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第三話:ランタンは何を照らしたのか?

 無意識に手を伸ばすムイタ。そして、踊るようにゴブリンを切り伏せた少女は、背負った鞘にしまいそのまま歩き去ろうとする。

 夢から覚めたように、我に返ったムイタが声をかける。


「おい、アンタ!!」


「……」


 少女は止まらない。ここで追わなければきっと後悔する。

 そんな思いに突き動かされて、ムイタは少女に走り寄る。


「ちょっと、待てって!」


 少女が振り返る。そう思った次の瞬間、火の粉が散る。

 首筋に感じる熱気、皮一枚の所に剣が置かれている。

 背負った剣を抜いた瞬間も、振られたこともまったく見えなかった。

 これが、冒険者。神々の試練に立ち向かう英雄。


 俺の『夢』。


「……礼を、言いたかったんだ」


 必死に声を絞り出す。もし必要があれば少女は簡単にムイタの首を落とすだろう。

 真紅の瞳がムイタを見据える。


 あぁ、美しい。恐怖は無かった。ここで死んでもよいと思った。

 それほどに見惚れる。その肌は白磁のように、その瞳は宝石のように。

 瑞々しい唇が開かれる。


「……誰?」


 聞こえた声、本当に人間だったのかとムイタは思う。

 もしかしたら、本当に神様が作った人形なのかもと思ってしまっていたから。


「俺は、えっと、ムイタ。一階層に居たんだが、おかしな男に襲われて気が付いたらこんな場所で、それでアンタに助けられたんだ」


「……そう」


 興味ない、とでも言うように少女は剣をしまい。踵を返す。

  

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここは何階層だ?」


 少女の歩みは止まらず、ムイタは小走りで追いかけながら話しかける。


「……3階層」


「3階層、やっぱそうか。なぁ、頼みがあるんだ。上の階まで送ってくれないか? なんにも持ってないけど、きっと借りは返すから。俺の力じゃ、この階層は一人で戻れないんだ」


「……」


 再びの無視。どうすることもできず、ムイタはただ少女についていく。

 ダンジョンで慣れ合いは死を招く。素人をかかえて進む者はいない。

 しかし、それは相手の都合だ。今一人になればムイタは死ぬだろう。

 階層が違えば、魔物の【位階】も違う。【位階】が違うということは知性すら向上していることもあるのだ。不意打ちが通用するゴブリンも減るだろう。それ以前にゴブリン以外の魔物の相手をする自信なんてない。先程は、考えてなかったがムイタには少女に頼るしか道はない。


「わかった。勝手にしろ。俺も勝手について行くからな。切りたきゃ切れよ」


「……」


 また、無視。ため息がでるがここは一緒に進むしかない。

 それから一時間ほど、ムイタは少女とダンジョンを進んだ。

 出会った魔物の中は、少女が次々と切り伏せていった。

 なんとか少女の背に隠れることでやり過ごす。

 そして、いよいよ少女が下の階に行こうとしたとき。壁が点滅して、当たりの光量が下がった。


 3階層は1階層と違って壁の光量が一定ではなく。薄暗くなることもある。

 少女は、腰のポシェットから魔石ランタンを取り出し。灯を付ける。がすぐに消える。

 コンコンと少女がランタンが叩くが、灯は消えたままだ。


「……」


「おい、ちょっと見せてみろ」


 ジロリと目で牽制。


「……俺は機工師だ。そんで守護神は【シュタール】。ほらこれが証拠」


 ムイタは自分の機工銃のグリップを見せる。そこには噛み合った二つの歯車の図柄【運命と歯車の神シュタール】の紋章だった。

 冒険者は己の獲物に、加護を授けてくれた【守護神】の紋章を刻む風習がある。

 少女は、それがなんだとでも言うように無言でムイタ睨み付ける。


「器用さには自信がある。今は持ってないけど、自分のランタンも自作してんだよ。そいつだって直せるさ」


 部品ごといかれてなきゃな。という言葉は呑み込む。

 野生動物に手を伸ばすように、ソロリと慎重に少女の持つランタンに手を伸ばし掴む。

 できるだけ刺激しないように、少女から二歩距離をとり、座り込む。

 薄暗い為、指先の感覚が頼りだ。


「魔石ランタンか、見かけは高価だけど、雑な作りだな」


 ツナギのポケットから小さな工具類を取り出す。故障が多い機工銃を使うため、簡単な工具類は常に持っている。

 シャツを脱いで、地面に敷き、そこに分解したランタンのパーツを並べる。

 その手際は一切の淀みなく。吟遊詩人が竪琴を演奏しているように滑らかだった。

 白い少女は、しゃがんでその手際を観察する。


「おい、周囲の警戒しとけよ」


「……下階層と繋がる通路に魔物は近づかない」


「話し。できるんじゃねぇか」


「……」


「見てても面白くねぇぞ」


「……」


 再び黙る、少女にため息を付きながら。ムイタは作業を進める。

 分解を進めると、魔石の魔力を光に変換する部品の接触部分に煤があった。

 その辺りの配線を指先でなぞると、一ミリの十分の一ほど大きさの傷を見つける。これが原因だ。

 ランタンの他のケーブルから不必要な部分を切り取り、傷んだ部分と交換し、部品を組み上げる。

 一連の作業はわずか数分ほどで終了した。

 魔石をセットして、指先でつつくと明かりが灯る。照らされた少女は目をぱちくりとしていた。


「直ったわけじゃないぞ。応急処置だ。すぐにダメになる」


「……あなた、なぜ冒険者をしてるの?」


「どういう意味だ?」


「……アナタ弱いわ」


「知ってる」


「……とっても弱いわ」


「だからなんだよ」


 少女の瞳に悪意も侮蔑の感情もない、ただ思いがそこにあるだけだ。

 だからなのだろうか、弱いと言われても不思議と腹が立たなかった。


「……アナタ、名前は?」


「ムイタだ。さっき名乗ったろ。そんで?」


 問いかけに少女は首を傾げる。


「そっちの名前だよ」


「……ユウサリ。」


 ランタンの薄明りの中、二人は名乗り合う。何気ないことが、まるで特別な儀式のようにムイタは感じる。

 

「そうか、ユウサリ。さっきはありがとう。アンタがいなけりゃ俺はゴブリンの餌だった」


「……ムイタ」


「なんだよ」


「アナタに直してほしいものがある」


 運命の歯車は今だ噛み合わず、その時を待つ。

 ただ、その言葉は間違いなく、始まり音であったのだ。

この作品を読んでくれた貴方に格別の感謝を。

ブックマークありがとうございます!!

のんびりですが、しっかり書いていきますのでよろしくお願いします。

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