2月8日(4)
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倉庫の中は外とは打って変わって眩しいほどの白色の光に包まれていた。
「よう、待たせたか?」
倉庫の中央まで歩き、奥にたたずんでいる人物に問いかける。
「そうだな、ちょっと待った」
そいつと俺の声が倉庫内で反響する。
「で、なんでこんな辺鄙な場所まで呼び出されたのか、そろそろ説明してくれるか?」
「ああ、もちろんだ。――――武」
俺は目の前の人物をじっと見つめる。
琢磨と一緒にいつも朝、話しかけてきてくれるクラスメイト。
琢磨と違う細い体躯の彼がそこにはいた。
「それじゃあ、その説明を聞かせてもらおうか」
武は近くに積まれていた鉄骨に腰を下ろす。
「最近起こっている一連の事件については知っているよな?」
「ああ、もちろん」
武は首を縦に振った。
「それじゃあ、その中の二番目の事件、ラーメン屋の店主が襲われた事件は?」
「それも当然、知っているよ。あれは残念だった。あそこのお店は行きつけだったからな」
武が頬杖を突きながらこちらを見つめる。そんな彼の様子は、どこか今この状況を楽しんでいるようにも見えた。
「あの事件には、現場に被害者のメッセージが残されていたんだ」
そのとき、武の眉がぴくっと動く。
「へえ、それは知らなかったな」
「無理もない。警察はこのことを公表していないからな」
「なるほど、それなら知らなくても仕方ないか。それで、その被害者のメッセージは何だったんだ?」
先ほどに比べて武の眼光が鋭くなっている気がする。
次の言葉に神経を傾けている。
俺は言葉を続けた。
「縦線二本を丸印で囲ったやつ」
武は首を傾げた。
「それが被害者のメッセージだって言うのか?」
「ああ。これ、何を示していると思う?」
武は顎に手を置いて考えるそぶりをする。
「そうだな……。当てずっぽうだがコンセントマークとか?」
武の回答に俺は首を振った。
「はずれ。これはアラビア数字の十一。縦線二本だけだとメッセージと理解されない可能性があるから、外の丸を追加したってところだろう」
「ふーん、なるほど……。それで、それに何か意味があるのか?」
武がこちらを凝視する。眼鏡の奥にある瞳がじっと俺を捉えている。
「十一。漢数字で書いて、十と一を組み合わせると、『士』になる。いたよな? あのラーメン屋で『士くん』と呼ばれた人物が」
今度は武の表情がぴくりとも動かなかった。
しかし、彼が一瞬だけ握りしめている手に力を込めたのを俺は見逃さない。
「あそこの常連さんに聞いたら、『士くん』の由来は本名が武士っぽかったから一緒にいた外国人がその子を『士くん』と呼び始めたため、って言っていた。そして、その武士っぽい名前っていうのが『武』……なんだろ、士くん?」
すると、武は声を上げて笑う。
「あはは、何を言い出すかと思ったら。つまり、俺が事件の犯人だと?」
俺は真剣な表情を崩さず、武を見つめる。
武はそんな俺の表情を見て取ると、笑いを止め、口元を引き結んだ。
「たしかに俺はあそこで『士くん』って呼ばれていたよ。ただ、彰の言うメッセージが本当に『士』を表していたのか? そんな連想ゲームみたいなのが?」
「被害者はそのとき既に心臓を繰り取られていたから、死ぬ間際であんなのしか書けなかったんだろ? それに連想ゲームとお前は言ったけど、人がとっさに思いつけるのってそんなもんだぞ?」
「ふーん、なるほど……」
しかし、武の顔には余裕ある笑みが張り付いていた。
「それじゃあ、彰のいう被害者のメッセージが犯人である『士くん』を示しているとして、それが正しい解釈であるという証拠は? 今のままだと、彰の推測の域を出ないけど?」
「いや、これが正しいかどうかなんてわからない」
そのとき、武がきょとんとした表情を浮かべた。
「えっ、何もないの? ミステリーとかだとここで証拠が出てくるのが定番だけど?」
「ああ、何もない。これだけだと、ただの俺の推測だって言われても仕方ないだろうな。
――――けど」
俺はとっさにポケットからある物を取り出し、それを武に向かって投げつける。
「っっ⁈」
武はそれを素早く手で払いのけた。顔を思いっきりしかめ、嫌悪感を露わにしながら。
それは武から数メートル離れた場所に転がる。
「やっぱりか……」




