【女神マグナリア】―その封印が解かれない理由―
女神は色狂いの恋愛発狂者であった。
彼女は常に男神の心を求めており、常に襲い掛かっていた。
無限なる肉体と精神は疲れもなく、飽きもなく。
男神は拒絶を試みるが、抑えた力では抗い難く。
女神は加減を知らず、途方もない爆発力を男神に押し付けた。
女神は子を宿すことなく、変わりになりそこないが生まれた。
生まれたなりそこないは全部で6つあり、それらは身を隠した。
行為の余波に怯えて、神々の所業をただ畏れた。
同時として、行為による飛沫から生命が生じていた。
男神の片鱗は強く、飛沫しても命を生じた。
それらが人だ。
そんな時空が重なり、ついに男神は困憊して鬱に陥った。
男神は暗い本を創り、自ら内側と外側に錠をかけた。
この堅牢な殻を破る術はなく、女神は本を叩き、絶叫して泣いた。
なりそこないである6体の竜達は一部始終を隠れ見ていた。
愛の行方を失った女神は6つのなりそこないで代用する。
それらは道具でしかなく、彼らは使われて消耗した。
しかし、使用されることで女神の力を少しずつ得ることができた。
これに気が付いた竜の1つは身を犠牲にして積極的になった。
そして得たなけなしの力と、他の兄妹達と協力して暗い板を作る。
そして彼らは女神の不意をつき、囲って無理に本へと押し込んだ。
囲っても反撃で叩かれる苦境に耐え、6竜は遂に女神を封じた。
ただし、最も強く献身的だった竜は死力を尽くし、滅んだ。
最も狡い竜は彼の死に報いるため策を練る。
曰く、“平穏に大事なことは女神を再臨させないこと”。
消耗した竜達の命は尽きかけていた。
自分達亡き後の世界に、誰が彼女の封印を護れようか……。
他の4竜は頷いて彼の策に乗り、女神を封じる制度を構築した。
2枚の暗い板を有象無象で容易い人間共に護らせることにした。
狡い竜は言う、“循環を利用せよ、人に君臨せよ”と。
これに竜の内、最も女神の寵愛を受けていた者が名乗りを上げた。
これこそが祖竜、つまりはブローデン家の祖である。
他の2竜も彼女を補佐するべく転化し、人に紛れた。
彼らはそれぞれスローデン家の祖、ヴェイガード家の祖となった。
神々の封じられた本は並んで地下深くに沈んでいた。
そこを禁断の地とし、決して刺激しないように生命を遠ざける。
再臨を防ぐ計画は完全に思えたが、次第に多くの欠陥が露わとなる。
そうした事態に備えていた者は自身の想定通りに行動を始める。
一方の守護者達は循環を繰り返すうちに血の深みへと紛れていた。
そして彼らが全てを忘却することも、彼の計画なのであろう。
忘却した竜の末裔と支配される人々。
計画を実行する竜と使役される人々。
全ての命は女神に繋がる。全ての命は女神を求める。
人々が争い合うことは必然であり、終わりが無いことも必然。
停滞と終結は淀みを生む。だから続けなければならない。
彼の者を再臨させまいとする意思がある限り……。
人々の争いこそが、この世の永久機関となるのである。
【清純神話/Tier1】―END