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2月15日(7)

 群青と漆黒の魔力粒子が二人を包み込む。

 屍鬼しきたちも同時に動き出した。

 魔導師は詠唱が完成しなければ魔導を使うことができない。詠唱が完成する前に勝負を決めようという算段だろう。

 この場で詠唱を続けたとしても殺られるだけなので、俺たちは二手に分かれた。

 当然、屍鬼たちも二手に分かれる。

 芽衣の方が強敵と考えたのか、俺についてきた数よりも芽衣の方が多い。三対七くらいの割合だろうか。


「《()なる者よ、我が世界から消え失せよ――》」


 疾走しながらすばやく詠唱を完成させる。

 漆黒の魔力粒子が小太刀を包み込んだ。

 俺は、真っ先に飛び込んできた屍鬼を袈裟斬りにし、次に後ろから飛びかかってきた屍鬼を振り向きざまに一閃する。

 虚無の魔導がかかった小太刀だ。たった一太刀でも枢要部を斬りつけられた屍鬼は一気に瓦解していく。


 一瞬のうちに仲間が二体もやられたことに動揺したのか、屍鬼たちがたたらを踏んだ。

 その隙を見逃すわけにはいかない。

 俺は身を引くし、地面すれすれを疾く駆ける。

 屍鬼の一体が己の一瞬の隙を後悔するのとこちらが屍鬼に一太刀を浴びせるのは同時だった。

 脇腹を抉られた屍鬼が倒れ伏し、やがて虚空へと消えていく。


 左右から二体が飛びかかってきた。

 俺は前方に転がり、攻撃を回避。回避した直後に振り返り、地面を強く蹴る。

 瞬時に間合いに飛び込むと、力いっぱい小太刀を横になぐ。

 ――四体目。

 さらに続く五体目もその喉に小太刀を突き立てた。


「ゔあっ」

 哭き声とともに最後の一体が後方から襲いかかる。

 振り向きながら後方へ跳ぶ。

 目の前を屍鬼の右手が掠めた。

 不発に終わったと分かると、攻撃をもらうまいと屍鬼も後ろに大きく跳んで、その場を退避した。

 その屍鬼と対峙する。

 そいつは見知ったやつだった。

「琢磨……」

 小太刀を握る手に力がこもる。

 よく見ると、その表情は泣いているようにも見えた。

 言葉なんて発するわけないのに、早く解放してくれ、そう言っているように聞こえた。

「ああ、今、お前を解放してやる」

 地面を蹴って屍鬼との距離を詰める。

 屍鬼も大きく前方に跳ぶ。

 一人と一体の距離がどんどん縮まっていく。

 そして互いが交差する瞬間、俺は力いっぱい小太刀を振り抜いた。

「……」

「……」

 両者の位置が入れ替わり、互いに背を向け合う。


 ドサッ


 後方で何かが崩れ落ちる音がした。

「琢磨……、静かに眠れ……」

 ゆっくりと振り向く。

 その目には空へと還る友人の姿が映った。


 やがて、琢磨が跡形もなく消滅するを見届けると、俺はもう一つの戦場に目を向けた。

「さて、芽衣の方は……」

 視線の先では、芽衣が俺の倍以上の数の屍鬼を相手に奮闘していた。

 俺のときとは違い、詠唱が完成する前に三体の屍鬼が彼女に踊りかかる。

 芽衣はポケットから針を取り出し、屍鬼たちに向かって投擲する。

 計六本の針は見事に屍鬼たちの両の目を打ち抜いた。


「《隔世(かくせ)に住まう炎蛇(えんじゃ)よ――――。》」


 詠唱の途中で次の屍鬼たちが飛びかかる。その数は先ほどより一体増えて、四体。

 しかし、芽衣は見事な体さばきで攻撃をいなしていく。

 魔導師というと魔導だけしか取り柄がないようにも思えるが、超一級の魔導師はそんなことない。魔導だけでなく、体術、先読み、駆け引き、戦闘に関する技術すべてに秀でている。そのため、詠唱、回避、攻撃を並行して進めることができる。


「《灰も残さぬよう()らい尽くせ――――》」


 彼女の詠唱が完成する。

 直後、彼女を取り囲んでいた十四体の屍鬼たちを巨大な蒼炎の蛇が呑み込んだ。

 炎蛇の通り道となったところにはもう何も残っていない。その場に立っていたのは彼女だけだった。

 圧倒的な火力。暴力的な力。

 紅家直系の格の違いをまじまじと見せつけられる。

 蒼炎の蛇は役目が終わると、群青の魔力粒子となって霧散した。


 俺は彼女のもとへと歩き、隣に並ぶ。

 芽衣は俺が来ると、頑張ったねと言うかのように優しく笑みを浮かべた。おそらく、俺がクラスメイトを斬ることになったからだろう。

 彼女の気遣いに胸が温かくなった。


 しかし、これからが本番だ。


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