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1月24日(3)

***


 昨日の事件現場には、多数の警察官が集まり、黄色の規制線が張られていた。

 目撃者が警察に通報したと言っていたんだ。警察が集まっているのも納得できる。


「で、どうすんだよ、ここから」

 隣にいる彼女に問いかける。

 俺たちは一般人。警察がここから先に通してくれるとは思えない。

 すっかりお手上げのように思えた。

「ん、どうするって、そりゃあ、中に通してもらうんだよ?」

 しかし、彼女はさも当たり前のように、そう返答した。

「へ? いや、相手は警察だろ? すんなり通してくれるわけが……」

 そんな俺の言葉を無視し、彼女は、ビルの入り口に近づく。


「こら、ここから先は立入禁止だ」

 当然の如く、彼女は近くにいた若い警察官に行く手を妨げられた。

「ここの担当者はいる? もしくは警部補以上。いたら、その人に紅の人間が来たって伝えて」

「は? きみ、何言ってるの? いいから早くここから……」


「一体どうしましたか?」

 ビルの中から一人の男が出てきた。

「あっ、須藤すどう警部。いや、この子たちが中に入ろうとしてきて……」

「ん、ここから先は入れないので、さっさと追い払ってください」

「いえ、それが……」


「須藤警部」

 彼女が二人の警察官の会話に割って入る。

「ん、なにか?」

 須藤警部が怪訝そうにこちらに振り向く。

「わたしは、紅家四女、紅芽衣よ。今回の事件の調査がしたいから、中に入れて」

 彼女は自身の名前を告げると、ポケットから警察手帳を取り出した。

 須藤警部は、彼女の警察手帳をのぞき込む。


「……。なるほど、紅家のお嬢様ですか」

「ええ。これで入れてくれるでしょ?」

「分かりました。きみ、このお方を通してあげてください」

「えっ、あっ、はい、分かりました」

 たくさんの疑問符を浮かべながらも、上司に指示されたため、若い警察官は紅さんの道を開けた。

「ありがとう。あ、それと、そこの高校生はわたしの助手みたいなものだから、一緒に連れていくね」

「結構ですが、現場を荒らさないでくださいね」

「もちろん。さ、行こう」

 彼女はスタスタと中に入っていく。

「あ、ああ……」

 戸惑いながらも、彼女について行く。


 ビルの中は、当然のように多数の警察官がいた。

 ある人は数人の刑事と固まって事件に関して考察し、またある人はビルのいたるところを写真に収めていく。

 高校生二人が場違いな場所にいるため、たまに彼らの視線を浴びるが、ほとんどの刑事は自己の業務に忙しく、俺たちが歩いていても知らんぷりだ。


「どういうことだよ?」

 周囲の邪魔にならないよう、声を潜めて彼女に問いかける。

「ん、なにが?」

「なんで、あんたが警察手帳なんか持ってんだってこと」

「ああ、これのこと?」

 彼女がポケットから先ほど須藤警部に見せていた警察手帳を取り出す。

「紅家の人間は、怪異の調査・討伐のために全事件に対する捜査権限が与えられているの」

 彼女がかざした警察手帳をまじまじと覗く。いかにも本物らしい重厚なつくりだった。

「まじかよ。紅家って本当にすごいのな」

「当然でしょ? さ、着いた」


 二階へつながる階段を上り終え、昨日、俺が最初に屍鬼しきを見つけた地点に到着する。

 さすがに被害者の遺体は既に撤去されており、被害者がいたと思われる場所には、白テープで印がつけられていた。


「ねえ、被害者について教えてくれる?」

 彼女は近くにいた刑事に話しかける。

「ん、ああ、きみがさっき須藤警部から連絡があった紅家のお嬢様か。いいぜ、教えてやる」

 そう言うと、その刑事は胸ポケットからメモ帳を取り出した。

「被害者の名前は、進藤亘しんどうわたる。三十五歳。このビルの建設に携わる会社に勤務している。死因は失血死だな」

「発見時の写真を見せてもらえる?」

「いいけど、かなりグロテスクだぞ?」

「そんなの慣れているよ」

 あっけからんと答える彼女に刑事は肩をすくめる。

「その年で変死体に見慣れているなんて、ほんと魔導師ってのは難儀な人種だね。ほら、これがそのときの写真」

「ありがとう」

 彼女は刑事から数枚の写真を受け取り、じっと眺める。

 俺も覗き込むようにして、その写真を彼女と一緒に見た。


 写真の中の男性は血まみれで右手と左足が半分以上欠損している。加えて、腹部も皮膚と肉が食い破られていて、中からは臓物が引きずり出されていた。

 一目見た瞬間、胃酸が這い上がってくるのを感じて、すぐに写真から目を離す。

 一方の彼女の視線は写真から全く動こうとしない。


「たしかに、これはひどいね。さっき、被害者はこのビルの建設に関わっているって言っていたけど、それじゃあ、被害者はここで作業した後に犯人に襲われたってこと?」

「付近の防犯カメラを確認したが、一番最近、被害者の姿を捉えていたのが出勤時の朝方だったから多分そうだろうな」

「ふーん、そう……。あ、防犯カメラを確認したなら、そのときに妙な人影はなかった? ここの作業員でない人」

「ああ、一人だけいたぜ」

「そのときの写真は?」

「これだ」

 刑事は彼女に一枚の写真を渡す。

「でも、夜だったから写真が鮮明じゃないんだよな。これだと誰だか判別はつかないぜ」

 俺もその写真を見てみたが、かなりボケていた。ただ、服装からするに俺が昨日出会った屍鬼しきと同一人物のように思えた。

「たしかに、そのようね」

 はい、と言って彼女は写真を刑事に返す。


「話は変わるけど、このあたりで最近、行方不明になった人はいる?」

「おいおい、いきなりだな……。まあ、別にいいけど。そうだな、最近、行方がわからなくなったのは、池田たい子、国島樹生、飯島大地、三宅芳樹、佐藤美香……」

 刑事はメモを見ながら、行方不明者の名前を読み上げていく。

 彼女もその人物の名前を自身のメモ帳に記入していく。

 刑事が全ての人物の名前を上げると、彼女はメモ帳をぱたんと閉じた。

「ここ二週間で八人、結構な数ね」

「ああ。俺らも今、その八人と被害者との関係を調べている。他に聞きたいことはあるか?」

「ううん、とりあえずはこれで十分。色々教えてくれてありがとね」

「お安い御用だ。また何かあれば言ってくれよ」

「うん、そうする」

 そうして、聞きたいことを聞いた彼女と俺は、その刑事に礼を言ってから離れる。


 この後、被害者が倒れていた場所以外を見て回り、今日の調査を終えた。


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