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第一話:少年は誓いを口にした。

「……」


 白い髪に紅い瞳の少女が目を開けると、木枠の天井が目に入った。

 魔石ランプの明かりが眩しく、利き腕である右腕で光を遮ろうと右手を挙げる。


 聞こえたのは、油の切れた蝶番のような音。動かない右腕。

 顔を向けるとそこには錆びた鉄の匂い。

 上腕から先に歪な金属が取り付けられていた。

 先からは配線がとびだし、たわんでいる。

 関節部分から先はなく、まるで壊れた人形のようだった。

 

「……」


 少女の脳裏に、戦いの記憶が読みがえる。

 毒により、身体が動けなくなり意識が朦朧とし、凶刃により自分の右腕が切り落とされる。

 

「ああああ……」


 起き上がろうとするも、身体は動けない。

 氷を差し込まれたように、心が冷える。

 パニックになり、声だけが部屋に響く。


「ユウサリっ! 起きたのかっ」


 扉を開けて、煤だらけの少年が部屋に飛び込み、転がるようにベッドに走り寄る。


「……ムイタ、私の腕が……」

 

 無表情な彼女が初めて見せた泣き出しそうな表情にムイタは歯を食いしばる。


「これ、スープだ。ここは、俺の師匠の工房。それなりに安全だと思う」


 ゆっくり喋りながらユウサリの身体を支え、身体を起こす。

 匙を受け取らないユウサリを見て、ムイタは持って来た器と一緒に隣に置き。

 真っすぐにユウサリを見た。

 

「……」


 あの時、ユウサリの傍に入れなかったこと。

 悔やんでも悔やみきれない、自分に何ができたなんてわからない。

 それでも、彼女の傍に入れなかった自分をムイタは責めた。


「ユウサリ、こっちを見ろ。……俺を見ろ」


「……」


 ユウサリはムイタに顔を向けた。

 ムイタはユウサリの右腕を取り、握る。

 金属を部分を触れたとて、ユウサリに感覚はない。


「これは、俺の師匠の義足の接合部分を無理やり繋げたもんだ。今は、動かすこともできないけど腕の神経は生きてる。お前の腕は俺が必ず作る、絶対だ。命だってなんだって賭けていい。だから……俺、お前が剣を振る姿を見て、綺麗だと思ったんだ。あの光景、一瞬だって忘れられない。覚えてる、だから、あの姿を必ず俺が取り戻してやる。約束だ」


 支離滅裂、何を言っているのかわからない。それでもムイタは繰り返しユウサリに誓い伝える。

 ムイタが振れる場所は金属で、ユウサリにそこの感覚はない。

 それでも、なぜか少女は熱を感じた。消えかかった自分の心の炎に何かがくべられている。


「ムイタ……私を呼んでくれた」


 曖昧な記憶の中、泣きながら自分の名を何度も、何度も呼ぶ声を確かに覚えていた。その声が自分を繋ぎとめてくれたことも。


「あぁ、俺が呼んだ。ユウサリを呼んだんだ。俺お前の横に立てる冒険者に成りたかった。でも今は違う、俺はお前の腕になる。なって見せる」


「……泣かないで」


 少年の瞳からとめどなく水滴が落ちる。

 それは燃料となり、少女の心を温める。

 左手でムイタの頬を優しくなぞる。


「俺、俺……思ってたんだ。初めてユウサリを見た時。こんな綺麗なものを作りたいって……俺が、俺のせいで……ユウサリが……」


「うん、ムイタのせい」


 柔らかな声色、少年が顔を上げると少女は笑っていた。

 あまりにも美しいから、ムイタは見惚れてしまう。


「ユウサリ……」


「だから……私を作って」


 頭を垂れ涙を流すムイタの頭を、ユウサリは優しく撫で続けた。

遅くなってすみません。新章始めます。


ここまで読んでくれた貴方に格別の感謝を。

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