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第3話:美少女になりたいと祈った

 手水舎で手と口を清めた後、香鳥神社の最奥に位置する本殿の前に立った。

 二拝二拍手一拝。

 賽銭箱の横に設置されている木の立て札に書かれた神社拝礼作法に則り、参拝する。

 両の掌を合わせ、目頭に皺が寄るほど強く力を入れて目を閉じる。


 ―利根瑞穂(とね みずほ)、中学3年生。男子。明日から高校生になります。


 そして、初めに願った。


 ―明日からの高校生活、平和に過ごせますように


 続けて願う。こちらが本命だ。


 ―どうか女の子に、美少女になれますように


 これほど自分勝手で素っ頓狂なお願いなんて、神様だって聞いたことないだろう。本当はお願いすることが間違いかもしれない。


 ―だが、ずっと想い続けてきた願いだ


 叶えてもらえるなら、叶えて欲しい。

 もう神頼みしか残されてない。

 自分の持つ大事なものを犠牲にしてでもいい。

 今生きている現実世界が書き変わり、俺だけが美少女で他は全員男でもいい。

 俺自身が異世界に飛ばされて美少女に生まれ変わってもいい。


 ―願いが叶ったら奇跡だ


 奇跡と例えるなら、宝くじに近いかもしれない。

 当選確率が100万分の1の宝くじだって、買わなきゃ当たらないし、当たること自体が奇跡みたいなものだ。それだって人間が100万人いたら、当たるやつは1人はいる。

 俺の奇跡みたいな願いだって、もしかしたら叶うかもしれない。


 ―ははっ


 ―奇跡か


 手を合わせ想いを巡らせていたら、思わず鼻から自嘲が漏れた。


 ずっ・・・

 漏れた息と一緒に鼻水が出た。


 今すぐ拭きたいが、手を合わせている最中なので拭くことができない。外が寒いせいで鼻水が出やすくなっている。そろそろ終わりにして帰ろう。


 ―もう、叶うなら、叶え


 ―美少女にくらい、なれるだろう


 最後は少し投げやりになったが、早く切り上げて鼻水を拭きたい気分だ。鼻から垂れて来る前に。


 ―頼むぜ、神様


 思いの丈を神様にぶつけ、ゆっくりと目を開く。長い間目を瞑っていたせいで目の前が白く霞んで見える。本殿を取り囲む木々の間から差し込んでくる陽光が参拝前よりも眩しく感じ、目が痛い。

 暫く外界の明るさに目を慣らすため、瞬きを繰り返していると、薄暗い本殿の中が見えてきた。

 中には何があるのだろう。大きな鏡と白磁の壺、横に置かれた葉の名前を考えていると・・・垂れた。


 鼻水が。お賽銭箱の上に。


 慌ててティッシュを取り出し、お賽銭箱を拭いていると後ろから声がした。


「白昼堂々と賽銭泥棒するなんて大胆な犯行ね」

 突然の声に驚き、鼻水を丸めたティッシュが地面に落ちた。

 声の主を確認しようと振り返ると、巫女服が見えた。飛鳥(あすか)だ。


「まだ鼻に付いてるわよ、鼻水が。お賽銭箱に垂らすなんて、罰当たりね」

 恥ずかしいところを見られてしまった。慌てて鼻にもティッシュを当てる。


「それにしても随分と長いお願いだったみたいね。一体何を願っていたのかしら。目を瞑っていた時間から、高校生活の安全祈願だけって感じでもなさそうだけど。

 さては、お祈り中にうたた寝でもしていたの?立て札には、"二拝二拍手一寝"なんて書いてないわよ?」

 飛鳥は長い間俺の真後ろに立っていたようだが、近づく気配すら感じなかった。


 飛鳥は左手に箒を携え、訝しそうに俺を見ている。

 色白で端正な顔。その顔立ちをより際立たせる二重の目。そこから出る疑いの眼差しは俺に向けられている。


「いつから見ていたんだ。後ろから見ていたのに、俺が目を瞑っていた時間が分かるのか?」

「そんなの分かるわよ。掌を合わせるのに力が入りすぎて、肩周りの筋肉が少し痙攣していたの。当然、その時間は目を瞑っているでしょう。簡単よ」

 どうやら飛鳥は試合中の武術家の如く、俺の筋肉の動きから行動を読んでいたらしい。


 恐ろしいな。大地主の娘で、巫女で、武術まで出来るのか。一体どれだけの要素があるんだよ。付与された要素だけでお腹が一杯になりそうだ。


 その手に持つ竹箒も、持ち手を捻ると中から鋼の刃が出てくる仕込み刀じゃないのか・・・


「ふぅん、この箒が仕込み刀だってこと、よく分かったわね。見破ったのは瑞穂が初めてよ。でも、この秘密が知られたからには・・・」

 そこで話を区切ると、飛鳥は持っていた竹箒の柄を左の腰に当て、右手で柄の先端を持った。やや前傾姿勢になりながら俺に対峙してくる。


 居合いというやつだ。

 やはり武術家だったのか。


 箒の中に仕込まれた刀が抜かれたら、俺は瞬きした瞬間に斬られるかもしれない。

 外の空気は冷たく、寒いと感じる気温だが、飛鳥から感じる殺気で冷や汗が出そうになる。


「なんてね、そんなわけ無いじゃない。冗談よ。

 これは普通の竹箒。他の箒と違いがあるとすれば、特別に京都の竹細工職人にお願いして製作してもらった注文品ってところ。神社の境内に散っている葉っぱの材質や大きさと、使う私の身長から考えて製作されたらしいわ。たしかに使いやすさは折り紙付ね」

 飛鳥は特注品の竹箒を身体の前に持ち替え、居合いの姿勢を解いた。


 冗談にしては見事な居合いの姿勢だった。

 飛鳥の視線は俺の目を捉えて離さず、殺気すらも覚えたので、本気で斬りかかって来るのかと思ったぞ。

 飛鳥、本当に恐ろしい子!


「まぁいいわ、とりあえず参拝するタイミングが今で良かった。少し遅い時間は他の参拝者もいるだろうし、長いお願いだと参拝待ちの列ができてたわ。

 国道沿いにある人気ラーメン店みたいに、列整理のポールを置いたりすればいいかもしれないけど、神社じゃそれも出来ないし。

 それか、お盆と年末に開催される超大型イベントみたいに参拝者には自主的に列形成してもらおうかしら。列の最後尾札も参拝者に回して貰えたら、私は何もしなくて良くなるわ。

 参拝者からのお賽銭も多くなって、箱には溢れんばかりの金銀財宝が・・・

 参拝列の横で弁当売りみたいに御守りと御札を売るのは当然として、今の寒い時期なら温かい甘酒に、暑くなってきたら定番のカキ氷も売らなきゃね。春と秋には何を売るかも考えて、後は仕入れ先の選定と目標売上と利益率も算出してっと・・・

 うん、これは稼げるわね。私のお小遣いも少しは上がるかしら・・・」

 飛鳥は話の途中途中で算盤を弾く動作をして、巫女とは思えない不謹慎な発言をしていた。


 やがて考え込みながら、俺のことは忘れて社務所の方に向かって行った。これから事業計画書でも作成するに違いない。


 しかし、本当に神に仕える巫女なのか?商魂逞しいとはこのことで、これも父親譲りだろうか。まるで商人だ。


 武術家の次は商人か。

 また1つ要素が増えたな、飛鳥。

 ゲームだと武術家や商人の職業は1つしか選択出来ないはずだが。

 それに職業変更するのに神殿に行かなくていいのかよ。複数職業保有で、自由に変更可能ってチートか何かですか。

 ズルくないですか。

 俺なんて男でメイド能力しかないぞ。

 どうしたらいい!


 声にならない叫びは虚しくも他に誰も居ない境内に吸い込まれて消えていった。


読んで頂きありがとうございます!

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楽しい物語にしていきたいと思いますので、感想もお待ちしております!

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