真意不明
『 合唱文化祭』、それは所謂歌の祭りである 。
合唱コンクール 、という言葉を聞いた事が有るだろうか 。各学年の クラス別で 歌を歌い 、銀賞 、金賞等を授与する歌のコンクールだ 。
それを 、独自の名で呼び示しただけの安直な行事事である 。こんな事をして何の意味があるのか、意味等は無いと神埼自身は常に思う。
合唱文化祭まで、残り一ヶ月 ────── ...
まずは、クラスで合唱文化祭の実行委員を決める。
毎年、この合唱文化祭の実行委員は大変で過酷だと噂になっており、自ら成りたいと志願する者は先ず居ない、と一年生ながら耳にする程には定評だ。
だから、始めから結果等予想出来た。誰が実行委員に選ばれるのか ...
予想通り、俺だ。 この神埼が選ばれた。いつもは外れる感もここでは当たるのだから笑ってしまう。
何の抵抗も口答えもする事無く、仕方ないという気持ちで首を縦に振る。もし首を横に振るったのなら、そこら辺から愚痴が聞こえてくるのは目に見えていた。
面倒を避ける為にも、大人しく受け入れた。そうせざるを得なかった。
一つのため息が、自然と零れ落ちる ...
「 はい、分かりました。」
自分を指名した特定の人物は居ない、強いて言うなら殆ど全ての人間と言うべきだろう。それを代表するかのように、先生が自分を名指ししただけの話だ。
椅子を下げ、ゆっくりと立ち上がればやる気等まるで感じられない足取りで、彼等の前に立つ。いつもは教師が使う机に両手を軽く起きながら、周りを見回す。
友と話す姿、小馬鹿にする様な笑みを浮かべる姿 ... 色々な表情が見えて仕方が無い。
けれど俺自身は表情何一つ変えずに、作業的に仕事を熟す。次は、女子だ。自分と同じ道を歩む者を、決める必要がある。当然誰も手をあげないのは目に見えたが ... 聞くことにした。
すると .... 、ひとつ。 ひとりだけ、手を挙げていた。真っ直ぐに指先まで手を伸ばし、挙手をしていたのだ。勿論驚くのも無理は無い、自分だけでは無く全員が驚いた。
普段自分を構い倒してくる彼女が手を挙げたのだから。双眸をぱちくり、とさせながらその様子を眺め彼女を只管に凝視すれば 一言言葉を紡ぐ。
「 ... 彼女で、問題の無い方、挙手を。」
と、やはり事務的に。
クラスの全員が戸惑いを隠せてはいなかったが確りと手を挙げていた。彼女自身も確りと手を挙げている。
──── 変わっているとしか、言えない。
笑みを浮かべながら近付いてくるその姿に、不気味さすら感じてしまうのは仕方の無いことだろう。
隣へと歩み寄ってきた 彼女の横顔を至近距離で見つめていると彼女は貼り付けた笑みを解き、口を開く。
「 君とやると、楽しそうだからね。」
... と 。
何がしたいのか、真意すら未だに解けない、明かされない。自らの頭部を掻きながら、ひとつの溜息を吐き、これで漸く実行委員会決めは終わった。
これからは ... 出し物、というよりかは曲名を決めなければならない。この文化祭の様な物は、曲名は自分達で選べるらしい。
各々飛び出してくる曲名のレパートリーを全て聞き取れるわけも無く、聞き取れる各々の曲名を黒板に一つ一つ書いていく。
... ああ 、本当に鬱陶しい。 だるい 。神埼はそれだけを言い残しながらやはり 無表情で疲れきったため息を吐いた。