2月15日(10)
「ぐっ」
彼は顔を歪ませながら、こちらの伸びた脇腹に足刀を加えてくる。
とてつもない衝撃が己の脇腹を襲った。数メートル吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「ぐはっ」
肺の空気が全て吐き出される。
ゼックスはすぐさま追撃しようとしてくるが、
「――――《貫け、天への御柱》」
再度、詠唱を完成させた芽衣の声が鳴り響く。
同時に、ゼックスの進行方向上に魔法陣が出現。さらにその魔法陣から蒼炎の火柱が勢いよく噴き出した。
火柱に巻き込まれるわけにもいかず、ゼックスは追撃を断念する。だが、彼はその矛先を芽衣へと変えた。
「【蒼炎】――」
蒼炎の蛇が芽衣に躍りかかる。
魔導を使ったばかりで虚を突かれた形になったため、彼女の詠唱は間に合わない。
「――【接続】」
しかし、彼女は回避をするでもなく、冷静に最初の詞を口にする。
当然だ。
炎蛇が大きく口を開けた瞬間、俺は炎蛇と彼女の間に入り込み、炎蛇を斬りつける。【虚無】により炎蛇が瓦解し、霧散する。
「《――――、灰も残らぬよう喰らい尽くせ》」
直後、芽衣の詠唱が完成する。
今度は、彼女からゼックスに向かって蒼炎の蛇が襲い掛かる。
それをゼックスは大鎌で一閃することで対処する。炎蛇は一瞬で霧散した。
彼女の魔導と彼の魔導の残り火がところどころ地面でくすぶっている。
俺は芽衣の隣に立ち、じっとゼックスを見据える。
彼は大鎌で地面をカランっと鳴らした。しゃがみ込み、近くに落ちていた自身の左腕を拾い上げる。
「腕を斬り飛ばされるなんて何百年ぶりだろ……、あ、やっぱり、くっつかないや」
ゼックスは左腕を患部にくっつけようとする。
おそらく、ただ斬り飛ばされただけだったら、ああすることで腕は元通りになるのだろう。しかし、今回は【虚無】によってそれは阻害される。
それどころか、【虚無】が彼の枢要部へと侵食しているように見えた。このままでは、やがて彼の全身に【虚無】が回り、体が崩れ落ちる。
「わお、ほんと厄介な魔導だな。仕方ない――、フンッ」
そう言って、ゼックスは肩近くから残った左腕を斬り飛ばす。その行為に一切の躊躇はなかった。
肩近くからぼたぼたと青い血が零れ落ちるが、すぐにそれは収まり、患部も治癒していく。
豪快すぎる応急措置を終えると、ゼックスはこちらに顔を向けた。その表情には、またあの気味の悪い愉悦が浮かんでいる。
「いやぁ、君たちは僕を想像以上に楽しませてくれるね。こんな刺激的なのは久しぶりだよ。それじゃあ、お礼に面白いものを見せてあげよう」
そう言うとゼックスは自身の獲物を放り投げる。
宙を舞った大鎌はやがて地面に落ち、カランカランっと音を鳴らす。
何かをしかけてくる――――。
俺たちは緊張感を纏いなおした。




