第十七話:新たな相銃と相棒の危機
朝日が差し込み工房を照らす、一晩中熱せられた炉の熱は部屋を満たし、少年の周囲には汗が散っていた。
ムイタは作業机に伏せて、眠っている。
「おい、できたのか……茹って死んだか?」
コルトが扉を開け熱に顔をしかめる。
「ふぁ……生きてますよ。これが新しい、相棒です」
ゴーグルを上げ、組み上げた機工銃をコルトに差し出す。
受け取ったコルトは、しげしげとその銃を眺めた。
フレイムリザードの心臓を使ったその銃は、黒い銃身に赤のライン、クルミ材のグリップには【シュタール】の文様が彫り込まれている。
銃身を支えるフレームは太目で、銃全体の剛性を強めるようにしており、中折れ式で回転弾倉がついていた。掌ほどの大きさだった前の相棒よりも単純に大きく、今のムイタで扱える限界の大きさに調整されている。
ユウサリの【恩寵】による影響を考えた、リボルバー。
それが、ムイタが新たに作った相棒だった。
コルトは溜め息をついて銃をムイタの前に置く。
「馬鹿正直にデカくし過ぎなかったのは正解だ。それでもお前が使うには少しデカいがな」
「……今は、俺の手に余ることはわかっています。でもすぐに、扱えるようになります」
「俺は今使えるものを作るのかと思っていたぜ。慣れないうちは両手で撃て。弾に使う魔石の調整に気をつけることだな。……さぁ俺はこれから店を開けるんだ。さっさと工房を開けろ。余った部品も持って出ろよ」
「いや、ちょっとくらい、休ませてくれても……あと、義足も使える部分はほとんど使ったんで、もういらないです。流石に接続部分は使えないし、ここに置いといても……」
「アン?」
「すぐに出ます!!」
ギロリと睨まれ、銃と義足の余りに細々した部品を鞄につめて店を飛び出すと、頭にルビーが飛び乗ってくる。
「ニャスッ」
「お前、部屋が暑いからって外にいたのか。荷物もあるし、ギルドへ行く前に隠し部屋によるか」
今いる場所は歓楽街へ行く前にダンジョンの前を通るので、先に義足の余りや銃のパーツを隠し部屋にしまおうと、ダンジョンへ向かう。
いつもの隠し部屋を開けて、部品を几帳面に並べる。
「ニャス!? ニャニャニャ”」
「ンッ! びっくりした。どうしたルビー?」
不意にルビーが鳴きだし、ムイタのズボンの裾を咥えて引っ張る。
どうやらダンジョン内に連れて行こうとしているようだ。
「ダンジョンなら、ユウサリと合流してからでいいだろ?」
「ニャアアアアアア、ニャウニャリャ」
ルビーの鳴き声はイントネーションが『ユウサリ』であり、それを繰り返している。
「ユウサリがダンジョンの中にいる?」
「ニャン!」
なぜ、ルビーがそんなことがわかるのか疑問だが、とりあえずムイタは信じることにした。
「その様子……ユウサリになんか、あったのか?」
「ニャン!」
肯定。ムイタは、机に置いていた。隠し部屋に置いていた銃弾をポケットに詰めて。
ダンジョン側の扉を開けた、すぐにルビーが走り出す。
「オイっ、索敵しないと危ないだろ!? チッ、俺の方が危ないぜ」
「ニャアアアアアアア」
ルビーについて一階層を走ると、見覚えのある広場につく、そこにはあの時と同じ魔法陣が置かれていた。
「げっ、またかよ。ユウサリはこれをくぐった先なのか?」
「ニャスッ!」
前回はこれを【岩と堅牢の神:グラミドロ】の入れ墨をした男に無理やり突っ込まれた。
それと同じ魔法陣が、また出ている。前回と同じなら三階層へ移動だが……。
ムイタは自分の腕に鳥肌が立っていることに気付く、不意の予感。それは死の気配。
ここが分水嶺となる確信、まだ間に合う。ここで戻れば命は助かる。
そんな考えが頭をよぎる。
【運命と歯車の神:シュタール】による神託だったのかもしれない。
「……つまり、そんだけユウサリも危ないってことだよな」
すでに覚悟はできていた。
あの白い人形少女の横に立つために作った銃を、急ごしらえのホルスターから引き抜き。
歯車磨きの少年は魔法陣に踏み出した。
浮遊感を感じ、微かな落下。
開けた視界のその先には……。
更新遅れてすみません。
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次回:ユウサリを狙う、闇ギルド!?




