第十六話:それは人によっては祈りと呼ばれる。
勢いに任せて走り出したムイタだが、はたと止まる。
「ニャス?」
ルビーがタシタシと頭を叩き、どうしたと訊いてくるが、そもそもムイタには行く当てがなかった。
「うーん、ギルドに行ってもいいけど……その前にコイツをどうにかしないとなぁ」
取り出した愛銃を、ルビーに見せる。
鼻を鳴らして火薬の匂いを嗅ぐ珍獣に苦笑しながらムイタは工房街へ向かった。
辿り着いたのは師匠であるコルトの、工房兼ガンショップ。
「お邪魔します。コル……師匠います?」
「おう、いるぞ」
陳列されている銃を見つめている数人の冒険者がは、ムイタを見ても陳列されている機工銃をみていたが、特に反応は無い。
【猛炎の宴】でのことは、広まって無いようだ。周囲の様子に安堵しながらコルトの前に銃身が割れた銃を置く。
「……。弾は何使った?」
「いつもの、魔石が少な目のです」
「それでここまで割れるかよ。俺が整備した時は完璧だったはずだが?」
「ここで話すのはちょっと……」
人に聞かれるのは不味い。
コルトは、無言で奥に行くように促した。
暇なので、工房の部品磨きをしながら待っているとコルトがやってくる。
「店が捌けたから、来たぞ。さぁ何があったか教えろ」
「あー、どこから話せばいいのか……」
取りあえず、ユウサリのスキルについては伏せつつ(ある程度話したが)【猛炎の宴】でのあらましも含め冒険者になれたことを話す。
「師匠のおかげで冒険者になることができました。ありがとうございます」
両手をついて頭を下げる。コルトがいなければ冒険者になることは無理だっただろう。
才能の無い自分にここまでしてくれたことにムイタは心から感謝をしていた。
「んなことはどうでもいいんだよ、それよりもテメェ。冒険者になって一日で大手ギルド相手に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか。そこまで死にたがりだとは思わなかったぜ。おら、いつまでそうやってんだ、とっとと立ちやがれっ!」
「す、すみません」
物理的な攻撃力を持っているかのような鋭い視線に、冷や汗を書きながら答える。
ギルドマスターといい、この人といい、どうしたらここまで迫力を出せるのだろうか。
コルトはため息をつきムイタを横に立たせ、壊れた銃を分解して見せた。
「ケッ、あの銃弾でここまで銃身がぶっ壊れるのかよ。無茶苦茶な威力だぜ」
「師匠、あのここまでしてもらって、言うのもアレなんですけど……」
「俺の弟子で機工師を名乗る以上、銃は自分で作るもんだ」
ピシャリと言い放たれる。つまり、コルトは自分の作った銃を渡す気はないということ。
ムイタも、元よりそのつもりだった。師匠に教えてもらったのは、撃ち方だけじゃない。
「はい。だから、俺に素材を買わせてください。……すぐには払えませんが、きっと返して見せます」
「ただ返すだけか?」
「倍返しです。俺は、それくらい稼げる冒険者になってみせます」
皺だらけの顔が、笑みを作る。
「よく言った。昨日取り替えた義足も含め、必要な魔鉄鋼をくれてやる。それと、これも使え」
コルトは、ムイタの目の前に両手程ありそうな大きさの、風呂敷で包まれたものを置いて広げて見せた。一見すると岩石だが、それは生き物のように脈打っている。
「これは? 魔物の素材?」
「フレイムリザードの心臓だ。ピスティでは5階層以下で見ることのできる、たまに魔石の他にこんなもんがドロップすることがある。コイツを高音で熱して鍛接しろ、粘りが出て強度が劇的に増す上に、熱に強くなる」
「レアドロップですか? 流石にこれを使うことは……」
あまりの大盤振る舞いに、ムイタは臆してしまう。
まし自分が失敗すれば、せかっくの素材が無駄になるのだ。
「馬鹿野郎っ!! ここまで来て、ビビってんじゃねぇ!!」
一喝。空気が震える怒号が飛ぶ。
「ッ……最高の仕事をします!」
「それでいい。倍返しだ、わかってんだろうな。オラさっさと作れ、予備のパーツも作るんだぞ!」
そう言って、店の方に戻って行った。
両手を付き、床に叩きつけるように頭を打ち据える。
自分に親はいないが、もし許されるなら父のような存在だと、心の中だけでは思う。
ここで答えなければ漢ではない。
ゴーグルを付け直し、皮手袋を付ける。
魔鉄鋼は魔力を帯びているため、素材として扱うにはいくつかの工夫が必要となる。
今回はムイタは、最も職人の技量が必要とされる方法を選んだ。
それは、魔力を通わせてたハンマーで熱した素材を叩き、パーツを成型するといった方法だった。
素材の魔力の流れを均一にし、叩くことで素材の不純物を取り除き強度が増す。
しかし、その分。鋳型を使う成型に比べ、難易度が高い。
銃のような細かい部品が必要になる成型には、不向きと言ってもよかった。
しかし、ムイタはいままで自分が使ってきた相棒のに新たな命を吹き込むにはこれしかないと感じていた。
何時間も炎と向き合い、ハンマーを打ち据える。
それは祈りにも似た作業だった。【運命と歯車の神:シュタール】に届かんばかりにハンマーの音は夜を過ぎ、明け方まで響いていた。
更新遅れてすみません。そろそろ、タイトル回収に動こうと思います。
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