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妄想の帝国 健康管理社会

妄想の帝国 その20 健康管理社会 不健康首都トーキョー・ブレグジット トーキョー抜き健康国家連合樹立

作者: 天城冴

”来る、アレが来る”、不健康国家ニホンの首都にこもる総理と政府の面々。健康警察の主導する国家連合に他道府県が次々と参加を表明する中、かたくなに拒むトーキョーの閣僚たち、そして官房長官は最後の手段を…

増大する一方の医療費削減のため政府はある決定を行った。

“健康絶対促進法”の設立である。健康維持のため、あらゆる不健康な行動、食生活や生活習慣などを禁止するという法案である。個人の権利を侵害するとして反対もあったが

“政府に健康にしてもらえるんだからいいじゃん”

“自分の不摂生で病気になるやつのために医療費を払いたくない”

などの法案賛成の意見が多数あり、法案は可決された。

そして、不健康行動を取り締まる“健康警察”が設置された。

健康警察の活動は次第に拡大し、不健康を生じる組織、企業までが、取り締まりの対象となり、それに伴い違反者の裁判、収容、更生を担う健康検察や健康管理収容所などの組織が作られていった。やがて国民の理解や支持を得てゆき健康絶対促進法関連の組織は次第に権限を増していくことになった。

 健康警察そしてその関連組織は不健康の元はニホン政府そのものと糾弾、新たなる国家連合樹立を宣言、それに呼応したニホン各地の道府県が連合国家に参加。対抗する不健全ニホン政府は不健康で過剰にモノを消費し不摂生な昼夜逆転生活を強いる不夜城、非人間的コンクリートビル林立で有名なトーキョーを本拠地としてこれに対抗する事態となった。



「来る…、アレが来る…」

「総理、落ち着いてください」

「アレが…、恐るべきアレが」

総理は恐怖のあまり目をむいている。失禁寸前だが、すでに総理は暴飲暴食がたたって大人用おむつにかえている。漏れの心配はないが、この間もらったばかりの“最新全状況対応大人用おむつby健康管理組織商品部”の在庫はあといくつあるのか、側近の一人、副長官はためいきをついた。

総理は泣き出しそうな声でつぶやく。

「我々が生み出したアレがこんなことになるとは」

「こういった大勢力になるとは予想は不可能でした。まさか世界、カッコクレンいや米ロ中まで味方につけるとは」

副長官もこの異常事態に嘆く。

「わが政権が国民の社会保障を削るために作りだした健康警察が新生ニホン健康国家連合を作って、政府を倒しにくるとは」


 財界、マスコミなどにもメスをいれた健康警察関連組織はニホン国の不健康の源をついに探り当てた。すなわちニホン政府そのもの。過労死を招く働き方をみのがし、労働者の権利を守る法律を抜け穴だらけにし、あげく自国民だけでなく、ニホンにきた外国人労働者まで奴隷労働。表でも裏でもそれに加担していたニホン政府こそ、ニホンの不健康の元凶。そう判断した健康警察はついに新たな健康国家樹立を宣言した、そして

「“新生ニホン健康国家連合”への参加道府県はすでに45。いやもう県ではなく“信州信濃国 ほうとう山の恵み国”なとと名乗るところも」

「くう、ちっちゃな県のくせに一人前しおって。以前、国際大運動大会やったからってえ」

「総理、あの国、いや県の面積は小さくはありません。確かに産業は派手なものはありませんが、健康警察につかまった収容者の更生の一環として完全自給自足小規模農業を実現し、健康警察の医師らが固有の薬草の栽培を推進したため堅実に成長が見込め」

「国際大運動大会での赤字はどうした!」

「トーキョーのゼネコンが過大見積もりをし、不健全な接待を強制、賄賂不正を要求したからと主張してトーキョー及び政府を逆に訴えております。“トーキョーの官邸と癒着したやつらが接待と称して過食過飲を強制し金を払わせた。またアルコール強要で判断を鈍らせたせいだ”と。なんと少額領収書や、書類の一枚一枚、職員一人一人の証言までつけるという丁寧さで」

「なんでそんな細かいことまで覚えてるんだ!」

「睡眠を十分とり、適度な運動および適切な栄養摂取により脳の働き、および記憶力が飛躍的に向上したようで。すでに県民全員8時間以上睡眠を実現しており、夜型の若者以外は早寝早起きを」

「わーそんな乳母みたいなことを言うな!」

子供のころから最近までだらだら夜更かしで小言を言われている総理にとって耳の痛い話である。

「そ、それにしたってオーサカ、トーキョーを除くほとんどの道府県が参加するとは、ニホン国の偉大さがわかっとらんのか」

「何かにつけ、トーキョーの大企業に有利になる法律ばかりとか、せっかく育てた若者をすいあげるんなら教育費も払えとかいう苦情もありまして。基地負担やらアメリカ迎合政策の農業、漁業、林業の犠牲を地方に強いて、美味しい公共事業費は結局トーキョーに本社のある大手企業が大半をもっていき、地方の会社にはスズメの涙。その不公平のからくりを頭がクリアになったおかげでよく理解できた、これも健康警察のおかげだ、という首長も多くおります。全く余計なことをしてくれたものです。いっそのこと“イギリスみたいにニホンから離脱、トーキョー・ブレグジット”してほしいとも声も」

「なんだとお、トーキョーがあるからニホン国がさかえてるんだぞ。地方の奴等め、その恩を忘れおって」

自らが地方の有権者によって議員、総理という地位につけたことを忘れている総理。

「そのう、総理の地元も参加を決めた地域が」

「わ、私の地元が!最近選挙やらないし帰ってないからか」

「総理のお身内やご友人、ご兄弟やらその関連企業とその他で対立が起きまして」

「ま、まさか負けたのか。そんな馬鹿な、兄の会社はニホン有数の大企業で」

「ですが、近頃は目立った事業もなく、実際“税金投入して潰れさせないゾンビ企業”と揶揄する向きもあり、健康警察健康管理商品部だかに買収されまして」

「あ、あいつら、なんでそんな金」

「健康関連商品は金になりますから。薬や治験のモニターだの被験者だのモルモットだのになる人間は健康警察に捕まった奴等で十二分に賄えており、今や健康警察関連の病院、研究施設は世界の最先端をいっております。NASAやらハーバードやら中国の研究施設からも研究者がきて合同研究も盛んです。自ら進んで最新の治療やら医薬品、健康法の実験台になりたがる連中もいて、研究の成果は飛躍的にあがっているとのことで」

「いっそ我が政府がそういった研究を主導でやればよかったんだあ」

「忖度で世襲の男性医師を増やしたせいため、そいつらが実力もないのに口を出しすぎてマトモな研究がほとんどできておりません。やはり優秀な女性研究者、若い研究者を追い出したのが遠因かと」

「そんなこと言われても。女性や若造に口でも実力でも劣っているなんて、そんなこと認められないってのは、君だってわかるだろう」

わかりません、そんな誤魔化ししたって優秀な女性や年若い秀才に負けて、努力もしないで相手を貶める卑怯なヘタレ男であるという事実は消えませんと言いたいのをぐっと堪え、副長官は総理をなだめる。

「今、官房長官が状況を報告に来られるということですので、しばしお待ちを」

と、副長官が言い終わる前に官房長官が現れた。総理がまわらぬ口で状況を問いただした。

「健康警察の奴等は今どこだ、バ、バコネか、オン、オンダワラか」

「いえ、その、態度保留だったはずのヨンハマ市、ガワザキ市が主導で協議を終えてカンガワ県も“新生ニホン健康国家連合”への参加を決めたと」

「官房長官の地元だろ、なぜだあああ」

「ヨンハマ市はもともと独立志向というか、ギャンブルリゾートにも大反対で。なんとか、それは思いとどまってほしいと交渉にいったのですが。ギャンブルリゾートに賛成したことを咎められまして。わ、ワタクシも支援者に“アンタはトーキョーと外国のやつらにヨンハマ市の財産を売るつもりか、俺たちの町を汚す気か!官房長官になってから、記者にも尊大な態度、取り巻きだけをよせつけ助言も跳ね返す。信念も誇りも健全さもないお前のような心身ともに不健康になった奴は援助を切る、アホ総理のそばで頭も腐ったのか”と罵倒されまして」

と薄くなった頭を垂れる官房長官。

「官房長官、私も同じだ。地元に裏切られ、私の身内は」

「総理のお身内、お友達、お仲間はすでにトーキョーにお着きのようです。健康警察の手を逃れた大企業の方々も。ですが長官、みなさん何故トーキョーに?対策会議でも開かれるのですか」

「フフフ、こんなこともあろうと、私は策を練っていたのだ」

ガバッ

いきなり顔をあげて不敵な笑いをうかべる官房長官。

「不健康がなんだ、享楽と繁栄を享受するトーキョーがあれば、この国はなんとかなるんだ。我々上級国民をなめるとどうなるか、下々のものに思い知らせてやる!」

地味な努力とゴマすり忖度陰謀で成り上がったことも忘れ、いやだからこそ不健全な誇大妄想に取り憑かれたのか官房長官はとんでもないことを言い始めた。

「ははは、我らニホン政府の逆襲はここからですぞ、総理」

「な、なんだね、長官」

「我々が逆に“新生ニホン健康国家連合”の奴等を追い出してやるのです、トーキョーから」

「い、一体どうやるんだ」

「トーキョーの誇る環状ラインで食い止めるのです」

「道路は、そのすでに健康警察のパワードスーツ部隊が進んでおります。チンバ県などは国家連合に参加も考えてますと黙認。あいつら、トーキョーに媚びてたくせに、どっちが勝つか静観をきめてます、他の県も同様。隣のヤンマナシなど積極的に健康警察に協力、ああ田舎だからってバカにするんじゃなかった」

「いや、問題ない。道路が占領されるのは予測済みだ、機動隊が健康警察に寝返るのもな」

いいながら声が上ずっている。

「こちらには最後の、最後だが、最終手段があるのだーあ!」

と、官房長官は机の上のベル、いやボタンを叩いた。

「長官、それは飾りでは」

「ふははは」

ゴゴゴゴ

トーキョーが揺れた。


「くそ、健康警察め、ニホン政府は不滅だああ」

とバッドを振り回すメタボ男性をかわしながら

「だから、交渉にきただけなんだって、なんだってそんな危ないものを、こっちによこしないさい」

諭す健康警察パワードスーツ隊。いかにも重厚な装備だが、軽々と男性をよける。男性はバランスを崩し尻もちをついた。立ち上がるかと思いきや、そのままバッドを放り出して泣き出す。

「お前ら健康警察のせいで、両親は出て行ったんだああ、僕を置いて。母さんは心身の健康がーとかいうし、親父は政府の役人、上級国民だったのに、政府と僕を棄てていったんだよお。だから僕はこうやって10年ぶりに外に出て、健康警察と戦わなきゃいけなくなったんだあ」

隊員は意味不明のことをわめき散らす男性をなだめた。

「ああ、引きこもり対策を利用したのか、ご両親は。いまごろ老親用施設に入居しているのかな」

「ス、ズルい、就職失敗してから、バイトだけしかしてないし。親父が恥ずかしいとか言いやがったから、家にいたんだよお。それなのに今度は健康に悪いとかゲーム時間も制限するし」

「まあ、まあ、君も適切な診断をうけて治療すれば自立できるよ。両親に依存して振り回されたりしないし。君みたいな人はたくさんいるしから安心して。さあこれを飲んで」

と鎮静効果の高い特製茶を隊員がすすめると、男性は素直に飲み干した。

「落ち着いたようだね。この車にのっていてくれ、しばらくしたら出発するから」

男性を促すと黙ったまま、空いている席に座った。隊員が離れようとすると軽く会釈をした。

「それじゃあ」

と言って隊員も軽く頭を下げた。

 別の隊員がその様子をみながら

「さすがにトーキョーだな、まだいるんだ」

「俺たちが来ていることを知って、無意味に殴り掛かってくる連中か。今の生活が変わるのがそんなに怖いのかね、不健康だし、楽しいってわけでもなさそうだが」

「わけもわからず妄想ばっかり膨らませているんだろう。不健全な生活してるし、仕方ない面もある。社会で一度脱落すると置いていかれるんだからな、ニホンの今までの社会自体が不健康だったって」

「あ、うちらの医者が主張する、あの説か。でも本当かもな。だいたい最初は各県をまとめて交渉のはずが、トーキョーがなぜかキレるし。中央政府と一緒にニホン政府を守るんだとか」

「そもそも交渉を打ち切ったのは政府のほうなんだが、なんかなあ。やっぱり、あいつら精神病だよ。他の道府県も首長も呆れてたんだろ」

「ああ、首長の警備のやつと話をしたんだが、“健康警察の言うことも一理あるのに、話を捻じ曲げて解釈なんて、変だよな、都の首長”とか言ってたよ」

「なんか被害妄想って、例のプリオン病かよ、トーキョーの首長も」

「さあ、でも病にかかってなさそうな人たちも、刃物振り回してるし」

「こっちは再交渉を促すために来てるのに、いきなり襲う奴とかいるからな。最初は普通の服で来てたのに途中から危なくて、このスーツ着る羽目になったし」

「はあ、向こうから攻撃してんのに“攻撃された”って妄想ひどいよな、都会の奴等。やっぱコンクリートとガラスと鉄にだけ囲まれてちゃだめだわ。そのうち医療研究チームとかが無機質建築物での精神に与える害とか研究しだすんじゃないの?」

と余裕で談笑していた隊員たちだったが、いきなり強い揺れを感じた。

「うわ、なんだ、大地震か」

「いや、あ、あれは」

「お、おいアレ、地面が、せ、線路が」

トーキョーに健康警察の面々は音の先を指さした。トーキョーでもっとも有名な電車路線、ほぼ円を描く線路のトーキョー環状ラインの線路が地面から音をたてて盛り上がっている。

「せ、線路が地面から盛り上がってるぞ」

「ま、まるで壁だ」

「走ってる電車はどうなってんだ」

さすがに電車は停車している。車両が脱線し、落ちたものは奇跡的になかった。ヘルメットに内蔵されている遠視スコープを覗く隊員がほっとしたような声で

「乗客に重傷者はいないようだ。さすがに驚いてはいるようだが。隊長どうします、救出しますか?」

「我々がトーキョーにむかっていることは、すでに知られている。まともな市民は他の都市に引っ越したか、家でじっとしているか。こんなときに電車に乗っているのは」

「まあ不健康な大企業だの政府にいまだ忠誠をちかう社畜さんとか忖度役人さんでしょうね。助けても感謝されないどころか、逃げちゃいますよ」

隊長の問いに答えたのは健康検察の影の実力者といわれるヨウジョウ。なぜか最前線に出張っている。

「ま、だいぶ上にあがっちゃいましたが、降りられないことはないでしょう。あの陰険官房長官のことだ、ちゃんといざ脱出のときのための階段ぐらいつくってます。自力でどっちかに降りてきますよ」

「どっちかって、まさか内部に降りる気なんですかね。あの壁のなかに。そもそも一体なんであんな壁を作ったんですかね。さっきヨウジョウさんは政府高官がやったことだと」

「まあ、だいたい予測はたててたんですよ。誇大妄想の不健康者がどういう考えでコトを起こすか、ジュウヤクさんたちの研究のおかげでかなり精度の高い予測がたてられるようになりましたがね。しかしこれは最終手段、悪手の一種なんですが」

「どういう手なんです。他所の隊からの連絡ではトーキョーの中心部を囲うように壁ができたと。まあ環状ライン自体が官邸、政府中心部をほぼ中心とした路線ですが…。まさか政府はトーキョーを封鎖するつもりで」

「封鎖というか我々から守る防衛ラインということでしょうね。なんでしたっけあの漫画壁作って外部の巨人から町を守るやつ。それにヒントを得て襲い来る強敵から首都トーキョーを守るための壁、あれがあれば中は守られるとでも思ってるんでしょう」

「はあ?そもそも攻撃はしてませんよ、説得のためにきただけで。第一暴力行為はやってませんよ、獲物振り回す変な奴がでてくるから拘束してるだけで。大半は医療班の判断で治療施設に送ってますけど。第一、空から飛行機、ヘリ、ドローンからで侵入も攻撃もできますよ。それとも上にバリアでも貼ってあるんですかね。石でも投げてみます?危ないからボールの方がいいですかね」

「いや、多分、バリアなどはないでしょう。あったとしてもバリアを貼り続けるエネルギーはどうします?発電所からの送電網はこちらが抑えている。トーキョーに大規模発電設備はありませんよ。せいぜい小規模の自家発電、それも石油が燃料。自然エネルギーもろくにないでしょう。所詮、張りぼての守りです。壁の中に長く籠っていることなど不可能なんです」

「そういえば畑もありませんね。貯水池も。ミツバチやヤギがいるという農園モドキもせいぜいビルの屋上庭園に毛が生えた程度で。中にいる人間が何人いるかはわかりませんが、養える人数は相当限られている」

「そういうことですよ、物資もエネルギーもみな外から、地方からもってくるんです。トーキョーは何をどこに回すか指示するだけで第一次の生産物を作り出すわけではないんですから、物流がとまり貯蔵がつきればそこで終わりです。第一、備蓄のための倉庫だって、ほとんど他県かトーキョー環状ラインの外にあるんですよ。我々を突破して往復できますかね」

「まあ、無理ですね。そうか、生きていくのに最低限必要なものがないんですねトーキョーは。いや札束だの、高級消費財だのは山のようにあるんでしょうが、それだけじゃ生きていけない。飲料、食物の取引ができなくなればどうしようもない。壁はかえって邪魔になる。なんだ、逆効果なんじゃ」

「そういうことです。金をもっているとはいえ、お金が有効なのは取引できる商品があるときだけ、仮想通貨も同じ。モノを売ってもらえなければ何の価値もないんですよ。地位も同じ、あの中に閉じこもっているのは政府関係者や大企業の連中が大半でしょう。部下や社員は、ほとんど拘束したかこちら側についたし、壁の中に降りる電車の乗客の人数もたかが知れてる。甘やかされ不健康なまでに自我が肥大化した連中が自分たちだけでなんとか暮らせていけますかね、命令できる部下もロクにいないのに。だいたい食糧不足になれば地位なんて関係なく争いがおきるでしょう」

「金持ち、高級官僚、議員、大臣といっても非常時には、そんな地位なんの意味もないってことですか。そういう食料をめぐる争いが起こることも考慮しないで壁つくったんですかね?官房長官ともあろう人が、ちょっと信じがたいですが」

「確認したわけではないですが、おそらく官房長官ですね。政府高官がそれだけ病んだ考えをもっていたということです。新型プリオンが暴れだしたのか、それともニホンスゴイネ病が自分スゴイネ病に代わったのか、どっちにしろ、症状は重篤です。その異常行動を止めるものもいない、ニホン政府に巣食った病魔は相当なものですな」

「一体どうするつもりなんでしょうニホン政府の連中は。我々としては再度、新生ニホン健康国家連合への参加を促し、治療が必要ならしかるべき施設を紹介するつもりしたが、交渉をする気すらないし。まさかとは思いますが、本当に攻撃を行うおつもりですか?ヨウジョウさん」

「放っときましょう」

ヨウジョウが淡々といった。

「は?いや、さすがに攻撃はマズいですが、何もせず、このままでよろしいんですか?」

「別に国家連合にトーキョーは絶対必要というわけではないですし。新生ニホン健康国家連合にはほとんどの道府県が参加していますからね。我々が地方再生をかねて更生した収容者を送り込んだ結果、各府県も栄え同時に」

「中央政府を過度にあがめるのがおかしいと気が付いたわけですか。トーキョーにいたマスコミ関係者や芸能人が、いかに自分が病んでいたかを話したことも功を奏した」

「そうですよ、彼らもニホンスゴイネ病の一種、トーキョースゴイネ病にかかっていたわけです。もっとも外交やら国策の負担を長年強いられていたのをオカシイとは感じていたわけですが、中央の人間がどれだけ病んだ状態か、更生後の人々をみて気が付いたわけです」

「近年はトーキョーの状態から逃れるため、定期的に地方に通う人もいましたしね。彼らは自ら病を治そうとしていたのか」

「そういったこともあり、ほとんどの道府県が我々の提案に賛成、または賛成を検討してくたんですよ。トーキョーの中央政府がこんな暴挙に出た以上、返事を保留にしていた各県も参加してくれるでしょう。壁の外に取り残されたトーキョーの市町村も参加にまわるでしょうね。前からトーキョー環状ラインの内と外では不動産価格他格差があって、外の自治体は不満を抱えていましたし。まあオーサカだけはわかりませんがね。それでも国土、国民のほとんどが国家連合に参加することになるんです。カッコクレンに国と同等の権利を認めてもらうには十分です」

「そうですか、でもカッコクレンが納得してくれるんですかね」

「今、ジュウヤクさんたちがカッコクレンの議場でニホンの抱える病についての研究を発表したそうです。続いて国家連合樹立が成功すればカッコクレンのニホンへの武力介入は無用であると説明しています。先ほどのメールによると上手くいきつつあるようですね」

「ジュウヤクさんの研究って、あのニホン政府、財界、マスコミなどがいかに心身ともに病んでいるかというアレですか」

「そうです、病んだ政財界を放置して世界を戦禍に巻き込むに新生ニホン健康国家連合を作って健全なニホン再生を目指すという我々の目的に根拠を与えるためのものです。熱心に研究してましたからね、ジュウヤクさん。説得力はそれなりにあるようですね」

「私もちらっと要約みせてもらいましたけど、わかりやすかったし、成功するといいですね。我々としてもカッコクレン軍が来るような事態は避けたいですし。とりあえず、いったん帰るということですね、では皆に連絡します」

隊長が他の隊や隊員たちと撤収の準備をするのを眺めながらヨウジョウはふと。

(まあこんな壁をつくって自我たるニホン政府を守るとはまるで引きこもりさんですねえ。やはり健康には程遠いですな、しかし…)

思い出し笑いをした。

(国民の不健康を責め立て自己責任と主張して政府が作った我が健康警察が彼らの不健康政府を追いやり健康国家をつくることになるとは、皮肉なもんですな)

そびえたつ壁の上の車両から、のそのそと人が出てきはじめた。彼らはどちらに降りるのだろうか?今にも熟れて腐り堕ちる寸前の享楽の妄想帝国の元首都か、できたてほやほやだが健康健全な新生国家連合か。人々が迷いながら降りるさまをヨウジョウはのんびりと眺めていた。


今回で、妄想の帝国 健康管理社会 シリーズはいったん区切らせていただきます。おまけとして、国家連合の?年後、トーキョーの壁にこもった方々のその後を2-3話にわけて発表予定です。

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