第2話:香鳥神社にて
外に出ると4月の初めにしては肌寒く、本格的な春の訪れには暫くかかりそうな雰囲気だ。
高校入学祝いで母に買ってもらったグレー色のコートを着て、フードを頭に被り玄関を出る。
まだ引っ越してきてから日も浅く、新しい家に慣れていないので玄関で靴を履くのにも戸惑ってしまう。
新生活の始まりだ。
明日から高校生になる新生活が始まる。
高校入学だけでなく日常生活も新しく変わった。中学生の時とは違い、親元を離れた生活だ。
離れたと言っても完全な一人暮らしではなく、父方の遠い親戚にあたる手賀さん宅での生活になる。
親戚の手賀さんというのが、大層な地主であり、電車が3路線も乗り入れる大きな駅の前に広大な土地を所有している。引っ越し初日に駅前に迎えに来てもらったが、駅を出てから家に向かう土地の全てが手賀家のものだと聞かされた時は、ただただ驚くしかなかった。
だが大地主といっても住んでいる本宅は、今の時代では質素に見えてしまう木造平家建ての日本家屋だ。
もちろん家が建っている土地は広く、家を取り囲むように土塀が備えられ、庭にある大池には色鮮やかな鯉が何匹も泳いでいるので、全く質素ではない。
手賀家本宅の玄関を出て、土塀に嵌め込むように備え付けられた木製の通用門を潜り、歩くこと数分。
国道が線路を跨ぐために設置された高い陸橋の裏に、大きな赤い鳥居が見えてくる。
香鳥神社だ。
被っていたフードを脱ぎ、一礼してから鳥居の下を歩く。早朝のせいか、神社の敷地には他の参拝客の姿は見当たらない。
鳥居から神社の本殿までは真っ直ぐに敷かれた石畳。石畳の横には天まで届きそうな御神木が生えており、鬱蒼と生い茂る緑の葉をつけている。
御神木の幹は人が3人位は立ち並んでも入るほど幅があり、地面に張った太い根によって、その巨体が支えられている。
石畳を歩きながら御神木を見ていると、御神木の横から竹箒を持つ巫女さんが現れた。
「あれ?瑞穂じゃないの。おはよう。何してるの?こんな朝早くから、お参り?」
地面に落ちた葉を掃いていた手を止めて、巫女さんが話しかけてきた。
「あぁ、おはよう。明日は高校の入学式だから、その前にお参りしておこうと思ってね」
話しかけてきた女の子は飛鳥。苗字は手賀。俺がご厄介になっている大地主の手賀さんの娘の1人だ。
飛鳥も俺と同じ手賀家の本宅に住んでいるが、家の敷地が広く、部屋の数も多いため、食事の時以外は家の中で会ったことがない。
飛鳥は眩しいくらい純白の白衣を上に纏い、赤色の緋袴を履いた巫女装束。髪型は長い黒髪を後頭部でまとめたポニーテールだ。
身長は俺の顎下くらいの高さであり、ポニーテールの付け根から白衣の襟元までが露わになっているので、朝の陽光に照らされて輝く頸がよく見える。
飛鳥が、なぜ巫女装束を着ているのかというと、手賀家は地主だけでなく代々続く神主の家系であり、娘の飛鳥も香鳥神社の手伝いをしているらしい。
「ふぅん。信心深いのは良いことね。毎日お参りしたら、神様仏様だけじゃなくて封印された古代の魔神とか、地元の精霊が応えてくれるかもしれないし」
「ここは神社だから、神様限定じゃないのか。もしかして本殿の横の宝物殿には魔神が封印された壺とかあるのか!?それに地元の精霊って何だ。地元の友達みたいな言い方だな」
「もしかしたら居るかもしれないじゃない。そこの宝物殿なんか私だって入ったことないから、何が出てくるか分からないわよ。ほら瑞穂、中に入ってお札が貼ってある壺探してみてよ。まぁ、もちろんお札を剥がすのは瑞穂の役目だけど」
いつもクールな飛鳥だが、たまにこんな調子で冗談混じりで話してくる。
「そんな壺があるなら是非ともお目にかかりたいが、一生魔神に憑かれるのは疲れそうだな」
「憑かれて、疲れる・・・はぁ、掃除に戻らなきゃ」
どうやら俺の親父ギャグはお気に召さなかったようで、飛鳥は境内の掃除へと戻ってしまった。
まぁ、俺の目的はお参りなので話を切り上げて貰って構わないが、少し寂しい気もする。
これからお参りする本殿の方を見る。
御神木と比べると一回りも二回りも小さいが、それでも威厳に満ちた木々が本殿を取り囲んでいる。まるで周りの木々が本殿の神聖さを高めるかの如く。
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