。料理中は手元から目を離しちゃいけない。

 そんなこんなで慌ただしく日常は過ぎていき……と言いたいところだが、これだけではなかった。

 夜も更け、心地よい眠りに誘われていると、ドアが開く小さな音がする。

 …………来た。

 身構えていると、その音は当たり前のようにベッドに近づき、するりと猫のように潜り込んでくる。

 優しい体温が間近で存在を主張しているのを無視していると、背中に柔らかいものが当たり、胸元をしなやかな指先が這う。

 体が跳ねそうになったけど、寝たふりがバレるといけないので、何とかこらえた。すると……


「あ、自分の部屋と間違えた」


 なんと見事な棒読み。

 しかも昨日と言ってることが一緒だ。何なら一昨日とも一緒だし、その前の日とも一緒である。多分明日も言うだろう。

 そして、慌てたような動きでベッドを出た義姉さんが部屋を出ると、僕は大きな溜め息を吐いた。 

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 果たしていつまで理性が保つのだろうか?

 そもそも目的は何なのだろうか?

 考えているうちに今度こそ眠りに就いた。

 夢はやけにピンク色だった。


 ********


 翌日、学校から帰って来ると、リビングを床に写真が落ちていた。

 拾い上げると同時に僕は目を見開いた。

 そこには小学生の頃の僕と……初恋の人が写っていた。

 亜麻色の長い髪がトレードマークの女の子。

 転校してもう二度と会えないと思っていたのに……ていうか、この子は間違いなく……。

 すると、ドタバタと足音が聞こえてきた。

 

「あっ!」

「義姉さん……この写真……」

「気にしないで」


 いや、さすがに無理だろう。

 だが義姉さんはその写真を僕の手からひったくると、大事そうに胸に抱きしめた。


「最初から知ってたの?」

「さあ、どうかしらね?でも、あと少しだけだから」

「えっ?」

「あと少しでちゃんとお姉ちゃんになるから……それまで待ってくれる?」

「……わかった。待つよ……義姉さん」

「そう……じゃあ、はい」

「何?」

「姉弟のハグ」

「……そんなのあるの?」

「あるよ。知らないの?これで意識しなくなれば完璧でしょ?」

「言われてみればそうかもしれない……っ」


 頷いた途端、きつく抱きしめられていた。

 この香りはだいぶ慣れたけど、この感触には慣れない。

 そして、その感触は数秒で離れていった。まるで手のひらから砂が零れ落ちるみたいに。


「じゃ、これから改めてよろしくね。弟くん」

「……うん……義姉さん」


 いたずらっぽく笑うその顔を僕はしばらく見つめていた。

 同時にあの日の思い出が鮮明に蘇ってきた。昨日の夢よりもはっきりと……。

 これは……家族になるのはもう少し時間がかかりそうだ。

 


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