無くしたもの
今日はとても寒い。僕は何かを無くしてしまった。けれど無くしたものが何か分からない。
道行く人に尋ねる。
「ねえ、お兄さん。とても寒いんだ。僕の手袋を知りませんか?」
「手袋?君は手袋をしているよ」
道行く人に尋ねる。
「ねえ、お姉さん。とても寒いんだ。僕のマフラーを知りませんか?」
「マフラー?君は暖かそうなマフラーを巻いてるよ」
道行く人に尋ねる。
「ねえ、おばさん。とても寒いんだ。僕のコートを知りませんか?」
「コート?あなたはとても良さそうなコートを着ていますよ」
道行く人に尋ねる。
「ねえ、おじさん。とても寒いんだ。僕の家を知りませんか?」
「あなたは立派な家があるじゃないですか」
そうだった、暖かい服を着て、大きな家もある。そしてもう、子供では無かった。
私は富を得る代わりに、妻子を……大事な家族を手放してしまった。
今から探しても見つける事は出来ない。