変わっている一人の女子生徒
こんな言葉を聞いた事が有るだろうか。「 嘘を吐いた人間には撥が当たる 」という一つの信憑性の無い言葉を。
誰がなんの意図でその言葉を作り上げたのかは、誰にもわからない。科学的は根拠も無いだろう。だがしかし、俺は ───── ... その言葉を信じられてしまうだけの不幸に見舞われている。
そう。 だから俺はその言葉を、根拠が無いとわかっていても信じられてしまうのだ。
嘘を吐き、それがばれた時にはもう遅い。いくら言葉を繕おうと一度失う信頼は取り戻せないのだから。そうしてこの俺 、神埼 昂大 は友を失った。
俺の事を、周りはこう言う。「アイツには近付くな」、「嘘吐き昂大」、「友達も居ない陰キャ」。散々な言われようだ。彼もそれを許容している為、近付く人間は先ず居ない ───── 。
何が原因だったのかは、明白だ。嘘を吐く事しかして来なかった、相手の事を考えればそうするしか無かった。言い訳を幾ら言おうとも、無駄な事。彼が嫌われた原因は、高校生特有の恋愛の絡みだ。 無論、彼には想いを寄せる相手は居ない、出来た事も無い。
だが、話を合わせなければいけない状況下は必ずしも訪れる。その状況で、彼は好きな人と称してクラスの人気者の名を、口にした。男子は口を揃えてこういう。
「お前には無理だ、釣り合わない。」
当たり前の、予想も付く発言だ。その通りなのだから。その相手は人気で狙われるのも、当然。かくして自分は、人気も無ければ普通の、何処にでもいる学生のひとり。
虐めの標的になるのに、時間は掛からなかった─── 。
男子の口から、その事が、噂が広まった。とうぜん彼女自身の耳にもそれは届く。... 不運、と今では言えるだろう。ああしておけば、こうしておけば。
後悔してももう遅い。その口にした彼女は、彼に好意を寄せていた。魅力的な部分も無い神埼を好むのは正直変わっていると思った。
その事を、直接相手の女性から聞いた。付き合ってくれないか、と神埼は告白された。
当然、彼に好意は無い。それをしっかりと嘘も何も無く包み隠さずに言った。そうすると彼女は泣きながら一言呟く。
「 ... 嘘つき。」
その言葉だけを残して何処かへと走り出した。
泣きながら走り去る姿を見た男子数人と、女子数人。そして前々から自身を嫌っていた男子が俯き気味に教室を出てくる自分の姿を見たのだろう。その噂が広がるのにそう時間は掛からなかった。
虐めの経緯は恐らくこの様なモノだ。
「嘘つき。」というレッテルを貼られてからというもの、先程説明した通り数人いた話し相手も自分の元を去った。自分が虐められるという危険を避けたのだ。理由がどうであれ、所詮人間は自分が一番可愛いと、大事だと思っているのだと、改めて実感した。
『友』と呼べる人間はもう作らないと神埼、つまり俺は心に誓った。
「青春も、友情も全ては偽善で、存在全てが無価値。」という言葉を、心の底から思い、一人呟く。
友を作らないと誓った事も、他全ての事も、それを悲しいとは思わない、当然の結果だと神埼は自分に言い聞かせる。
たった一つのウソで、相手を泣かせてしまうし、傷付けてしまう。それが身に染みて理解出来る。
だから彼は、今では絡む相手を減らす為に、また傷付けない為に嘘を吐く。吐き続ける。自分を犠牲にしてでも。
だが、そんな彼にも話し相手はいる。完全にゼロとも、ひとりとも言えないが。偶に話す、一人の女子生徒だ。
名は、柊木 柚羽 。唯の構いたがりの女子だ。いつもは明るく振る舞う人気の女子 ... 何故、こんなにも構いたがるのかは自分には理解出来ない。したくない。
だからこそ、徹底的に嘘を吐く。傷つけないように、細心の注意を払いながら。「 近付かないでくれ」と、心の中で呟きを、吐き捨てて。
でも彼女はこういう ───────── 、
「 君はきっと、嘘を吐いている。」
と、確信をつくように話す度に、何度も。