勇者撲滅計画➅
どんな品揃えにしようか。商品の品揃えを考える際にはターゲットをイメージしなければならない。どんな客層が来店するのか。男性が多いのか、女性が多いのか、年齢層は、客数の増える時間帯は、など。尤も一般的な店舗の場合。今度の万事屋うどんこの立地は特殊も特殊である。
ラストダンジョンの地下30階。魔王城のイベントをクリアして真の目的地であるラストダンジョンに到達したとはいえ、その最序盤。まだまだひよっこ。ラストダンジョンにおいては初心者に近い冒険者が客層の8割を占める。その客が何より優先して欲するものがマジックジュエルだ。ラストダンジョンでは駆け出しと言ったが、強者には違いない。マジックポイントさえ回復できれば、あとは魔法でどうとでもするだろう。
次いで妖精の粉。魔法ではどうにもならないのが武器と防具の耐久度。防具については回復方法をまだ明かしていないが、武器の回復はこれに頼るしかなかろう。いずれどこぞのパーティが発見するだろうから先に記しておくと、仲間モンスターが耐久度を回復する特技を有する。武器だけ回復できる奴が2体、防具だけの奴が2体、両方回復できる奴が1体。仲間になる確率は高くないが、是が非でも引き入れたいだろう。それまではアイテムに頼らざるを得ない。品揃えとして絶対に必要である。品揃えとは店が考え自由に変更可能ではあるが、高い需要があるにもかかわらず供給しなければ店の評価は下がるばかり。それが絶対に品揃えの必要な商品。
マジックジュエルと妖精の粉はラストダンジョンの万事屋における定番商品となるだろう。う~ん、定番商品とはちょっと異なるか。客の欲しい者が100パーセント分かってしまうという状況があまりに特異。
少々話が脱線するが、定番商品とは何だろうか。基本商品と呼んでいるかもしれない。その分類におけるもっとも一般的な商品、もしくは商品群。その分類を扱う一般的な小売店であれば置いてあるべき、品揃えされていないということが許されないアイテム。原則、分類内の販売順位は上位で、幅広く認知されている。 道具屋の定番と言えば薬草であり、毒消し草となるのだろうか。けれども、地下30階でこれらを売っても99パーセント売れない。それならば品揃えをしても無意味だ。店を見直す、品揃えを見直す、発注を見直す、陳列を見直すことができるか。時間に追われる店舗にとっては難しい所だ。納品されたモノが棚に並ばない。小売業に携わったものならば1度は経験があるだろう。新しい商品が納品された時、送り込み商品のある時など。陳列できる場所には限りがあって、納品予定は事前に分かっているにもかかわらず、である。
昨今、商品のライフサイクルは非常に短い。そしておそらく、今後も極端に伸びることはないだろう。これ以上短くなるというのも想像できないが。新商品として発売されても翌週、翌々週には無くなっていることも珍しくない。売る側が売り切り終売を前提に発注、陳列しているとそうなる。絶えず新商品を取り込み、クルクル、クルクル入れ替えることで飽きに対応し、目新しさを出そうと奮闘する。
限られた陳列スペースで新商品の展開を考える小売り側。新しい商品を開発、発売し続けなければ生き残れないメーカー側。共に動き続け、考え続け、生み続けることで生き残ることができる。何でそんな効率の悪いことを、そんなことしなくても生き残れるのではないかと思うかもしれない。しかし、独断によって単独でこのサイクルから離脱したら、もう戻って来られない。
そんなお店の中で不動の存在。入れ替わることのないモノが定番商品である。基本の品揃えとして店に並んでいる商品だ。誰もが知っている最も一般的なアイテム。店舗を構え、その分類を扱っている以上は必ず品揃えとして要求されるモノ。それが思考を固定させる。時に、柔軟な経営判断を妨げる。品揃えとして正解がほとんどではあるが、多くの場合、そこで思考が止まっている。果たして、定番商品はそれでなくてはいけないのか。理由は?代替品でより良いモノはないのか。代替品による自店のメリットを考えたことがあるか。店から提案しているか。お客様の為に、を言い訳、良い訳に使っていないか。思考を省く術としていないか。店の主張を、店主の声を、我々の意思を殺してはいまいか。




