第1話:美少女への憧れ
高校入学式を明日に控えた朝。
入学前最後の休日なので長く寝ていたかったが、窓から差し込む朝日に顔を照らされて強制的に起こされてしまった。
起きたはいいが、寒い。4月とは思えない季節外れの寒さを感じ、俺、利根 瑞穂は布団から出れずにいた。
寒さと眠気と朝日の眩しさに抗いながら布団に潜っていると、ある想いが頭の中を巡り始めた。
―いつからだろう、美少女に憧れ始めたのは
テレビで歌いながら踊るアイドルを見た時。
スーパーの婦人服売り場の着飾ったマネキンを横目で見ながら通り過ぎた時。
小学校の体育の時間が終わり、制服に着替えた女子を見た時。
成人式の煌びやかな振袖を着ている女性を見た時。
妹だけ女の子用のおもちゃを買ってもらった時。
きっかけは沢山ある気がするけど、どれかは分からない。その中にある1つかもしれないし、全部かもしれない。
理由を上げればキリが無い。とにかく、俺は女の子に憧れていた。出来ることなら女の子そのものになりたかった。
女の子、特に美少女に!
―だが、俺は女の子になれず中学校を卒業した
別に何もしてこなかったわけではない。
俺は今まで生きてきて、女の子になるため自分なりに努力してきたつもりだ。
中学校に入ってからは部活には所属せず、毎日放課後は家まで走って帰った。暑い夏の日も、寒い冬の日も毎日。
体型を少しでも女の子に近づけるため、腰回りに余分な脂肪をつけないように適度な運動も心掛けた。
初めはアイドル体型を目指したが、生まれ持っての骨格と、成長するに従い隠しきれなくなる男らしさには抗うことが出来なかった。
気づいたら成長期に入り、中学生活が終わりに差し掛かる頃には整列の後ろから数えた方が早くなり、身長は170cmに届きそうになった。
これでは低身長美少女キャラにはなれっこない。
さらば俺のロリっ娘ライフ・・・
女の子になる身体作りを諦めた俺は、次に料理、洗濯、掃除と、女子力を上げるために内面を磨き始めた。
特に力を入れたのは料理で、和食を初め、洋食、中華に留まらず、タイ料理、アフリカ料理まで作れるようになっていた。
世界各国の料理を作り、服に皺が出来ないように洗濯をして、埃1つないように掃除を行い・・・
ここまで出来る様になって、俺は気づいた・・・
これは女子力ではない。
メイド能力だ。
一応断っておくが、冥土ではなく、メイドだ。
夜は墓場で運動会なんてしないからな。
やたらと白いレースがたくさん付いた服を着て、スカート下の絶対領域を作るためにニーソックスを履き、仕える主人のために身の回りの世話をするメイドさんのことだ。
家事をこなすことで、俺はめでたくメイド能力だけ手に入れた。
見た目は完全に男だけど。
今までを振り返ると、女の子になりたい一心で努力した結果、適度な運動と食事制限によって引き締まった身体を手に入れ、家事万能なメイド能力までも身につけるに至った。
―これでいいのか?
―いや、よくない!
俺の望んだ女の子生活はちっとも始まっていない。このままでは健康オタクの家政婦になってしまう。
何も変化がないまま中学校は卒業してしまったが、もしかしたら高校生になったら何か変わるかもしれない。もう少し希望を持ち続けたっていいだろう。
―女の子になりたい憧れを胸に秘め、ずっとずっと願い続けていたのだから
一通り悩んだので、身体にかかっていた布団を思い切り押しのけた。布団で遮断されていた外気の冷たさが全身に襲ってきて身震いする。起きた時から頭を覆っていた眠気は吹き飛ばされ、止まっていた思考回路が働き始めた。
そういえば、近所に神社があったことを思い出す。
なんでも願えばご利益がある凄い神様が祀られていると話には聞いている。
―美少女になれるよう、神にお願いしよう
思い立ったが吉日だ。これ以上寝てはいられない。善は急げと出かける準備を始めた。
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