第二話:機械仕掛けの手袋
ひとしきりユウサリの膝で泣いたムイタが、我に返り顔を挙げると呆れた目でコルトで二人を見ていた。
「……弟子の情事に口を出したかねぇが……若いうちから変わったことをすると癖になるぞ」
「チゲェよ馬鹿っ!!」
顔を真っ赤にして、ムイタが叫んだ。
「……」
「ニャ~」
冗談だ。と笑ったコルトが、使い古された椅子に座りパイプに火を入れ、ルビー膝に乗せて撫でる。
ユウサリは言葉の意味がわからなかったのか首を傾げている。
「今、ギルドの婆さんの所に連絡を入れた。すぐに迎えが来るだろうよ……それで、どうするつもりだ」
赤く腫らした目をこすりムイタは帽子とゴーグルを被る。
「決まってる。俺がユウサリの右腕を作る!」
「……期待」
「馬鹿野郎。機工義肢ってのは、その道の職人が一生をかけて学ぶもんだ、お前の腕を軽んじるわけじゃねぇが不可能だ。嬢ちゃんの腕にジョイントを取り付けられたのもほとんど奇跡だぜ」
紫煙を吐きながら、コルトがそう言い放つとムイタは不敵に笑う。
「『お前じゃ無理だ』なんて、ずっと言われてきた。それでも俺は冒険者になった。ならやってやるさ。少なくとも、【シュタール】は応えてくれた」
ムイタが手袋を外し手の甲を露わにすると、歯車の紋章がクッキリと浮かんでいた。
コルトがそれを見て、驚きパイプを落とす。
「こりゃあ……おい、ムイタ。証明書を確認してみろ」
首にかけていたタグをムイタが取り出し、掌に置くと金属片が波打ち文字を浮かび上がらせる。
『機械仕掛けの手袋:願いをその手に、貴方の誓いは形を持つ』
聖句を持つスキル。英雄の条件と言われる『祝福された恩寵』がそこに書かれていた。
それを見たコルトが目を見張った。
「工作精度を挙げる【手袋】の【恩寵】に聖句がついてやがる。なるほど、テメェが嬢ちゃんの腕を繋げたのはコイツのおかげか。知っていたのか?」
「……いや、ユウサリを運ぶ最中に手を見たら紋章が浮かんでいたから、【恩寵】はあると思ったけど……どんな効果なんだ?」
「知るかっ、シュタールが祝福された恩寵を授けたなんて聞いたこともねぇ。そもそもシュタールを守護神にしている奴が珍しいからな。とにかく、そいつはあまり見せない方がいいな」
「わかったよ師匠」
「ニャスっ!?」
不意にルビーが鳴き声を挙げ、次の瞬間に音も無く扉が開いた。
一同が一瞬身構えるが、そこにいたのはギルド『愚者の酒場』で出会った竪琴を持つ詩人、シジミだった。
「……不用心ですな、ガンスミス。案内役を任されましたのでお迎えに来ましたよ。ユウサリさんは立てますか?」
「二重に鍵をかけてシャッターもしてんだぞ。まったくこれだから冒険者ってのは……。おい嬢ちゃん。立てるか?」
「……(コクリ)」
無言で立ち上がるが、すぐにふらつきベットに尻もちをつく。
ムイタが横でユウサリの左脇に手を差し込んで立たせる。
「片腕が無くて、バランスが悪いんだと思う。脇を閉めてくれ。血も大分出てるからな、なんだったら背負うぞ」
「……問題ない」
咄嗟に体を支えたムイタだったが、その銀髪より香るユウサリの匂いに頬が赤くなる。
しかし、今はそんなことを考えている場合じゃないと首を振り邪念を払う。
「すぐに腕をつけてやるよ。とりあえず、重りをつけてバランスを整えるか……いや、それよりもパーツでアウトラインを整えて……」
「今はそれどころではありません。急ぎますよ、付いてきてください。隠し宿まで案内しましょう」
シジミがマントを翻しブツブツ言うムイタにつかまりながらユウサリと一緒に店の玄関へ向かう。
「おう、ムイタ。気を付けていきな」
「師匠。ありがとうございました。銃の素材の代金は必ず払います」
「へっ、なんだかしこまりやがって。ガキがいらんこと気にすんな」
ヒラヒラと手を振るコルトに礼をして、夜の街へ二人は歩き出した。
すみません。更新頻度はかなり遅いと思います。
ここまで読んでくれた貴方に格別の感謝を。




