1月26日(2)
***
「さて、今日は三件目の事件の現場だね」
彼女が両手を腰に置きながら、公園の入り口にたたずむ。
「たしか、この公園の公衆トイレで事件が起こったんだよな?」
「うん。それじゃ、さっそく行ってみようか」
公園の入り口には規制線が張られているのだが、もう当然のように、俺たちはそれを無視する。
しばらく中を歩くと、お目当ての公衆トイレが見えた。
現場は男子トイレの中とのことだったので、男子トイレ側に入る。
「やっぱりここもひどい状況だな」
この前のビル、二件目の現場と同様、壁と地面に大量の血痕があった。
「三件目の事件は、被害者が分からないんだよな?」
「うん、近くに防犯カメラがないから、誰がここに来たのか分からないし、見つかったのは血痕と心臓だけだしね」
彼女は質問に答えながら、辺りを観察していく。
俺も何か手掛かりはないかと細かいところまで見て回った。
小便器の側面、便座の裏まで、強烈な匂いに我慢しながらも、丁寧に確かめていく。
彼女もくさっ、とか、汚っ、とか声に出して不満を漏らしている。
「そういえば、ここって、あのビルや二件目のラーメン屋と距離が近いよな」
ふと思ったことを口に出す。
「言われてみればそうだね。ビルとラーメン屋とは一キロちょっとしか離れていないし、その二つとこことはそれぞれ一キロも離れていない」
「だけど、一件目とは結構離れているんだよな?」
「うん。ここからだと十キロくらいは離れているんじゃないかな」
「へー、そんなに離れていたんだな……」
公衆トイレやその周辺は、面積も小さく、調べるところがほとんどない。そのため、三十分くらいで調査し終えてしまった。
結局、有益そうな情報は見つからなかった。
二人一緒に公園を出る。
「それじゃ、今日の調査も終わったし、帰りますか」
彼女は両手を天に突き上げ、くぅーっと伸びをする。
「笹瀬くんは、真っ直ぐ家に帰るの?」
「そうだな。……いや、今日は途中で晩ご飯を買っておかないと」
そういえば、今朝、父さんが外食するって言っていたな。
「えっ、笹瀬くんは一人暮らしじゃないよね?」
「ああ、今日は家族で外食するとかで、家にいない」
そう口にしたら気分が落ち込んだ。もちろん、顔に出すようなことはしないが。
家族から除け者にされている、という現状を改めて実感してしまった。
「……」
彼女は、なんで笹瀬くんは一緒じゃないの? とは聞いてこない。
代わりに俺の前に回り込み、見上げるようにしてこちらを覗き込む。
そうして、両手を後ろに組みながら、
「それじゃあさ、今日もうちに来ない?」
と、にかっと笑って提案してきた。
彼女の純粋な笑みに心の靄が晴れる。
「……そうしよっかな」
無意識に俺は、彼女の提案を受け入れていた。