交渉⑤
「俺のジョブは道具屋だ。」
胸を張って堂々と、政樹の質問に答えてやった。
「淳ちゃん、道具屋さんが来る場所じゃないよ、ここは。帰った方がいい。外の4人も連れてね。」
別に驚きはしない。それと、余計なお世話だ。
「政樹。魔王がお前じゃなければ俺だってこんな所に来たりはしないさ。来たからには、はいそうですかと帰る訳にはいかない。俺が勇者一行に頼んでお前に会いに来た目的はひとつ。お前を魔王の座から引きずり降ろす為だ。大人しく俺の言うことを訊くんだ。」
ようやく緊張が解けてきた。政樹と面と向かって話ができる心の余裕が生まれた。政樹の表情の細やかな変化やちょっとした動き、声質の変化も敏感に察知することができた。集中力は普段以上だ。
政樹の返答が悲しげな声で帰ってくる。
「淳ちゃん、それはできないよ。」
「なら、力尽くでも辞めさせる。」
「残念だけれど、道具屋さんではどうにもできない。分かるでしょう。それと、外で待っている4人も。淳ちゃんの友達でしょ、傷つけたくないんだ。僕との力の差は歴然。護衛軍に体力を削らせるまでもない。僕ひとりで十分だ。」
伝説人が控えていることに感付いていることは別に驚くことじゃない。魔王ならそれくらいは朝飯前だろう。それと運び屋達が勝てないといったか。それははったりだろう、政樹。道具屋会議で聞いたのだ、小田爺に、伝説人はどれくらい強いのかと。爺は答えたよ。魔王ですら圧倒できてしまう程の実力を身に着けている。ラストダンジョンの攻略も伝説人であれば可能だと。4人が、そして絶対的な知識の持ち主である小田爺が、俺の心の支えだった。
憐れむように政樹が言う。
「小田のお爺さんからは何も訊いていないんだね、そりゃそうか・・・」
・・・何・・・・・・なんだと・・・!?
何て言ったのだ?小田のお爺さん。小田爺のことか。小田爺を知っているのか。そうか、小田爺も有名人なのだな。何十年遡るかは知らないが、若かりし頃、世界に平和をもたらしたパーティーの一員だったのかもしれない。柳の大先輩にあたる勇者といった所か。
「なら、僕から説明してあげるよ。」
「政樹、同一人物かは分からないが、お前も小田爺を知っているのか?」
「うん。知っているも何も、小田のお爺さんは護衛軍のリーダーだもの。」
「なっ・・・」
言葉を返すことができない。政樹の言葉を脳が消化することを拒否している。小田爺が魔王直属部隊の幹部だと言っているのか。
「少なくとも淳ちゃんよりは小田のお爺さんとの付き合いは長いね。よし、じゃあ、小田のお爺さんの話から始めようか。」
俺はいつ、どこから、誰に、踊らされていたのだろうか。
単刀直入に、小田爺は魔族だという。嘘か偽りと明かす術はない。俺にできることは話を訊くことだけ。魔王さんの言うことにゃ、小田爺は政樹の手下なのだと。ただし、勇者達が戦う一般的なモンスターとは異なる。異なる方法で魔王に貢献しているそうだ。魔王の教育係もその役割のひとつ。今はその役目を終え―
俺も言葉を返す。小田爺によって勇者一行が得することはあっても、不利に働くことはなかったと。勇者に対してだけではない。道具屋が新しいアイテムを制作できるよう様々な助言をくれた。こちら側の人間に決まっているではないかと。
「淳ちゃん、この世界はね・・・勇者と魔王が共存して初めて成り立つ世界なんだ。」
何を偉そうに語り始めるのだ。魔王の持論に、はい、そうですかと納得するはずもない。外の世界のことは俺の方が知っているはずなのだ。俺が、勇者と共に生きてきたのだ。
「違うぞ、政樹。勇者一行は日々命をかけて、世界に平和を取り戻す為に戦っている。お前を前にして言うのもあれだが、モンスターを倒し、魔王を滅ぼす。共栄共存なんてことはあり得ない。」
断言した俺に対して、今度は魔王がかぶりを振った。何も分かっていない。何も知らないんだよ、淳ちゃんは、とでもいいた気だった。
「どう説明していったら分かり易いかな。僕は淳ちゃんと違って、人に教えたりするのは得意じゃないから・・・」
「心配しなくていいぞ。疑問があれば遠慮なく質問してやるさ。」
「うん、それじゃあ始めるね。」
こうして、魔王様から直々に解説を頂くことになった。




