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第四話:緑の毛玉は、何を知るのか?

 白い少女、ユウサリは感情の読み取れない無表情でムイタを見つめる。

 うっかりするとその真紅の瞳に吸い込まれそうになる。

 首を振って、思考を再開。


「直してほしいもの」


「……これ」


 差し出されたのは小さな自鳴琴(オルゴール)。油まみれの手で触るのは抵抗がある。

 服で拭って、手に取ると、指先から微かな魔力を感じる。手回しではなくて、魔石による機構式。

 外側は木製の簡素な作りだが、留め具や縁のラインなどデティールは美しい。

 広げると、貴重な硝子が使われ内部が見える作りだった。

 ディスク式の様だ。職人による手作りであることは間違いなく、ランタンと違い一朝一夕で直せるものではない。とムイタは判断した。


「魔石を加工して入れてみないとなんとも言えないな。壊れてんのか?」


「……魔石? 入れるとこあるの? 蓋を開けたら音が鳴ってた」


「内臓式だからな、バラして、加工した魔石を入れる必要があるんだ。見た感じ部品は錆びては無いけど、この場所で直せないな。……これを直したいなら俺を上の階に送ってくれ。そうしたら直してやる」


「……わかった」


 クルリと来た道とは逆方向に進む。


「おい、これはお前が持ってろ。そのポシェット、アイテムボックスなんだろ」


 【アイテムボックス】ダンジョンのドロップ品から作られる冒険者の道具。内部に空間が広がっており、見かけよりも多くの物が入る。重量も増加しないという優れもので、冒険者の間で重宝される。


「……うん」


 ユウサリが自鳴琴を受け取りポシェットへしまう。一階層へ戻る道はまるで、ピクニックのように何の障害もなかった。というより、ユウサリの前では三階層から上の魔物なぞ、敵ですらなく。正面から最短ルートを進めるため、普段魔物や冒険者を避けていたムイタにとってはいささか拍子抜けするほどだった。

 ちなみに、道中の魔石はユウサリが興味を示さなかったのをいいことに、全てムイタは拾っている。


 【大通り】まで戻ってくれば後は、ムイタでも道がわかる。ここからは冒険者に見つからないように注意しながら隠し部屋へ行くと、緑の毛玉がお座りをしていた。


「ニャス!」


「……」ムイタが無言で銃を構え、その横に発砲。


「ニャアアアアアアッス!!!」


 命乞いするように、すり寄る毛玉。

 蹴っ飛ばしてやろうか。


「お前のせいで死にかけたぞ!!」


「……ペット?」


「ニャス!」


 ユウサリの問いかけに、そうだと言わんばかりに応える毛玉。


「ちげぇ! こいつについて行ったら、怪しげな奴らに襲われて三階層までいたんだよ」


「……見たことない魔物」


「ユウサリが見たことないなら、下の階層の魔物でもないのか。本当に何なんだお前?」


「ニャアス?」


「いや、疑問で返されても」


 どうやら、毛玉自身も自分のことがわかっていないようだ。


「……懐いているみたい。【従魔】かも?」


「【従魔】? こいつが?」


「ニャス」


 【従魔】ダンジョンが冒険者に与える恩恵の一つ。本来敵であり、試練であるダンジョンの魔物だが、稀に冒険者に付き従うことがある。ボスの死体から骨の兵士が、宝箱の中から馬型の魔物が出て来たという話もある。

 ダンジョンの魔力で作られ、生かされる魔物は、ダンジョンの外に出ることはできないが例外として【従魔】は冒険者からの魔力を貰うことで外に連れ出すことができるという。


「恩恵がもらえるようなことなんもしてないけどな」


 だっこしてー、とすり寄る毛玉を抱き上げる。耳のでかい狐か猫のような見た目。

 緑の毛皮、足先と耳の先は白色だ。目立つのは額にある朱い宝石。

 マジで見たことない魔物だな。


「ニャス!」


「うわっ、ツバ飛ばすな」


 目の前で吠えられ、顔を背ける。

 

 カプッ


「痛ってえええええええええええ」


 耳を毛玉に噛まれる。毛玉を払いのけ機工銃を構えた。

 が、目の前に魔法陣が浮かぶに驚き止まる

 複数の歯車の図柄、その中心には重なる歯車、【シュタール】の紋章だった。

 耳から出た血が一滴、陣に吸い込まれる。

 歯車が回り、収束し陣が消えた。


「……契約できたみたいね」


「【従魔】の契約かよ。……無理やりされた感じだけど」


 限りなく一方的な契約だった。試練を乗り越えた末に与えられる恩恵、自分は何かの試練を乗り越えたのか? 毛玉を見るが答えはわからない。


「ニャ~」


 ピョンと肩に飛び乗る毛玉。

 ムイタはため息を付く。今日は色々ありすぎる。


「とりあえず、行くか」


 ツマミを捻り、隠し扉が開かれる。

 

「そう言えば、お前なんでこの場所知ってんの?」


「ニャス?」


 毛玉は再び首を傾げるだけだった。

読んでくれた貴方に格別の感謝を。

ブックマークありがとうございます。

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