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第10話:その名は焔狼

 魔物は変わらずじっと立っていた――


 カズサの創り出した白い光のベールが魔物の身体を包み込んでから暫く時間が経過したが、魔物が消えるどころか目に見える範囲では何も変化がない。


「おかしいのう、すぐに魔物なんて消え去ると思ったが、さすがに時間がかかりすぎておる。どこかで何か間違ったかの」

 魔物の顔と対峙していたカズサは心配になったのか俺の隣まで飛んできて話しかけてきた。横目で顔を見ると先程までの自信満々のドヤ顔は消えており、代わりに今は焦り顔へと変わっている。


「もう少しで魔物は綺麗さっぱり消えて、元の世界に戻れるんだろう?戻ったら一緒に大福食べような」

 カズサの不安そうな顔は見たくない。せっかくの整った顔が台無しだ。大好物の大福の話を振ることで励まそうとする。


 もちろん、あんこがたっぷり入った大福を――

 少しでもカズサが元気になればと思い、大福の話題を続けながら頭でも撫でようとしたところ、目の前の魔物の姿に変化が現れてきた。


 魔物を包み込んでいた純白の光が黒く滲み始め、白い部分が急速に黒へと塗りつぶされ始めたのだ。



「なん・・・じゃ・・・」

 目の前で起きたことに唖然とするカズサを無視するように、白いベールは自身の白色を黒に染め上げ、魔物の周囲は瞬く間に漆黒に包まれてしまった。



《ぐぎ、ぐぎぎ、ぎゅるるる》


 白ひとつない漆黒の闇から音が響き渡ってきた。

 まるで獲物を前にした獣が威嚇のために喉を鳴らすような音。その音を聞くだけで全身の毛が逆立つような思いがする。


「まさか今聞こえたのは魔物の声じゃないよな?魔物を消すんじゃなかったのか」

「いや・・・何故かはわしにも詳しくはわからぬが・・・わしの力の方が綺麗に掻き消されてしまったようじゃ」

「カズサの力が消された?白い光が黒に変わったのはそのせいか?」

「うむ、どうやら覆っていたわしの力を丸ごと飲み込んで魔物が目覚めようとしているようじゃな。まったく不快な魔物の力が辺りにぷんぷんと漂ってきておる。じゃが心配することはないぞ、どうせこやつは低位の魔物じゃ。姿を完全に現したところで所詮はつまらぬイタズラ位しか出来ぬわ」

 神の力を飲み込む魔物とは恐れ入るが、心配ないと頼もしい言葉がカズサから返ってきたので少しは安心できる。


 目覚めた魔物はどのような姿なのか、少し考えたが想像するより早く現実の方に現れてきた。



 漆黒の闇の中から見えてきたのは赤い光。対になって2つとも不気味な赤を放っている。やがてそれは魔物の眼だと気づく。

 魔物は黒く塗りつぶした闇の力を全て吸収するかのように姿を現した。


 魔物の目は色がなく燻んでいたはずが、今では横長に切り開かれた真っ赤な眼の中にドス黒い瞳を据えている。鮮やかな赤に覆われた黒い瞳から放たれる眼光は見ているだけで魂が吸い込まれていきそうだ。

 狼にも似た身体を覆う青黒い体毛こそ変わっていないが、毛先には橙色の火の粉にも見えるものが舞っている。心なしか魔物が完全に姿を現してから周囲の気温も上がったように感じる。


 だが魔物の1番の変化は顔だ。

 角。と呼んだ方がいいのか、魔物の額からは鋭く尖るものが1本突き出ている。空想上の生き物のユニコーンの角にも似ているが、魔物の持つ角は黒く、真っ直ぐ生えずにねじ曲がっている。おまけに角を取り巻くように炎が渦状に吹き出して来ている。


《ふしゅううぅぅ》

 黒く澱んだ唇を捲りあげ、鋭い牙を剥き出しにしながら魔物が息をするのが聞こえてくる。しかも牙の間からは息とともに出る炎が見え隠れしている。


 これが低位の魔物なのか?

 どう見てもゲームとかに出てくるラスボスにしか見えない。今にも炎を出して攻撃して来そうじゃないか。


 不安になりカズサの方を見ると、俺と同じようにカズサも不安そうな顔をしている。さっきまでの自信はどこに消えたんだよ。


「これは、この姿は、焔狼(えんろう)じゃ。狼にも似た身体に真紅の眼、額には曲がった角。それに何より炎を吐き出しておる。間違いないじゃろうな」

「私も本で読んだことあるわ、実際に焔狼を見たのは初めてだけど。でもこれ、低位の魔物どころか上級魔神にしか召喚できない使い魔でしょう?普通は魔界でしか存在出来ないはずなのに、なんで人間界にいるのよ。しかも文献にはこんなに大きいなんて書いてなかったわ。これだけの大きさを人間界で維持し続けるには相当な力が必要になるはずよ」

 いつの間にか飛鳥(あすか)まで横に来て話に加わっている。上級魔神とか、使い魔とか何の話ですか。


「わしの力を吸収して利用しているから人間界でも身体を保っていられるのじゃろうな。消し去るつもりがまんまと嵌められてしまったわい。

 巫女の娘が言う通り、こやつは低位の魔物なんかではない。本来は人間界に存在できないほど強力な魔物じゃ。魔界ならいざ知らず、人間界では姿を保つだけでも膨大な力が必要になるからの。

 それに使い魔じゃから召喚した魔神への忠誠心が高いので、こやつのように魔神から離れて独りでいることはないのじゃがな。辺りには魔神の気も感じぬから誰もいないじゃろうし、単独で現れるのは妙じゃのう」

 どうやら魔物はカズサの神の力を吸収して存在を維持し続けているらしい。維持するだけの力が無かったら恐ろしい姿を見なくてもすんだのか。


「って、魔物が完全に姿を現したのはカズサのせい・・・?」

「じゃから、そう言っておるじゃろう!何度も言わせるでない。お主の理解力はどこへ消えたのじゃ。わしの力だけじゃなく、お主の脳味噌まで魔物に飲み込まれた訳じゃなかろうな」

 怒ったカズサは一瞬だけ俺の方を向いたが、すぐに魔物の方に視線を戻した。魔物から目を離したら危険だという焦りが伝わってくる。


 魔物はすぐに襲ってくることはないが、まるで獲物を品定めするように首を動かし目玉を左右に揺らしている。時折、口元から漏れ出る炎が向かってきたらと思うと恐ろしい。

 このまま何もしなければ全員が魔物の業火に炙られて美味しく焼けました、それでは頂きますってことにもなりかねない。まだ俺が美少女になってから一度も楽しんでいないのに、魔物の胃袋に入るのはごめんだ。


「人間の身体を喰うことはないので安心せい。喰われるとしても魂の方じゃから痛みも感じぬぞ。もしかして瑞穂は喰われるのが恐いのかや?ほれほれ〜がおおぉー」

 熊が襲いかかってくるように両手を高く上げ、口を大きく開けたカズサが食べる真似をしてきた。恐いというより可愛い。和服を着た熊カズサ、爆誕。緊迫の中でも冗談を言える余裕はあるようだ。



「しかし、このまま立っていたらやられるのは明白。魔物が呆けている間に封じるとしようかのう。

 ところで巫女の娘よ、どうやら魔物に詳しいようじゃが少しは戦えるかの?わしは、このわしの可愛らしい姿を人間界で見えるようにして大半の力を消費してしまったので全力では戦えぬ。手伝えるなら手伝っておくれ」

 飛鳥に話を振りながら、カズサはオモチャのハンマーを振り始めた。


「私は巫女の娘であってるけれど、ちゃんと名前で呼んで欲しいわね、小さな神様」

 自分の呼ばれ方が気になったのか、一旦つっこみを入れてから飛鳥は話を続ける。

「私も剣術や武術の心得くらいは一応あるけど、少し教わっただけだし戦闘スキルに関しては素人と大差ないわ。どちらかと言えば魔物の動きを止めるとか攻撃力を下げる方の補助スキルのが得意ね」

「ふむ、それで十分じゃ。巫女の娘が魔物の動きを止めている間に、わしが封印を行う。では頼んだぞ、巫女の娘よ」

「だから名前で呼べって言ってるじゃないのよ、ロリ神め・・・」

 小声で悪口が漏れていたように聞こえたが、飛鳥は了解したらしく、巫女服の胸元から道具を取り出した。

 飛鳥が取り出したのは金色の鈴がいくつも付いた赤い漆塗りの棒。たしか神楽鈴といった名前だったはずだ。


「瑞穂、これは持ってなさい」

 道具を鈴に持ち替えた飛鳥が邪魔になった竹箒を急に渡してきた。慌てて箒を片手で受け取るも、箒は竹製とは思えないほどずっしりと重く、持ってるだけでも辛くなりそうだ。本当に仕込み刀じゃないのか。



 飛鳥は姿勢を正し、鈴を構えながら魔物の正面に立つと、棒を強く一振りして鈴を鳴らした。鈴と鈴がぶつかり合い、いくつもの鈴の音が折り重なった音色が響く。


「私は香鳥神社の守り手にして巫女、飛鳥。鈴の音色に導かれし鎮守の力よ、我が呼びかけに応じその力を授け給え!」

 再び飛鳥は鈴を鳴らす。強く打ち鳴らされた鈴の響きが全身に伝わってくる。


 鳴り響く鈴の音に共鳴するかのように、地面から1つ、また1つと淡い色をもつ光の玉が出現し始めた。光の玉は空中に浮かんだまま、ゆらゆらと揺れている。


「これで魔物は動けないはずよ。鎮守の力を使わせてもらったわ」

「ふむ、なかなか巫女の娘もやるではないか。魔結界の中でこれほどまでの力を出せるとはな。それではわしが魔物、いや焔狼を封じるとしようかの」

 飛鳥のおかげか魔物の動きが止まっているように見える。この隙に魔物を封じようとしているのか、カズサがピコピコハンマーを魔物の方に向け、思い切り地面に叩きつけた。


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