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2月9日(1)

すみません。また日付をまたいでしまいました……


さて、今まで少しシリアス展開が続きましたが、ここからしばらくは優しい世界が続きます

「おはよう、彰」

 教室に入って少し経つと琢磨がいつものように声を掛けてきた。

「おはよう……」

 席に座ったまま挨拶を返す。

「ん、なんか元気なくね?」

 いつもと様子が違ったのか琢磨は心配そうに顔を覗きこんできた。

「い、いや……、なんでもない」

「変なの」

 琢磨は首を傾げる。


 本来ならもう一人この場にいるはずだった。

 いつも二人で朝は話しかけてきてくれた。

 他愛もない話をして、笑いあった。

 日常のうちほんのささやかな時間だったけど、俺にとってはかけがえのない時間だった。

 しかし、もう三人でつるむことはない。


「それにしても武も薄情だよなぁ」

 琢磨が腕を頭の後ろに組みながら呟いた。

 その視線の先には、今日から誰も座らなくなった椅子と机がある。

「今朝学校に来てみたら既に転校していました、なんてな。クラスのみんなに挨拶もなしかよ」

 琢磨の口から恨み言が零れる。


 国島武は転校した。

 学園のみんなにはそう連絡された。

 屍鬼しきの存在を公にしたくない魔導師や警察が真実を捻じ曲げ、虚偽の事実を流した。

 無用のパニックを避けるため、それは仕方のないことなのだろう。それくらい、俺にも分かる。

 でも、理解できるのと納得できるのとは違う。

 武と近しい人たちにまで嘘をついてよかったのか。そんな疑問がどうしても付きまとう。


 それに――――、


 あの瞬間を思い出す。武を斬りつけた瞬間を。

 屍鬼になっていたとはいえ、自分は友人を斬った。

 自分が彼を殺したといっても過言ではない。

 その事実が気持ちを暗くさせた。


「おーはよっ」


 そうやって落ち込んでいると隣から威勢のいい挨拶が聞こえてきた。

 ゆっくりと振り返る。

 そこには昨日、恋人になったばかりの彼女がいた。

「ああ、おはよう」

「あー、まーた、作り笑いしているー。もう、やっと笑えるようになったんだから笑顔でいないとっ」

 彼女は相変わらず元気だった。

 いや、今日はいつにも増している気がする。

 もしかしたら、俺が落ち込んでいるのに気がついているのかもしれない。

 そう思うと少し申し訳なかった。

「彰は笑ったほうが絶対、かっこいいからね。ほら、笑顔、笑顔」

 そう言うと彼女は眩しいくらいに、にかっと笑う。

 そんな彼女の笑顔を見ると、幾分か気持ちが晴れていった。

「ありがとう、芽衣」

 目元を細める。

 最愛の人がこんなにも元気づけようとしてくれているのが嬉しかった。

 だが、俺は重大な失態を犯していたことに気がつかなかった。


「――――二人って付き合っているのか?」


 横からそんな問いかけが聞こえてきた。

 ぱっと振り向くと、琢磨が何とも言えない表情を浮かべていた。

「えっ?」

 思考が止まる。

「だって、なんか親し気で今までとは違う距離感だし、なにより、急に名前呼びになっているし……」

「あっ……」

 間抜けな声が自分の口から零れる。

 昨日は武を倒した後、芽衣とずっと一緒にいた。

 そのときから呼び方も変えていた。

 思わずあのときの感覚で芽衣と接してしまっていた。完全にうかつだった。


「えっ、えっ、なになに、紅ちゃんと笹瀬くんが付き合っているのっ⁈」

「えっ、紅さんの恋人が笹瀬⁈」

「うぅ……、俺、ひそかに紅さんのこと狙っていたのに……」


 しかも不運なことに、琢磨の言葉はクラスのみんなにも聞こえたらしい。

 ある者は黄色の声をあげながら、またある者は涙を流しながら、こちらに集まってくる。


「お、おい、どうす……」

 この場をどう切り抜けるべきか相談しようとさっと、彼女に顔を向ける。

 しかし――――、


「えへへ……、じ、じつは、付き合うことになりました……」


 そこには嬉しさを存分に含ませながら、照れ笑いを浮かべる彼女の姿があった。

 この後、クラス中(果ては学年中)から質問攻めにあったのは言うまでもない。


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