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第四部

「鈴木くん。君、幽霊を信じるかね?」

 俄然、デスクワークに励んでいた鈴木に課長の宮部が声をかけてきた。

 基本的に勤務中に邪魔が入るのを嫌がる鈴木だったが、相手が上司だった場合は別だった。

「いえ、信じません。そもそも、僕はオカルトとかそういう類のものは一切信じていませんからね」

 と、宮部課長の質問にも丁寧に答えた。

「それじゃあ、なおさら君に見てもらいたいものがあるんだがね」

「なんでしょう?」

「これを見てみたまえ」

 と、宮部課長が持っていた新聞紙を鈴木に渡した。

 鈴木が新聞紙を広げると、宮部は端の方に掲載されたあまり目立たない箇所の記事に指を差した。


〈怪現象か? 宅配業者がエレベーターで体験した悪夢〉


「それを読むまで、私も幽霊なんて存在するはずがないと思っていたんだ。しかし、そこに載っている岡村という宅配業者の発言文を読んで目が点になったよ」

 と、宮部課長は言った。

 一通り記事の内容に目を通していた鈴木だったが、すぐさまその目が大きく見開かれた。

(石田が住んでるマンションじゃないか)

 記事に記されている怪現象が起きたエレベーターというのが、以前鈴木が訪れた石田が暮らすマンションのエレベーターのことだったのだ。

 それを意識して鈴木は再び記事を読んだ。


〈宅配業者として勤務歴の長い岡村泰さん(三六)さんは、昨日K市にあるRマンションに宅配物を届ける為に訪れた。一仕事を終えてエレベーターに乗り込んだ岡村さんだったが、そのときにエレベーターが奇怪な動きを示し、彼を箱に閉じ込めて異常を起こしたという。当マンションに住む老人が買い物から帰宅すると、扉が開いたエレベーター内部の隅でうずくまる岡村さんを発見した。岡村さんの作業服は汗でびっしょりと濡れ、顔もまるで水の中から這い上がったかと思えるほど発汗していたと老人は語った。その際、岡村さんは老人に向かい、しきりにある言葉を言い続けたという。それは『女が…女が…』と。激しく取り乱しているのを心配した老人は救急車を呼び、岡村さんは病院へと搬送された。一体、彼の身になにが起きたのか? そして、彼がエレベーターで見たと思われる女の正体とは一体なんなのだろうか…?〉


(この岡村という人が言っている女ってまさか…)

 鈴木の脳裏に、以前石田から聞いた例の事件が過った。

 相思相愛だった男女が喧嘩の果て、男が女を刺し殺した事件だった。

 その被害者、足立順子の遺体はエレベーターの中で発見された。

(まさか、本当にあのエレベーターに足立順子の霊が…?)

 と、考えかけて鈴木は頭を振った。

 自他共に認める現実主義が、こんな情報量の少ない小さな記事の内容だけで幽霊の存在を簡単に信じてたまるか、と鈴木は自分に言い聞かせた。

 それでも、岡村という宅配業者がエレベーターで体験した出来事には興味を抱いた。

 鈴木はこの事件の詳細を知る為、終業後に石田のマンションに訪れた。

 当然ながら階段を使い、六階へと向かう。

 石田はとっくに仕事を終え帰宅していた。

「そっちからここに来たってことは、ひょっとして岡村って宅配業者の件じゃないか?」

「よくわかったな」

「それしか思い浮かばなかったからね。今、マンションでもその話題で持ち切りだし」

 と、缶ビールを二つテーブルに置いてから石田が言った。

 石田は蓋を開けると豪快にビールを飲んだが、鈴木は手を付けず持ってきた新聞紙をテーブルに広げた。課長に頼んで貰ってきた物だった。

 空になったビールの缶を置いて、石田はまじまじと記事を読んだ。

「『女が…』っていうのが気になるね」

「で、俺は真っ先に石田から前に聞いた事件を思い出したんだ。愛憎のもつれで男に刺し殺された足立順子のことをね」

「だけど、現実主義を貫いてるお前はこの岡村って人が見た女が、この世をさまよう足立順子の霊だとは認めないわけだろう?」

「認めない。それを証明する為に、俺はある実験をしようと思ってる」

「実験?」

「岡村さんが体験した出来事はまず本当だと思う。でも、それはあくまでエレベーターの不調が原因で、霊的な現象によって引き起こされたものではないだろう。それを超常現象と信じて戸惑った岡村さんが、見えるはずのない女性を見たような錯覚に陥っただけじゃないかと俺は思ってる。なんとか、それを証明したいと思ってね」

「それじゃあ、鈴木は岡村さんと同じパターンでエレベーターに乗るつもりなのか?」

「この手の不可思議な現象を論理的に説明出来る手段となると、自ら実験に参加するのがベストだと思うんだ」

「ふうん…。まあ、やるのは勝手だけど、あくまで友人として忠告しておくよ。あのエレベーターは乗らない方が身の為だと思う」

「なんでそこまで怖がるんだ?」

「単なる予感だよ」

 と言い、石田は鈴木の分のビールに手を伸ばし無遠慮に飲んだ。

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