家族なれるよ
先日、親が再婚した。
もちろん反対などする理由はない。親が幸せになってくれるのは大歓迎だ。
だが、増えたのは親だけではない。
何と相手には連れ子がいたのだ。
2つ年上の女子らしい。
この事実に最初は困惑した。
年の近い女子といきなり同居するなんて、果たして上手く行くのだろうか。めっちゃ感じ悪かったらどうしよう……ていうか、向こうは既に気持ち悪がってたりしないだろうか?
そんな心配が頭の中をよぎった。いくら思春期とはいえ……漫画でありそうな一大イベントとはいえ、実際に自分の身に起こると、あれこれ考えて、ただ喜ぶようなことはなかった。どちらかといえば不安のほうが大きかった。だが……その姿をひと目見てから、色んなものが消し飛んだ。
亜麻色のショートヘア、均整のとれたスタイル。ぱっちりした目、薄めの唇。クールだけど刺々しくはない佇まい。
何故か僕は安心感を覚えていた。この人となら家族としてやっていけると直感で感じていた。
そんな予感から数日後。
僕は義姉さんに料理を教えてもらってるのだが……
「あの……義姉さん?」
「何?」
「ちょっと近くないですかね?」
「そうだね。だから何?」
「あっ、はい……大丈夫です」
何を言っても無駄だと言うことがわかりきったので、大人しく従うことにする。わけもなく敬語になってしまうのもいつもどおり。
こんな感じで、先月家族になったばかりの義姉さんは、距離感がいまいちバグっている。
「……当初の予定とはだいぶ違うけど、これはこれでありね。うん」
「何か言った?」
「ううん。何でもないわ」
「姉弟仲が良くて微笑ましいなあ!」
「ええ、ほんと。やっぱり私達再婚して正解だったわね」
両親は呑気な笑顔でこちらを見ていた。
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「おい、それのどこが悩みなんだ。それは自慢って言うんだよ」
「いや、違うって!自慢なわけがない!本当に対応に困って……」
「髪長かったら完全にお前の好みまんまだな」
「ああ、ウチに来る前に切ったらしいよ」
僕は親友の野木に切実な悩みを打ち明けたのだけど、彼は呆れたように溜め息を吐いた。その目には、こちらを羨むようなものを感じる。
「別に何も考えなくていいだろ。黙って幸福を享受しておけよ」
「そ、そんなこと言われても……」
周りから見れば確かに幸運なのかもしれない。こういう反応は予想していた。さらに言えば、僕も今みたいになる前はそういう妄想をしたことはある。だが……いざ家族になってみると、不思議とそういう気持ちは抑え込まれた。
まあ、向こうもそのうち飽きるだろう。
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さっきはカッコつけたけど理性がヤバイ!!!
そう、こちらは思春期真っ只中の青少年なのだ。
つい最近まで赤の他人だった美女に、こんなに不用意に接触されたら、体が自然と反応してしまう……。
もしそんなのを見られたら、恥ずかしくてとても生きていけない!
「どうかしたの?」
「あ、な、何でもないよ……うん」
野菜の皮を剥く僕の手元を見ながら、義姉さんは不思議そうに聞いてきた。
ちなみに今は二人で一緒に晩御飯の支度をしているところだ。
母と二人暮らしだった頃は僕がよく一人でやっていたが、今は義姉さんと一緒にやる機会が多い。
しかも僕よりも腕がよく手際がいいので、色々と教えてもらえるからありがたい。ただ……
「ここはこうやるんだよ」
「あ、ありがとう……」
手を優しく添えられて、またどぎまぎしてしまう。思春期男子なら仕方がないだろう。だが、ここまでくっつく必要があるのだろうか?どっちでもいいけど!
ほのかに顔を出そうとする下心を抑えながら、僕は手元に集中した。落ち着け。料理中は手元から目を離しちゃいけない。
そんなこんなで慌ただしく日常は過ぎていき……と言いたいところだが、これだけではなかった。
夜も更け、心地よい眠りに誘われていると、ドアが開く小さな音がする。
…………来た。
身構えていると、その音は当たり前のようにベッドに近づき、するりと猫のように潜り込んでくる。
優しい体温が間近で存在を主張しているのを無視していると、背中に柔らかいものが当たり、胸元をしなやかな指先が這う。
体が跳ねそうになったけど、寝たふりがバレるといけないので、何とかこらえた。すると……
「あ、自分の部屋と間違えた」
なんと見事な棒読み。
しかも昨日と言ってることが一緒だ。何なら一昨日とも一緒だし、その前の日とも一緒である。多分明日も言うだろう。
そして、慌てたような動きでベッドを出た義姉さんが部屋を出ると、僕は大きな溜め息を吐いた。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
果たしていつまで理性が保つのだろうか?
そもそも目的は何なのだろうか?
考えているうちに今度こそ眠りに就いた。
夢はやけにピンク色だった。
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翌日、学校から帰って来ると、リビングを床に写真が落ちていた。
拾い上げると同時に僕は目を見開いた。
そこには小学生の頃の僕と……初恋の人が写っていた。
亜麻色の長い髪がトレードマークの女の子。
転校してもう二度と会えないと思っていたのに……ていうか、この子は間違いなく……。
すると、ドタバタと足音が聞こえてきた。
「あっ!」
「義姉さん……この写真……」
「気にしないで」
いや、さすがに無理だろう。
だが義姉さんはその写真を僕の手からひったくると、大事そうに胸に抱きしめた。
「最初から知ってたの?」
「さあ、どうかしらね?でも、あと少しだけだから」
「えっ?」
「あと少しでちゃんとお姉ちゃんになるから……それまで待ってくれる?」
「……わかった。待つよ……義姉さん」
「そう……じゃあ、はい」
「何?」
「姉弟のハグ」
「……そんなのあるの?」
「あるよ。知らないの?これで意識しなくなれば完璧でしょ?」
「言われてみればそうかもしれない……っ」
頷いた途端、きつく抱きしめられていた。
この香りはだいぶ慣れたけど、この感触には慣れない。
そして、その感触は数秒で離れていった。まるで手のひらから砂が零れ落ちるみたいに。
「じゃ、これから改めてよろしくね。弟くん」
「……うん……義姉さん」
いたずらっぽく笑うその顔を僕はしばらく見つめていた。
同時にあの日の思い出が鮮明に蘇ってきた。昨日の夢よりもはっきりと……。
これは……家族になるのはもう少し時間がかかりそうだ。