「異世界グランダリア生活記(7.5)~だた1つ信じられること。それは“私が今、確かに存在する”という感覚だけだ~」
幼いころ……お年玉をもらうとき、それがとてつもない“宝物”に思えた。
今にして思えば千円とあってもそれは「大事なもの」ではあるが「宝物」というほどではない。だけど、その頃にはそこに無限の可能性を感じたものだ。
駄菓子を買って、ガチャガチャを回して、自動販売機でジュースを買って、小さなアイス屋でソフトクリームを1つ頼む……それでも少し余りがある。
子供の頃は千円札にとてつもない力を感じた。それがいつしか、「まぁこんなものだろう」と思うようになり、「これでは足りないよ」と不満を覚え、「使っちゃってもいいか」と軽んじ……そしてやがては月末の牛丼代を出せずに「やっぱり貴重だわ」と涙を流す。
一枚の紙幣を思うだけでそれだけのことが思い起こされた。私の人生において「お金」というものが、いかに強い存在感を持っていたのかと実感される。
そんなことを考えているとふと、思う。
(人間は……社会、文明というものにお金は必須なのであろうか?)
ずっと昔、石や木の棒で動物を狩っていた時代に金なんか存在していなかっただろう。何か、貝殻とかで取引していたというのは習った気はする。
じゃぁ、金なんかなくたって人間は本来生きていけるはずだ。はずだのだが……今現在、おおよそ発展した文明というものは「お金」を必須として……最も重要な要素として成り立っている。
おかしな話じゃないか。お金を噛んだって腹は膨れないのに……なんら生命活動に直接意味を成さないコレが、どうしてこんなにも大事なのだろう? 発展すればするほどお金の重要性が増すということなら、お金に頼るほどに文明は発展するということになってしまう。それでは人間がお金に支配されていることになるだろう?
そんな嫌気というか、不満というか不安というか……働いていると時折感じることがある。大体給料日の前だとそうなる。
そして給料、とくにボーナスが出ると思うのだーー
(お金って素晴らしいな~。コレがあれば何事も事足りるなんて、なんと便利なものだろう!)
――と。人間なんてそんなものではなかろうか。いや、私が単純なだけか……。
私があの夜――手にした紙幣が力を失ったことを感じてからしばらくして。
目の前で独り、世界に入って語り踊る老人を観ながら考えたことはそんなことと……あとは「異世界なんて来ても金からは逃げられねぇのかよ」ということだった。
人間がどのように文明を発展させるのか、詳細な過程なんてあんまり深く考えたことはない。ただ、どこか交流していく中で「お金」という道具はどうしても出現するものなのだろうか?
なるほど、つまりお金という存在・概念はかなり理に適っているということだろう。要は「言葉」のようにお金・経済とは人間社会の発展に必然と生じる血脈のような流れなのである。いや、言語なく発展する文明もあるかも知れないけど……今更調べようにもここにはウィキが存在しない。というかネットが無いから解らない……などと感じる時点で、かなり私は文明に依存して生きていたのだと思い知った。
最も、こちらにおける言語は私が思うようなものとは少し異なるらしい。というか世界の在り方? ともかく根底からある故郷との違いを感じている日々だ。
魔術や魔法なんてものが日常にあって、怪物みたいな人が国のトップに立っていて……だけど、過去の私なら信じられないような不思議がどれほどあっても……文明に“優劣”などないと今は感じている。
向こうになくてこちらにある、というものは多い。そして同じかそれ以上に向こうにあってこちらにない、というものも多い。
いつだったか……たしか「高度に発達した技術は魔法と変わらん」みたいな名言(?)を聞いた覚えがある。こうして日常に魔法や魔術を見て扱っていると、「確かになぁ」とちょくちょく思う。
昔、文明を発展させるゲームをプレイしたことがある。夜通し熱中してプレイしたせいで課題を落としたが……まぁ、とにかく面白いゲームだった。
そのゲームの中でスキルツリー……とかいう、まぁ「どの能力を上げますか?」みたいなシステムがあって、これが面白い。通常のRPGとかで「攻撃」「防御」「速度」みたいな項目を選択して上げるものがあるだろう。あれを「文明の科学技術」に置き換えたようなものだ。同じプレイヤーでも、選択次第でまったく別の文明になっていく。
本当の世界にプレイヤーなどいないと思うが、そこに人間があるというならば文明は生じて異なる発展をするのだろう。ただ、世界そのものが異なればなんか法則的なものも違ってその差異が際立つ。そういうことだ。
そうした文明の「違い」というものは最初こそ刺激的だったが、今でこそ大分慣れた感はある。それでもたまに驚くこともあるけど……。
そんなことを考えているとふと、思う。
「……どうして異世界にも人間がいるのだろう?」
つづく