死生観
高層ビルの屋上は、その景観から解放されており、OLなんかがサンドイッチを食べる様子が伺えた。いつもそこで寝ているものだから、何の仕事しているか分からない男性もいるのだ。
そこに取り分け異質な青年がいた。
――生きなきゃだめでしょうか?
人は何故生きるのかという哲学を考えていた少年は、熟考のすえ死を選んだのだ。
――もはや、僕にとって死は状態のひとつに過ぎない。
彼は犬を飼っていた。相棒とも呼べたその愛犬はつい3日前に天寿を全うしたのだ。老衰である。
大学生になったとき、友の訃報が届いた。
事故死であったという。
――簡単に死ぬんだな。
簡単に思われた死も、少年にとっては不可能なことであった。自死しようとした少年はその迫り来る恐怖に耐えられなく失敗したのである。
『恥の多い生涯を送ってきました』
青年は持っていた小説を読み始めた。かの文豪、太宰治も入水自殺をしたというが彼は怖くなかったのだろうか。
端をみると、生きながられた人間どもが先輩づらして、自分を語っている。
あたかも自分の人生が正しかったかのように振る舞うのだ。
『正しい』とはなんだろうか。
ついこの間、第一子が産まれたと報告を受けた。彼もまたひとりの親として生きるのであった。
しかしながら、その彼は少年期に酷く荒れておりたくさんの人々に迷惑を掛けてきたのだった。
――それが正しい人生なのだろうか。
皆、生きるために仕事をしているという。養う家族が出来てしまったものは、半ば義務感を覚えながら仕事場に向かうのだ。
――勘違いだ。皆、死ぬのが怖いだけなんだ。
死が怖い、死は悪いことと洗脳された人々はまるで生きることが正義であるかのように振る舞う。
「自殺なんかしたら駄目」
――死について考えたこともないくせに。
帰り道に猫が轢かれて死んでいた。
――君も死ぬのか。
川端に埋めてやった。
青年は、弔いはしたけども、涙はでなかった。
――愛犬が死んだときは、酷く泣いたものだ。ついに僕の涙も枯れてしまったのか。
科学者によると世界は11次元でできているらしい。
そう思うと、死んだ彼らも、こことは違う別の次元で生きているだと思えた。
数ある次元のなかで、この世界に執着するのは何故だろうか。
共に同じ次元に生きていたいという想いは、愛そのものではないだろうか。
昼休憩が終わる。OLたちがその高層ビルの中に入っていく。
その青年は読んでいた小説を閉じると仕事場に戻るのであった。