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1月10日(2)

***


 科学技術が発達した現代においても魔導は廃れてなかった。魔導は、魔法とも呼ばれ、その存在自体は認識されている。

 しかし、その魔導を扱える者、いわゆる魔導師たちは、その他大勢の一般人に紛れ、ひっそりと暮らしていることが多い。

 俺たちの笹瀬家も代々続く魔導師の一族だ。笹瀬家は魔導師の一族としては無名だが、この地域で夜になると現れる化け物――怪異を滅するべく、夜な夜な魔導師として活動している。


 でも、今の俺は……


 もの思いにふけっていると、不意に強い可視光線が目に入ってきた。

「うっ」

 たまらず顔をしかめてしまう。

「彰、おはよう」

「お前、なんでカーテン閉めてんだよ?」

 声がした方に意識を向けると、二人の男子生徒がこちらをのぞき込んでいた。視界の端には、席についてすぐに閉めたはずのカーテンが開かれているのが見える。どうやら目の前にいる二人が開いたらしい。

「窓際の席って朝は眩しすぎるから閉めてんだよ」

 自分の世界に浸っていたところを邪魔されたため、不機嫌気味に二人を睨みつけた。

 目の前にいる二人のうち、背が高く肩幅が広い男は瀬尾琢磨せおたくま。そのがたいの良さを買われてラグビー部に所属している。

 もう一人の眼鏡をかけている男は国島武くにしまたける。琢磨とは対照的に線が細いが、運動神経はかなり高い。テニス部の次期キャプテン候補だ。

「そんなこと言って、ほんとはただ寝たいだけだったんじゃないか~?」

「まじかよ、まだ学園に来てほんの数分だろ? 早すぎじゃね?」

 琢磨たちは仏頂面の俺を見てケラケラと笑う。そんな彼らの雰囲気に充てられたのか、今朝の憂鬱な気分も幾分か吹っ飛んだ。

 しかし、二人にとって俺は多くいる友人の一人に過ぎない。毎日この時間はこうやって一緒に話すが、それ以外だとほとんど話すことはない。


 そのため――――、


「おーい、たくまー、たけるー、こっち来いよー」

「たくまくーん」

 さらに琢磨たちと仲がいい者たちが登校してきたらしい。彼らが声を掛けると、琢磨たちは、じゃあな、と言って俺の席を後にする。

 別に彼らが俺よりも他の人を優先するからといって、彼らを恨むつもりはさらさらない。むしろクラスで浮き気味の俺に話しかけてきてくれる彼らにはとても感謝している。彼らとの会話は他愛もないことばかりだが、俺にとっては心地よいものだった。

「でさー、実は今日、うちのクラスに転校生がくるらしいぜ?」

「え、マジ? どこ情報よ」

「丸井が職員室で転校生と担任が話しているのを見たらしい」

「転校生って、男? 女?」

「もう、男子ってすぐにその質問するぅ」

「当たり前だろ(笑)」

「丸井によると、転校生は女子らしいぞ? それもかなり美人らしい」

「「いっやほー」」

 琢磨たち数人の声が耳に入ってくる。どうやら、この二年三組に転校生がやってくるらしい。

「転校生か……」

 頬杖を突きながら、窓の外を見つめる。青々としたキャンバスには雲一つなく、今日も乾燥した冬空が広がっている。

 俺は名も知らない転校生について思考を巡らせる。

 今日は三学期始めの始業式の日。つまり、彼女は二年の三学期からこの星華学園に転入してくることになる。受験も遠くないこの時期に転入してくるのはかなりのレアケースだ。

 そういえば、二学期には俺の隣に机がなかったのに、今は机と椅子が設置されている。席についたときは不思議だったが、なるほど、この席は転校生のものだったのか……

「……って、えっ?」


「はーい、席につけー」


 聞きなれた担任の声がすると同時に教室の扉が開いた。そこで俺の思考も中断する。

「ちぇ、担任がもうきやがった」

「もうちょっと、話していたかったのにねー」

「しゃあね、早く座ろうぜ?」

 不満を口にしながらも生徒たちは各々の席に移動する。担任が教壇に立つ頃には、全員、各自の席についていた。

 担任は、教壇に両手をつき、教室を見渡す。

 みんなは静かに担任を見つめていた。

「んー、欠席者はいないようだな。学期の初日にみんな登校していて感心、感心。さて、これからHRを始める、と言いたいとこだが、まず、転校生の紹介をする。さ、入ってくれ」

 扉が開いてすぐ、その転校生が教室に入ってきた。

 同時にみんなが、おぉとざわめく。

 すらっと伸びた色白い手足に、担任の半分しかないんじゃないかと思うほどの小さな顔。その顔立ちは綺麗というよりは可愛いという言葉が適切なあどけなさを残す。また、肩に毛先が届くかというくらいに短く切られた栗色の髪が、彼女に対して活発な印象を抱かせていた。

 さっきクラスの誰かが彼女について噂していたが、どうやらその噂は本当のようだ。特に男子は、彼女に目が釘付けとなっている。

 彼女が教壇に移動すると、

「それじゃ、簡単に自己紹介を頼む」

 担任はそう言って、彼女に挨拶を促した。

「はい、分かりました」

 彼女が正面を向く。このとき、初めて彼女を正面から目にすることになったが、彼女の容姿の良さにみんなは、さらに見惚れていた。

「えー、○○県の九龍市から転校してきた紅芽衣くれないめいといいます。まだ引っ越してきて間もなく、分からないことだらけなので、色々と教えてください。これから、よろしくお願いします」

 自己紹介を終えると、紅さんはぺこりとお辞儀をした。

 教室にみんなの拍手が鳴り響く。

「えーと、それじゃあ、紅さんの席は、向こうの空いている席で」

 担任は、俺の隣の席を指さした。


 あ、やっぱりここなんだ……


 俺は、横目で隣の空席を流し見た。

「はい」

 紅さんは、指定された席に移動する。

 彼女が移動するに従ってみんなの視線が移動するのが奇妙で面白かった。

「隣の席になる紅芽衣です。これから……っっ⁈」

 席に付こうとした彼女の表情が変わった。しかし、一瞬でもとに戻る。

「ん、どうかした?」

「う、ううん、なんでもない。えっと、きみの名前は……」

 彼女は困ったように俺の胸元を見つめる。

 あ、そうか最近この学園では名札が廃止されたんだっけ。どうやら、彼女の以前の学校では、いまだ生徒は胸元に名札を付けているのだろう。

「俺の名前は、笹瀬彰。これから、よろしく」

「笹瀬……、聞いたことない家名ね……」

 名乗った瞬間、彼女が何か言葉を発したが、小さすぎてよく聞こえなかった。

「ん?」

「ううん、なんでもない。これからよろしくね、笹瀬くん」

 紅さんは笑みを浮かべる。

「あ、うん、よろしく……」

 突然の笑みに戸惑いながらも、担任の話が始まったので前を向く。そのため、横からの視線に気が付かなかった。


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