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1月23日(6)

 ガンッというとてつもない音とともに、扉が吹っ飛んだ。中からはやっぱりあいつが姿を現す。

 もう少しゆっくり開けろよ、と全く意味のない愚痴を心の中で吐き捨てる。

「さぁて、これからどうするかな……」

 息を切らしながら苦笑いする。

 あいつは階段を背にして俺と対峙している。ようやく獲物を追い詰めたと言わんばかりに醜悪な笑みを浮かべて。

 一人と一人(?)の間を、冬の寒風が通過する。

「……」

 ちらっと左ポケットに視線をさまよわせる。

 かなり危機的な状況だが、正直に言えば、この状況を打開する手段はまだ残っている。

 左ポケットに入れている、護身用の折り畳みナイフ。

 これだけならあいつに勝つことができないかもしれないが、俺の魔導を組み合わせればたぶん勝てる。

 このままでは間違いなく殺される。

 命の危機なんだ。迷っている暇なんてない。


 でも――


 覚悟を決めようとすると、手が震えだした。過去のあの瞬間が頭の中にフラッシュバックする。

 いいのか、と過去の自分が手を引っ張って問いかけてくる。

「はあっ、はあっ……」

 呼吸が荒い。喉はもうカラカラ。

 そんな俺の葛藤もつゆ知らず、そいつはニタニタと笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。まるで、獲物を追い詰めるように。

 徐々に両者の距離が縮まる。

 俺もゆっくりと左ポケットに手を伸ばす。

 そのとき――


「【接続(コネクト)】――」

 

 どこからか聞きなれた声がした。

 俺とそいつはすぐさま声の主を探す。

 その声の主はすぐ見つかった。

 隣のビルの屋上。そのビルは俺たちがいるビルよりも二階分高い。

 そこに一人の少女――紅芽衣が栗色の髪をたなびかせながら佇んでいた。

 彼女が詞を発すると、群青に輝く多数の粒子が彼女を包む。

 群青のドレスを彼女が纏う。

 俺とそいつは、彼女から目を離すことができなかった。

 彼女の詞、彼女を取り巻く粒子を俺は知っていた。

 その詞は、魔導を開始するときに叫ぶもの。自身の内面世界と外の世界とをつなぐもの。

 その粒子は、魔力の結晶。内面世界で起こした事象を他者を含めた共通認識下におくためのもの。

 彼女は、ふちを強く蹴って、屋上を飛び出す。

 赤い薄暮の光に照らされながら、彼女の体が宙を舞う。


「《隔世(かくせ)に住まう(えん)(じゃ)よ。灰も残さぬよう()らい尽くせ》――」

 

 彼女は身を躍らせながら、詞を口にする。

 突如、魔力の粒子が姿を変え、劫火で生成された蛇が現れる。

 その体は人を一飲みにできるほどの巨体で、伝説上の魔物、バジリスクを彷彿とさせる。もはや、蛇と言うより龍、と言っても過言ではない。

 その劫火は、周囲を照らす暮光とは対照的に蒼々と燃えていた。

「ゔっ⁈」

 そいつも彼女の魔導を目にして、危機感を覚えたらしい。そそくさと逃げ出そうとする。

「もう遅いっっ」

 彼女がそう叫んだのと、炎蛇がそいつに襲い掛かったのは同時だった。

 一瞬にして炎蛇はそいつを飲み込み、直径二メートルに及ぶ蒼炎の火柱が天を貫く。


「ゔぁあああああああああああああああ」


 火柱の中央からは、そいつの断末魔が鳴り響いた。


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