第7話:神様は貧乳
「うっるさーい!!」
どこから出したのか分からないが、カズサは大声で叫びながら巨大なゴム製ハンマーを頭に叩き込んできた。空中に浮くカズサから垂直に振り下ろされたハンマーの打撃はオモチャとはいえ痛い。
「叩くなよ!美少女になってるんだぞ、俺。少しは喜んでもいいだろ。見ろよ、この服!巫女服らしさは残してあるけど現代風にアレンジされて、ひらひらした飾りが付いてる!下はミニスカートにニーソックスだ!絶対領域って上から見るとこんな感じなんだな」
気持ちよくスカートの裾をたくし上げて片足立ちで一回転。
鏡に映るのはどこから見ても美少女だ。
半袖の服から覗くすらりと細く伸びた腕。
引き締まったくびれに、ほどよい大きさの胸。
身体周りに余裕をもたせた服の上からでも分かる理想の体型だ。
栗色で胸元まで伸びた髪。
白く透き通った肌。
小さい顔に、すっとした目鼻立ち。
この美貌なら、街を歩くだけで芸能事務所のスカウトの名刺が大量に飛んできそうだ。
「可愛いな」
鏡に映る姿を見て嬉しくなり、様々な姿勢を試してみたくなる。
可愛くピース。涙目のぶりっ子。顎に手を当てた麗しいお嬢様。観客に手を振るアイドル。どんなポーズをとっても様になる。
自分とは思えないくらい可愛い!
「それで、俺は自由に動き回ったり、外に遊びに行ってもいいのか!?」
「その格好で遊びに行くなら構わんがの」
洗面台から一歩下り、俺の格好を再び鏡越しに確認する。
所々に白いレースがついた巫女服を模した服装。ミニスカートにニーソックス。光沢のある赤いブーツ。
これはまるでコスプレ衣装だ。外に出たらコスプレイヤーと勘違いされて、芸能事務所のスカウトではなくカメラ小僧が大量に寄ってきてしまう。
「その服は、わしが加護を与えた神装衣。お主がヒラギと話してる間に作ったのじゃ。身体が安定するまでは着ていた方がよいぞ」
「手作りだったのか。これを作るなんてカズサには衣装作りの才能があるな!神様は辞めてデザイナーになったらどうだ。他のコスプレ衣装も作って一緒にイベントに参加しよう」
俺の冗談にカズサは目を細めて呆れ顔をしている。笑ってくれればよかったが、人間界の笑いは天界には届かないらしい。
「ところで、俺がヒラギと話していた暗闇の空間は何だ?音もなく暑さも寒さも感じない変な場所だったが天界なのか?」
「お主がいたのは人間界と天界の間に存在する階層の一つ、虚無階層じゃ。光や音はもちろん、時間の概念すらない。例えるなら、星の光が全くない時間停止した宇宙空間かの。
ちなみに虚無階層には、お主の思念だけ移動したので身体は止まったままじゃった。ただ待つのは暇なので顔に落書きでもしようと思ったが、わしは優しいので服を作ってやったのじゃ」
両手を腰に当てて威張るカズサは胸を反っているが、全くと言っていいほど無い胸は弧を描く弓のようだ。カズサの胸を見ているとヒラギさんが恋しくなってきた。
神様は貧乳で天界人は巨乳。天は二物を与えずと言うが、これでは神に二物なしだ。
「何か失礼なことを想像してはおらんじゃろうな?」
心が読まれたのか、どこからかハンマーを出したカズサが迫ってきた。
「神の怒りをその身に受けるがよい」
カズサは怒り心頭のようで目が釣り上がっている。
また叩かれるのは嫌なので逃げることにした。
空中を素早く飛びながらハンマーを振り回すカズサを避け続けて身体が疲れてきた頃、外から声が聞こえてきた。
「きゃぁぁっ・・・」
金切り声のような女性の悲鳴だ。
聞こえてきた声に驚き、カズサもハンマーを振り回していた手を止め、俺と目を合わせた。
木の上から落ちてきたミノムシに驚いた悲鳴、なんて尋常な声ではなかった。女性が襲われた事件、あるいは事故かもしれない。
俺とカズサは悲鳴の原因を確認すべく、木造トイレの扉から外に出た。
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