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第六話:師は弟子に何を伝えるのか?

「とりあえず、明日までに直しておくから。この時間にあの隠し扉の前で会おう」


「……わかった」


 部品の型をとり、修理に必要なものを把握した後にダンジョンを出たところまでは良かった。

 問題は、餌をあげてしまった子犬のようにユウサリがムイタについてくることだった。

 このままでは寝床までついて来かねない。とりかえず、明日に自鳴琴(オルゴール)を返すからと説得し、なんとか別れることができた。

 ちなみに、従魔となった緑毛玉はツナギのポケットの中でスヤスヤと眠っている。

 

「さてと、さすがに工具が足りねぇな」


 ユウサリと別れてから、自鳴琴のパーツについて考える。

 隠し部屋の工具では、動力部分の加工は流石に難しかった。職人の道具が必要だが。

 クジカタ工房の歯車磨きが高価な道具なぞ持っているわけがない。

 隠し部屋の道具もほとんどが手作りなのだ。


「仕方ねぇ、師匠のとこいくかね」


 ため息を付きながら、迷宮街『ピスティ』の工房エリアへ向かう。

 夜でも工場の煙が上がり続けるこのエリアにはムイタが住んでいるクジカタ工房を始め大小100以上の工房が存在し、職人達をまとめる工房ギルドが存在する。

 そして、日々武器や防具など迷宮の攻略に必要な物が作られていく。

 そんな工房エリアの中心から少し外れた場所にある、一軒の武器屋にムイタは入った。


「お邪魔します」


 扉を開けると、油の匂いが鼻に入る。ショーケースに飾られているのは、神々の紋章がグリップに彫りこまれ、鈍く光る機工銃だった。

 棚には魔石を使った弾丸、銃身に付ける小刃、用途に応じたフレームとカスタムを前提としたものも置かれる。この店は迷宮都市では珍しい機工銃の専門店だ。


「おう、ムイタか。ダンジョン帰りか? ちょうど良かったぜ」


 金属が軋む音に老成された声がムイタを迎えた。


「コルトさん、嫌な音がしてるんだけど……」


「俺のことは師匠と言いな。新品の義足が合わなくてよぉ。ちょっと見てくれや」


 奥から現れた声の主はコルトと言った。顔には深い皺が刻まれているが姿勢は良く鍛えているのがわかる。その右足は腿の途中から生身ではなく、持ち主の魔力で動く機工義足だった。

 

「おっ、やっと新品買ったのか」


 興味深そうに向いたがコルトに歩み寄る。

 コルトが椅子に座ると、慣れた様子で店に置かれている工具箱を取り出して、計測器を取り出す。

 

「材質は、魔鉄鋼か。動力の補助も入っているし取り付けが甘いけど。まぁまぁいい作りだな」


「まぁまぁとは随分だな。迷宮都市『ゼルメン』から取り寄せた高級品だぞ。ただ、なんか動かしずらいんだよ。取り付けの技師はじきに馴染むと言うがな。前使っていたポンコツの方がよかったぜ」


「いや、前使ってたのは流石にもうボロボロ過ぎただろ。ちょっと待ってな……。足首の関節は普通に動くし、ピストンは……師匠。ちょっと膝から先動かしてくれ」


「はいよ、イチチッ、なんかつっぱる感じだ」


「……なまじ高級品だから、感度が高いんだろ。少しのずれが大きく感じてるんだ。調整するから、待ってな」


 魔石からの魔力を測定しながら、バルブを閉める要領で、魔力を絞り調整をする。 

 さらに、部品を緩めてアソビを作ることでゆとりをもたせ。全体のバランスを整える。

 

「こんなもんかな。もう一回動かしてくれ」


「よっと、おっ、今度は痛くねぇ。バッチリだ。流石俺の弟子だなっ」


 立ち上がり、調子を確かめる。鉄の骨格に、ピストンの筋肉。生き物のようにパーツが動き、滑らかに足として起動する。その様子をみて機嫌良さそうにムイタは機嫌よくゴーグルを指先で弾いた。


「よく言うぜ。ところで師匠、前使っていた機工義足は?」


「奥に置いてるぞ。古かったからな取り付けの所から全部変えたぜ……パーツによっては魔鉄鋼を使ってる代物だ。使いたきゃ持って行っていいぞ」


「ホントかよ。やったぜ。それと、工場を貸して欲しいんだ」


「銃の手入れか? いつも例の隠し部屋でしてんじゃねぇのか?」


「今日は別件なんだ。この自鳴琴の修理を頼まれてな」


 ポケットからオルゴールを取り出し、コルトに見せる。

 一瞬にして表情が引き締まり、職人の顔になる。


「随分質の良い自鳴琴だな。金貨10枚はくだらんぞ」


「そりゃ凄い。俺が一生働いたって手に入らねぇや」


「……お前さんが工房ギルドに入ればすぐにでも稼げるさ。あんなクジカタの馬鹿のとこなんて辞めちまえ。俺の所に来い」


「ありがとう師匠。でもダメなんだ」


 表情を変えずにムイタは返す。この問答はもう何回も繰り返している。

 この街では同時に二つのギルドに所属に入ることは禁止されている。

 

 ムイタには夢があった。冒険者になるという夢が。

 冒険者ギルドに入るためには工房ギルドに登録するわけにはいかなかった。

 コルトはムイタの機工師としての腕を見込んで、己の機工師としての技術を教えながらも銃士としての技を叩きこんでいた。二人はギルドが認めた正式の師弟ではないが、それでもムイタにとってコルトは師だった。

 

「強情な奴め、工場は勝手に使いな。だがその前に、稽古だ」


「ゲッ、今日は勘弁してくれよ。ダンジョンで色々あったんだ」


「馬鹿野郎! 新米が何言ってんだ」


 首根っこを捕まれ、引きずられるように工房の裏の射撃場に連れていかれたのだった。

ブックマーク&なんと評価まで!! ありがとうございます。モチベーションがモリモリです。


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