第十四話:未知とは希少価値である。
「走れ、ユウサリ。さっさと、ギルドに戻るぞ」
「……」
「ニャ~」
頭にルビーを乗せ、無表情なユウサリの手を引いてムイタは、中央街から歓楽街へ走る。
夕暮れが訪れ、提灯や電飾が灯された歓楽街は昼間とは表情ががらりと変わる。
人混みをかき分け、迷路のような建物を渡り、昼間に来たギルドへ戻って来た。
中央の大手ギルドであれだけ騒ぎを起こしたのだ、今後街を逃げることも考える必要あるかもしれない。先のことを考えると、頭が痛くなるが今はユウサリの拠点の解除が先だろう、レオは評判と違う傲岸な男だったあんな場所にユウサリを置くわけにはいかない。
「……登録する」
「そうだな、その為に戦ったんだ。もうなんとでもなれって感じだ」
ポケットに入れた、銃身の割れた相棒を触りながら、空いた手でムイタは扉を開けた。
階段を降りると、始め来た時にはなかった鉄の扉が閉まっていた。
のぞき穴から、誰かがこっちを見て扉が内側から開けられる。
「おっ、来たなルーキー。さっそくやらかしたって? 野郎共、問題児が帰ってきたぞ」
鉄製の棍棒を背負った、男の冒険者が声を上げる。
中では8人ほどが酒を飲んでおり、置くの階段からは魔物の素材を運んでいる者もいた。
「そこの馬鹿二人は、さっさとこっちへ来な」
老婆が煙管を鳴らして、二人を呼びだした。
「……(ジー)」
ユウサリがムイタを見つめる。
どうやら、また手続きをしろと催促しているようだ。
「えっと、すみません。ギルマス、ユウサリの拠点登録を……」
「その前に言うことがあるだろ?」
刃のような鋭い双眸が二人を射抜く。
紫煙を吐きだしながら、徐々に増していく圧力を受けてムイタは早々に屈した。
「すみません。ユウサリの仮登録を解除しようとして……えっと『猛炎の宴』で絡まれて……」
「よりによって、あの『炎獅子』のレオと『火蜥蜴』ナシアを相手に大立ち回りだって?」
「耳が早いですね……」
「あたりまえだよ、まったく。このギルドに来るのはそんなのばっかりかい」
圧力がやわらぐ。老婆は髪をかき上げ、ため息を付いた。
聞き耳を立てていた後ろの冒険者達からは笑い声が上がる。
「俺も、前いたギルドで喧嘩しちまってなぁ」「野蛮ねぇ」「いや、お前、浮気したっていうパーティーメンバーに毒盛ったんだろ?」「まったく、平和主義者は俺だけか」「A級パーティーの女に手を出した奴は言うことが違うな」「なんだとテメェ!」「爆弾をソファーに仕掛けたのは誰だっけ?」「ダンジョンになら仕掛けたぞ」「オイラなんて密造酒を作っただけなのになぁ」「それ、魔物の死体で発酵させたんだろ?」
「黙りな!」
老婆の一喝で、場が静まる。
「いいかい坊や、厄介ごとを持ち込むんじゃないよ。『冒険者の鉄則は自分のことは自分で』だ。幸い『猛炎の宴』は今回のことに箝口令を敷いているようだ。表立ってやり返してはこないだろうね。下手に仕返しをして、自分とこのエースがやられたと知られたら面目丸つぶれだ」
なんで、箝口令が敷かれているはずの情報をもう知っているのだろうという疑問をムイタは持つが、ここは黙っていた方が良さそうだと帽子のツバをいじりながら、話を続ける。
「一安心ですけど、その……俺等このギルドを拠点にしてもいいんですか?」
「あん?」
「いや、あんなことしちまって、自分でって言ってもギルドに迷惑が……」
「……燃やせばいい」
「お前なぁ……」
なんでもないという風に言い切るユウサリを見ていると、なぜだか自分が悩んでいるのが馬鹿みたいに思えてしまう。
「ここで、アンタを追い出したほうが面倒なことになるよ。まったく……『白炎』の嬢ちゃん、タグを出しな」
「……」
ユウサリが無言で、タグを差し出すと老婆は煙管を叩きつけギルドの印を押した。
そして、タグを持ってしげしげと見つめる。
タグの文字は老婆の問いかけをはぐらかすように、文字が浮かんでは消えていく。
「フン、読めないか。『猛炎の宴』どうして嬢ちゃんを欲しがったか、それが気になってけどね。まさか祝福された恩寵持ちだったとはね」
タグをユウサリに返し、老婆はユウサリに煙管を向けた。
「フレーバースキルは本人かパーティーメンバーしか確認できないんだよ。嬢ちゃんのスキル名はなんだい? あぁ聖句は言わなくていいよ、それは秘めるもんだ」
ムイタとユウサリは顔を見合わせる。目線で確認し合うがここは話したほうが良いだろうと、無言のままに決定した。
「……【消えない篝火】」
「ユウサリとパーティーを組んでから、機工銃の威力が大幅に上がったんです」
老婆は目を閉じ、しばし考えこみ、座っている安楽椅子を揺らす。
「聞いたこともないスキルだね。……シジミ、英雄譚にそんなスキルあったかい?」
竪琴を持った長髪の男性が、顎に手をあてる。
「私も知りません。そもそもフレーバースキルは大抵が未知のものです。【火と破壊の神:ファオジール】がもたらしたとされる祝福で私が謡うものは【爆ぜる狐火】【火と氷】【沈む悪魔火】ですが、どのスキルも個性と破壊に溢れたものでした。きっと、そのお嬢さんの恩寵も歌い上げるに相応しいものなのでしょうね、フフフ……興味深い」
「どんなスキルにせよ、英雄の萌芽を逃す手はないだろうね。お嬢ちゃんのことは遅かれ早かれ他のギルドにもばれるだろう。その時には強引な手を使われるだろうね。……さっさと逃げちまいな」
「……私は、私の居たい場所にいる」
「だろうね。坊や、男を磨きな」
「俺なんかが、できることなんて……」
「話はここまでさ、ギルドの案内をしてもらいな。シジミ、任せたよ」
「仰せのままに、しかし、その前に……」
「「「「新入りの歓迎会だあああああ」」」」
そう叫んだ、数人の冒険者に囲まれる。結局その日は朝まで酒を飲んで過ごしたのだった。
開けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
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