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第五話:人形少女は笑みを浮かべるか?

「ダンジョンに部屋を作ってるの?」


 驚いたようにユウサリが首を傾げる。


「そうだけど、別に珍しくないだろ。おいっ、毛玉大人しくしてろよ」


 乱雑に緑の小さな魔獣をハンチング帽に乗っけると、作業机のスペースを開ける。


「ギルドで作っている所はあるけど、個人では見たことないわ」


「そりゃ、こんな狭い部屋あってもな。しかも一階層だぜ、補給の必要もない場所に、中継場所なんて作らないだろ。ホラ、自鳴琴(オルゴール)を出せよ」


 精密作業用の工具を自分の作業しやすい場所に並べる。

 病的なまでにぴっちりと並べられた工具達は、号令を待つ兵隊のようだ。

 ユウサリが自分の腰に付けていたポーチのようなアイテムボックスからオルゴールを取り出して、ムイタに渡す。


「さてと、始めるか」


 並べられてた工具から、細いねじ回しと鉤をとりだし、蓋を取り外す。

 次に中にある硝子のカバーを傷つけないように、慎重に持ち上げた。

 

「錆びてはないが、ディスクの穴が汚れてんな。これ、いつから手入れしてないんだ?」


「私が父に捨てられてからだから……5年ほど」


 さらっと飛び出した、捨てられたという言葉。

 しかし、そんなことはどうでもよいという風にムイタは作業を続ける。


「5年ね。それにしちゃ綺麗だ。大切に扱ってたんだな」


「……直るの?」


 ユウサリがムイタの肩口から自鳴琴をのぞき込む。顔が近づき、塗れているように艶やかな髪からは、石鹸の香りがした。


「な、直る。ただ、動力の魔石をこいつに合わせるのに時間がかかる。痛んでいる部品も交換したいしな。今日中には無理だぜ」


 胸の鼓動を抑えながらディスクを取り出し、その下の動力部と歯車に工具を差し込みながらムイタは告げる。

 その指先は、淀みなく優しく自鳴琴を分解し、歯車が几帳面に並べられていく。

 肩口からユウサリはその様子を見つめる。


「……綺麗ね」


 小さな呟き、鈴のような声。


「この自鳴琴は、職人の手作りだろ? 歯車に隙間はなく、動力を伝える機工に無駄はない。目に付かない場所にも魂の籠った仕事をしている。俺も、綺麗だと思う」


「違うわ」


「あん?」


 ユウサリの否定にムイタは右を見る。僅か10㎝も無い距離にユウサリの顔がある。

 この距離でも見ても染み一つない肌。取れたての果物のような頬。宝石のような瞳。

 きっとこの先100年見つめ続けても、見慣れることはないだろうとムイタは思った。

 

「……ムイタの指先が綺麗」


 人形のような少女が微かに、本当に微かに口角を上げた。


「バッカやろう! なに言ってんだ」


 頬に熱を感じ、ぶっきら棒にゴーグルの位置を直しながら自鳴琴に向き直る。 

 それからムイタがこの場所でできる修理を終えるまでの数時間、ユウサリはずっとムイタが修理する様子を見つめ続けた。

 

短くてごめんなさい。切りが悪かったのでここで投稿します。続きはすぐ上げます。

ブックマークありがとうございます。励みになります。

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