虐待に助けられた忍者
断末魔の叫びが、其処彼処から聞こえて来る。
「ぬしが頭目だな。過ぎたる欲を出さなければこの様な結末を迎えずに済んだものを」
「まっ、待ってくれ! 命だけは……ぐぅあぁぁぁ!」
醜く助命嘆願をするのは西雲水、伊賀衆の末端も末端の弱小『西一族』の頭目だった。
だが、彼は全てを言い終える前に頸部を切られ血を撒き散らしながら絶命した。
「欲に目が眩み、掟を蔑ろにした報いは一族全てで償われた」
「太郎様、奥に牢が御座いました。中に餓鬼の様なガキが居りますぜ」
太郎と呼ばれた男は伊賀衆筆頭五家の一つ神部家の頭目名『太郎』を受け継いでいる、神部太郎小南だった。
「衰弱しきっている上に、痣だらけだな。扱いも知れるな。これならば禍根も残るまい。連れて行け」
小南の一言が少年の運命を変えたのだった。
▽▼▽
西一族を預かる頭目の家の座敷牢には一人の少年が入れられている。
少年の母親は腕利きのくノ一だった。彼女の子という事で、期待を集めて産まれた彼はその瞬間に敗者の烙印を押される事になる。彼の瞳は右目は黒く、左目は青かったのだ。この特徴的で印象に残る瞳は隠密行動をする忍にとって致命的でした。
さらに彼が4歳の時にその母が亡くなり彼の人生は一変してしまうのだった。
頭目預りになった少年は、様々な理由を付けられて暴力を振われる事となる。食事も1日1回、餓死しない程しか与えられなかった。母との思い出を支えに生き抜いた。
そんな生活が一年程続いた時に頭目の上納金の誤魔化しが神部家にバレてしまったのだった。
▽▼▽
「ぬしは名を何と申す」
「無い」
神部の郷に連れてこられた少年は暫く療養生活を送った甲斐があって漸く喋れるまでに回復していた。
「無い事はなかろう」
「名は長に捨てられた。だから無い」
名を捨てるのは郷の罰でも重いものである。
「幼子に酷たらしい事を……何と呼ばれていたのだ」
「……色違い」
少年は瞳の見た目からそう呼ばれていたのだった。
「何たる恥知らずな馬鹿どもか! では、わしが名をやろう。ぬしはわしの子同然だから……小太郎でどうだ」
少年はこの日から小太郎を名乗る事になった。
後に小太郎は新九郎と出会い人生を飛翔させていく事になるのだが、それはまた別のお話である。