閉店④
「『ダークイフリート』が現れた」。
真っ先に驚いたのは何を隠そう俺だった。
「もうダークイフリートが出てくるのか。思ったよりもずっと早かったな。」
思わず口に出した俺に突っ込むのはクォーダ。
「な~んで仕掛けたご本人様が驚いてんだよ。」
「いえ、俺の知っているラストダンジョンとは全くの別物ですよ。さすがにもう少しマイルドな中ボスが設定されていると考えていたんですが・・・」
「しゃんとしろ、しゃんと。ほれ、始めるぞ。」
「丁度退屈していた所ですし、問題ないでしょう。」
「いいわ、私がやるそろそろ如月さんにも私の戦いを見て頂いた方がいいでしょう。いきなり見せてびっくりさせちゃったら悪いですもんね。」
何か奇妙なことを言うな、と。蓑口さんの戦いなら多少なりとも見てきたはずだが。
「蓑口さんの戦い方って、魔法で攻撃したり、回復したり―ですよね。」
「まぁ、そうなんですけれど、見て損はないでしょう。ただし少し後ろに下がりましょうか。巻き添えを喰らいますよ。」
運び屋までおかしなことを言い始める始末。通常戦闘、闘技会を通じて、初めて蓑口さんが先頭に立った。
ちなみにダークイフリートは幻獣種という特別なモンスターで、その属性は炎ではなく黒炎。魔界からの使徒、ダークイフリートがどれほどの強さかというと、俺は60階付近の中ボスとして配置しようと考えていた。その強さを知っているからこそ先頭に立たせる訳にはいかない。
「蓑口さん、下がっていて下さい。あのモンスター、強いですよ。俺達が前に出ますので、後方支援を―」
話し掛けている最中にグイっと肩を引っ張られた。
「下がるのはお前で、俺達だ。さ、ケガしたくなけりゃ、引け。」
そう言うと、らしくなくさっさと後ろに引いてしまったクォーダ。
「しかしですね。」
「大丈夫ですよ、如月さん。彼女、強いですから。それと、蓑口も如月さんに見ておいてほしいんですよ、幻獣使いの戦いを。」
「げ、げんじゅうつかい・・・?」
「はい。蓑口の前職です。」
ホークブリザード、ダークフェニックス、アイスクイーン。
我が目を疑った。召喚された3体の幻獣に肝を潰しただけではない。蓑口さん、目の前の幻獣使い―遥か昔に消滅したジョブ、封印された職業のはずだが、現に俺の眼前で確かに幻獣が召喚された、空いているモンスター枠に。そういうことか、仲間モンスターを勧誘しない理由が判明した。そして、そんなことはどうでも良くなった。一体何を怪しんでいたのか。モンスターブックの穴埋めは正真正銘、蓑口さんの個人的な趣味だったか。圧倒的な強さを誇る幻獣を召喚する条件が仲間モンスター枠を空けておくことであれば、わざわざ育成することはない。数の差もあり、幻獣同士の戦いはすぐに勝負がついたのだが、見入ってしまった。カッコイイ・・・・・・
「凄いですね!蓑、口、さん・・・?」
あれだけの幻獣を召喚したのだ、マジックポイントの消費も激しいのだろう。肩で息をしながら、蓑口さんはその場に座り込んでしまった。
「蓑口さん、大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと張り切りすぎちゃいました。えへへへ・・・でもマジックポイントが減っただけですから、大丈夫です。」
「アイテムを使いましょう。マジックポーション―」
「いえ、節約、節約。この帽子で。」
そう言って、ひょいと帽子をかぶった蓑口さん。彼女の呼吸が整うのを待ってダンジョン探索を再開した。
野郎3人が横一列に並んでダンジョンを進む。紅一点の大賢者をかばうような陣形。男だけでちょっとしたお喋り。話題は今し方目にした召喚獣について。
「蓑口さんは他にも幻獣を召喚できるんですか?」
「ええ。他にもドラゴンとか巨人とか。もっとレベルの高い幻獣も召喚できますよ。」
ということは、もっともっと蓑口さんの負担が増えるのか。可能な限り避けたいところではある。
「凄いですね・・・ちょっと怖いくらいですよ。・・・・・・ところで、蓑口さんのかぶっているあの変な帽子は何ですか?」
ダークイフリート戦後から身につけている帽子。お世辞にもセンスが良いとは言えない。あまりに奇抜。絶対に蓑口さんの趣味ではない。色は目にも鮮やか、黄色に近いオレンジ色。蛍光塗料でも擦り込んでいるのか、目がチカチカする。形状は先の尖ったトンガリ帽子。そして最大の問題がその模様。至る所に様々な大きさの「目」が描かれている。何かもう呪われそうで―
「弱点を上げるならばMPの消費量ですかね。今回の幻獣で言えば、アイスクイーンなんかは300位のMPが必要だったはずです。」
「1体の召還に300ですか・・・」
それに見合った実力は見せていたが、最大値の約3分の1。
「ですから、現在、蓑口のマジックポイントはほとんどすっからかんのはずですよ。」
「馬鹿め。張り切りすぎだ。」
「そこであの『不思議な帽子』が登場するわけです。防御力は期待できませんが、1歩ごとにMPが1回復します。」
「へぇ~、いいですね。戦闘では少し休んでいてもらえば、いずれ全回復できますね。」
「そう・・・ですね。」
「まぁ・・・な。」
ただ、あまりにも見た目が滑稽で―3人揃って後ろを振り向く。そしてすぐに向き直る。やっぱりダサい。ニタニタしたり、ぷぷっと吹き出したり、唐突に咳払いしたり。
「ファイア・・・」
野郎3人の尻に火が付いた。




