1月25日(2)
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「さて、今日は二件目の事件が起こった場所に行くよ」
道すがら、隣を歩く紅さんが口を開く。
「二件目っていうと、十一日に起こった事件だよな」
「そうそう。心臓が見つかったのは、渋海町四番地にあるラーメン屋の裏手。事件の報道は十二日の朝だけど、このラーメン屋の店主、有村茂雄さんが十一日の夜に帰宅しなかったという家族の証言から有村さんは十一日に殺害され、心臓が抜き取られたと思われている。見つかった心臓と有村さんのⅮNAが一致したしね」
「俺もその事件はニュースで見たな。ということは、今からそのラーメン屋に行くってことになるのか?」
「正解。といっても、あと少しで到着するけどね」
言われてみれば、ここは渋海町だ。今日のお昼、彼女に言われて渋海町にルートを調べておいてと言われていたのだった。
「そういえば、一件目の事件現場には行かなくていいのか?」
彼女と一緒に調査をし始めて今日で二日目。昨日は、事件が起こった翌日ということもあり一昨日のビルに行かなければならなかったとしても、今日は、二件目の事件より一件目の事件を調査した方がいいのではないか。
しかし、彼女は首を振る。
「一件目はすでにわたし一人で調査しているから大丈夫。あそこには三回も足を運んだし、一か月以上前の事件だから、もう目新しいものはないと思うよ」
「なるほど、あんたならそれくらい調査しているか。……っと、もう着いたな」
お目当てのラーメン屋の前で足を止める。
店主が死亡したということもあり、お店は閉店しているようだ。
「それじゃあ、お店の裏手に行こうか。有村さんが襲われたのはお店の裏手だし」
「ああ、そうだな」
近くの路地に入り、お店の裏側に回る。
この前と同じく規制線が張られていたが、警察がいなかったこともあり、俺たちはそれを無視して中に入った。
「にしてもまた、おびただしい血の量だな」
現場の地面にはバケツをひっくり返したように盛大かつ大量に血液がばらまかれていた。あまりの惨状に目を背けたくなる。
なにせ、大動脈をぶち切って心臓を取り出しているのだ。その瞬間、大量の血液が噴き出すのも容易に想像できる。
「一件目の事件もこんなもんだったよ。さ、さっさと現場の検証をしないと」
そんなことを言いながら、彼女はパシャパシャとカメラで撮影していく。
俺も一応、彼女の助手ということになっているので、彼女の邪魔はしないよう、何か手掛かりはないかと探し回る。
「ん、なんだこれ」
お店の勝手口に入る階段の側面に何かを見つけた。
「どうかした?」
俺の声を聞きつけた彼女も近くにやってくる。
「ほら、これ、血で何か書かれている」
「あ、これなら、事件を捜査していた刑事さんからも聞いた。ただ、これが何かまでは分からないって」
指さした先にあるのは、縦線二本を丸印で囲ったもの。ぱっと見はプラグの差込口に見えなくもない。日本の場合は四角で囲まれているので、丸になっているこれは海外製か?
とりあえず、これも写真に収めておく。
「それじゃあ、次は店内に入ってみよっか」
彼女は勝手口へと移動する。
「入ってみよっか、て、ここの鍵は閉まっているだろ? 一体どうやって……」
「ん、鍵なら刑事さんから貸してもらっているよ?」
直後、彼女が鍵を開ける音がした。
「あ、さようですか……」
彼女が先に店内に入り、俺はその後に続く。
中は至って普通のラーメン屋だった。
ただ、一つだけ特徴的な点がある。それは、名前が書かれた札がいくつも壁面に掛けられていることだ。
三島繁明、相田夢、佐藤昂輝、有島幸助、国島武、武井美佳、小島ありさ……、ざっと三十人くらいか? それに、何人かおきに黒帯や白帯、師範といった立て札がぶら下がっている。
「どうやら、ここのお店の常連さんを記しているみたいね」
「だとすれば、この黒帯や白帯は常連度を表しているんかな。階級が上になるにつれて特典が豪華になるとか」
「へー、面白そう。わたしなら毎日でも行きたいな」
「ラーメン毎日はさすがに控えた方がいいぞ」
嬉々として語る彼女にジト目を送る。
この後も一時間ほど調査を続けて、今日はお開きとなった。